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存在価値を疑う回復魔法を使えないプリーストとオーガ退治を行うという場合、クエスト前にしっかりスキル確認をと言う後の祭り

「さて……マオマオの……悪かったな」


 ノビスの街で一番いい酒を出すバーで静かにスペンスはそういった。


「スペンスさんよぅ……これでチャラになるとでも?」


 いや、この酒の入ったボトルが、並のクエストを複数回繰り返しても手が届かないという価格だという事は俺も重々理解はしている。だが、どれだけ高かろうと金で買える物はそれまでだ。

 俺はその事に関してはこの世界に来る前から貨幣経済の仕組みとして当然知っているし個人事業主として冒険者なんて連中よりも遥かに責の重い日々を過ごしてきた。

 むしろ、スペンスよりも一日の長があると言っても過言ではない。だからこそ、この酒を飲んだとしても軽々しくいいよとはいえない。


「流石にこれわぁ、スペンスが悪いわねぇ……なんならマオ君。お姉さんがお詫びに一肌とかふた肌とか脱いじゃおっか? ね?」

「エロねーじゃなくて、ファイさん。俺は人並みに女性も好きだけど、仕事の話に色仕掛けは通用しませんので」

「あらー、男の子なのにガードかたぁーい!」


 本当に、俺がもっとピュアな男の子だったらファイのエロ姉ちゃんに言いくるめられたかもしれない。


「マオマオの旦那。でも俺たち、ユニオンに入れてくれるんすよね? マオマオの旦那のユニオンなら向かうところ敵なしじゃねーすか!」


 キロカは割と出来上がった様子でそう言う。それに俺は悪い笑みを見せた。


「そりゃそうさ。キロカ、俺のユニオンにお前達は参加してくれねーと……なぁ? あれが冒険行きたいとか行った時の為に全裸で正座待機っしょ?」

「あれって……マオマオの旦那……もしかしてあれっすか?」


 キロカは物分かりがいいな。よくわかってるじゃないか、スペンスとファイのエロ姉ちゃんはなんともいえない表情をしている。


「なんだ……その、マオマオの。流石に俺たち中級者しかいないワンマンパーティーにあれは流石に……荷が重すぎるというか、そもそも俺たちの宗派がなぁ……」

「そ、そうねぇ。宗派が違うと、加護の件とかもろもろ魔法やスキルの効果に関わってくるのよ……」


 知らんがな! 

 そんなん知らんがな! 


 俺がエセ関西弁になるくらいそんな話は知ったこっちゃない。


「二人ともさ、俺の生まれた国の話をしてやるよ。八百万の神々って言ってな、どんな神様も信じる者は救われるんだってさ。がんばれ!」


 そう、俺は天国と地獄というものをこの何やかんやで知り合った中級者パーティーで知る事になる。

 


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「なんだってこのエセ占い師っ」

「ひぃ……」

 

 街のプリーストに俺たちの拠点に人間用の加護をつけてもらう依頼に来たところ。

 

 ギルドの併設食堂が美味しくなったと聞いたので、プリーストの冒険者もいて一石二鳥かと思ったが、なんだかややこしそうな事になっている。

 

「今請け負っているオーク狩りに行けば俺たちのパーティーが全滅するだぁ? オークなんざ俺一人でも狩きれるんだよ! それも俺のパーティーは中級、王都の依頼でも受けれるんだよ!」


 魔法使いみたいな格好をした女の子、流れから占い師なんだろう。

 困っているな。


 冒険者の酒の席で相手をしながら占い、それがこの女の子の生業なんだろう。ならばこういうわけの分からない奴を撒くのもまた経験だろう。

 

 これが異世界の流儀であれば俺が出る幕もない。

 テーブルに着くと俺は一新されているメニュー表を見つめる。ガルンは肉料理だろう。アステマは酒を頼ませないように見張りつつ、エメスはサラダやらを注文するらしい。さて、俺は何を食べようか……俺の提案。シェフが料理の手ほどきをした事で俺たちの世界にあるファミリー居酒屋くらいには成長したこのギルドの食堂。

