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とんでもねぇケモーナーが営む追放先輩ブリーダーの異世界牧場物語その②

「……そうですか」

「はい、ですが遠路はるばるきていただいているので、なんなら牧場体験でも学んでいきませんか?」

「……いいんですか?」

「えぇ、これもいずれ事業の一環に取り入れようと思ってますので」


 …………まじか、経営学の方も学んでるんじゃないかこの子。


「ではせっかくなので、体験させてもらってもいいですか?」

「はい! それでは今から交渉相手ではなくて、お客様として犬神さんとそちら、お嬢様を迎えさせていただきます」

 クルルギさんは、そういうと笑顔で俺たちにミルクとビスケットを出してくれた。


 久々に食べて、飲んだ乳製品は脳が蕩けそうな程うまい。

 牧場で飲む牛乳のそれに近く、絞りたて独特のフレッシュさも相待って普段飲んでいた牛乳よりも美味しく感じた。


「これはうまい。確かに、日本人でも一般的にこんなミルク毎日飲んでる奴なんていないな……」

「ご主人。あの動物の乳なのか?」

「そうですよ。お嬢様。体に良くて、すぐに身長も大きくなれますよ」


 普通の会話なのだが、ガルンは目を丸くして、瞳孔を開くと、再びミルクをがぶ飲みした。


「そ、それは本当なのだな! ボ、ボクはもっと大きくなって、ご主人のお役に立ちたいのだ! それに人間の雄は胸が大きな雌が好きなのだっ! ボクも早く大きくなってご主人に求められる存在になりたいのだ! 本当にこれを飲めば、体も胸も大きくなれるのだな? 嘘だったらボクも流石に怒るのだっ! この乳とサクサクしたお菓子、お代わりしたいのだ! たくさん食べて早く大きく」

「……あの、犬神さん」


 いや、あからさまに引くのやめてくれませんかね……


「まぁ、枢木さんは同じ世界の人なんでいいか。この子は魔物なんですよ。成り行きで一緒に生活してますけど、俺は保護者兼、雇用主ではあるけど、このガルンのいうような事目当てで一緒にいるわけじゃない。という事を心底信じていただきたいわけですよ。心外なんでガルンも黙れ!」

  

「キャン……ご主人がぶった……」


 未だ俺を何かちょっとやべー奴じゃないだろうかと見ている枢木さん。

 ガルンの頭にそっと手を触れて撫でる枢木さんは少しだけ嬉しそうだ。


「……この子、人間じゃなくて魔物の子なんですね。通りで可愛いわけです。ではミルクとビスケットを堪能していただいた事ですので、色々と見てもらいます」

 

 そう言って枢木さんは、牛みたいな生物を飼っている大きな設備に案内してくれた。動物はモースと呼ばれたウシ科らしい生物との事だ。


「確かに、動物とかあまり知らない俺でも牛の仲間だなぁってわかるわ」


 俺がそう自然に声を出すと、枢木は嬉しそうにした。


「えぇ、この子達は自然界に野生で存在していた物を捕獲して、食べさせる飼料などを研究し、おとなしい個体に手を加えた物です。元々は怒ると突進する危険な生物でした」

 

 それを短期間で家畜化したわけだ。


「なるほど、確かにこれは安売りできるような物じゃないですね」

「ご、ご主人諦めるのか? このミルクとビスケットは恐ろしく美味いのだ! もっとたべたいのだっ! アステマやエメスにも食べさせてやりたいのだっ!」


 ガルンの懇願、正直俺の世界ならコンビニでも食べられるコンビだが、ここは異世界。

「ふふっ、犬神さんのところへ、格安で降ろすということは残念ながらできませんが、待っている方へのお土産であればご用意しますので、持って帰ってください。別の契約という形で今後犬神さんとお仕事をする事もあるかもしれませんしね」

 

 優しい。クルルギさん、滅茶苦茶優しいぞ。こういうの、恋愛とかしたことのない男や或いは理不尽な理由で別れを告げられた男はコロっと行くぞ……ソースは俺だ。

 

 俺は感謝の意を表し、静かに頭を下げた。牧場体験はまだ続くのだ。

 ガルンは最初こそヨダレを垂らしてモースを見ていたが、次第に飼育を楽しんでいる。


「ガルンお嬢様、なかなか筋がいいですね! 牧場で働きませんか? 毎日ミルク飲めますよ」


 そう言ってガルンを見つめるクルルギさん。

 もしかすると彼女は……いや、俺の勘違いだろうか?


「む……それは引き抜きというやつなのか……ボクを選ぶのは中々だが……ボクにはご主人がいるのだっ!」


 俺をチラチラ見ながらガルンはそう言う。俺とミルクを秤にかけてやがる。そしてクルルギさんはやや俺を睨んでいるようだ。

 

「そう。でも犬神さんってまだ駆け出しで、実際その商店街も開店はしていないんですよね? いつご飯が食べられなくなるかわかりませんよ?」


 うん、遠回しに自分のところに来た方がいいと語るクルルギさん。


「むむぅ……ダメなのだ! ボクはご主人と一緒なのだっ!」


 クルルギさんが「チッ」と舌打ち。そして俺を確実に睨む。

 

 間違いない。この人、ケモナーかなんかだ。何故なら、ガルンがモンスターであるという事を知ってからの彼女のガルンへの態度がえらく変わった。


「ご主人っ……な、なんだかあの人間のメスの顔。少し怖いのだっ……アズリたん様みたいな怖さではないので……なんというか沼にハマるような変な気分なのだ」

「おぉそうか、流石に野生の感的な物は凄いな。これも社会勉強の一つとして覚えておけ、ちょっと特殊な性癖を持った人だ」


 俺はチーズ作りを説明してくれているクルルギさんに聞こえないようにガルンに言ったつもりだったが……

 

「特殊な性癖……ではありません。私は嘘つきで私利私欲の為だけにしか生きる事のできない人間よりも、生きていく事に正直で大事に育てた分しっかり返してくれる動物の方が素敵じゃないですか、モンスターもそうですよ!」


 物凄い地獄耳だ。

 クルルギさんは動物好きがこうじてそうなったのか、元々そうで、異世界でその性癖が暴走したのか……


「ご主人、なんだろう。ボクはモンスターを褒めているハズなのにクルルギはなんだか警戒してしまうのだ……こ、怖いのだ! ご主人、クルルギの目が怖いのだっ!」

「ふふふ」

 

 ガルンは犬系のモンスターだ。クルルギさんの情愛に満ちた瞳はガルンを恐怖させた。動物は威嚇方法が色々あるが、そのクルルギの愛情表現をガルンは威嚇と受け取ったようだ。知らんけど。

 

「ガルン、交渉相手を喜ばせるのもまた営業方法だ。どれだけ嫌でも笑って、ある程度までは応えてやれ」

 

 今、ミルクを手に入れる方法。クルルギさんにガルンがもっと気に入られる事。

 

「あらあら、ガルンお嬢様。それはですね? ブリーダーのどちらがボスかという事を示している愛の鞭なんですよ。私はモンスターティマーのブリーダー系のスキルを取得していますので」

「……クゥン」

「あらぁ、可愛いわ! ガルンお嬢様」

 

「……犬の飼い主って変な人多いよな」


 これは俺の主観であるが、犬の飼い主が散歩中とかに人間のように飼い犬に話しかける姿を見ると変な気分になるのだ。

 

 “ウー! ウー! マーシャルタイガー接近! マーシャルタイガー接近! すぐにモース舎に多重ロックをかけて少しでも被害を下げてください! 繰り返します! マーシャルタイガーが接近!“

 

 チーズ作りを今から始めようとした時、その声は響き渡った。

 どうやら、モースを襲う猛獣がいるらしい。それにクルルギさんは頭を悩ませている。


「予想するに牧場を狙う虎的な猛獣がいるんでしょうな? アナウンス的に、多分ね。きっとね」


 俺がそう言うとクルルギさんが話す前にガルンが俺に説明してくれた。


「マーシャルタイガーはボクの親戚みたいな種族なのだ。だけど、意思疎通はボクでもできないのだ。ボクは牙と爪が退化した代わりに、武器を使うようになったけれど、マーシャルタイガーは爪と牙を鋭く進化した種族なのだ」


 なるほど、要するに完全なる獣であり、話し合いできない猛獣か……


「犬神さん、私の牧場のミルクが高い理由はこのマーシャルタイガーの襲撃も大きく関わってきます。ミルクを出せるようになる直前の個体が襲われたり、ストレスでミルクの出が悪くなったりですね」


「……なるほど、そのモンスターが如何程の危険なモンスターかは見て見ないといけないけど、この悩みの種がなくなればお安くミルクは卸していただけて?」


 さぁ、ビジネスチャンスだ。俺の固有スキル交渉。

 

「ご主人、マーシャルタイガーはお腹が一杯になればどっかにいくのだ! ただ居座ると定期的にやってくるのだ……」


 そう、俺のこの交渉はクルルギさんの心を少し揺らしていた……が、売り上げと俺と契約して安く降ろす事と秤にかけた結果……多分まだマーシャルタイガーの被害を差し引いてもこのままの方が儲かると踏んだのだろう。

 

 が……クルルギさんのセットしたトラップのスキルは……


“キリング・タイガーが出現しました。直ちに退避をお願いします“



 多分、上位種かと思ったらクルルギさんは目を瞑ってから……静かにこういった。


「キリング・タイガーを退治していただければ……」

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