 女の子はローブを引っ張られて無理やり立たされる。

 

 フードから覗かせた彼女の顔はどこのいいところのお嬢さんだろうか? という巻き毛のブロンド。可愛い女の子だ。

 

「おっ、声から若いとは思っていたけど、その容姿なら他の事で金を稼いだ方がいいんじゃないか? なんなら今回の占い料の三倍払ってやってもいいぜ。駆け出しで明日食っていく金もないんだろう? 外の宿の二階にいるからいつでもいいぜ! はははっ!」

 

 さて、俺の前で未成年の性的搾取は見過ごせない。

 俺が立ち上がろうとした時、俺よりも先に三人が冒険者の男に対峙した。


「アンタさ? ちょっとダンジョン潜れるからって調子に乗るのはやめなさい」

「そうなのだ! その手を話すのだ! さもないと噛み砕くのだっ!」

「万が一、マスターがドエムプレイを所望した時の攻め苦を貴様で試すのも一興と我閃いたり」

 

 三馬鹿もといモンスター三人娘はそういった。

 本来俺は止めるべきかと思ったが、

 

 今どちらが正しいことをしているか、それに関しては言わずもがな。


「なんだお前ら、女ばっかりのパーティー? そしてお前がリーダーか? 楽しそうなメンツだな特に夜がな」

「酔っ払い。俺の仲間への非礼は一旦見過ごしてやる。その子から手を離せ。痛そうだろ」

 

 俺の言葉にギルドの食堂は静まる。


「……あれって南の魔王と同盟組んだ確か……死の王」


 いいえ、シーイー王……じゃないCEOです。


「死の王ではないが、商の王くらいは目指してるわ。お前、酒に酔って態度がでかくなって今の状況というなら一度冷静になって考えろ。こんな占い師の女の子一人いじめて、恥ずかしくないのか? あぁ? 周りの連中もそうだ。面白がって遠くから見てるのは同じだ。わかるか?」

「ちょ、ちょっと主」


 俺が随分いきりたっているのに、アステマがおろおろしだす。

 そして、ガルンが普段の俺ではない事に不安になったのか泣き出した。

 赤ちゃんかお前は……


「ちょ、ちょっと……シーイー王のマオマオさん……そんなにお怒りにならずに」


 出たよ。俺が怒っている理由はそういうところなんだ。

 さて、この運動部みたいなノリのギルドという場所。


「夜な、楽しいよ? 毎回毎回、まともに役に立たない三人組の食費に稼いだ資金を持っていかれるから、資金繰りの家計簿と睨めっこして毎日ため息を吐く毎日ですわ。たまにはぐっすりとそんな事考えずに寝てみてーわ。なぁ? 中級者さんパーティーよぉ」


  主、ご主人! と叫ぶアステマにガルン。そしてエメスは何やら興奮しているから無視だ。


 俺の言っている事は事実だし、この三人が何か俺に物申そうとしているかもしれないが、お前達は俺に何かを言えるような立場じゃない。

 食費的な意味でな。


「で? ダンマリな連中はどうなん? こんなか弱い女の子がいじめられているのを肴に一杯ですか? そりゃいい御身分ですね? さぞかし美味い酒なんだろうな?」


 俺の皮肉に対してギルドで飲んでいる連中はだんまりである。


「す、すみません。お兄さん……」


 占い師の女の子が少しおどおどとしながら俺に話しかける。

 俺は皮肉による無差別口撃を止めると彼女に優しくも厳しい言葉をかけた。


「君にも一言言っておこうと思う。はっきり言ってこういう連中への生業は向いてないよ」

「……ご、ごめんなさい。でも私、ミントはどうしても聖女様になりたいんです……その為には沢山の人を幸せにしなければいけないんです! だから……私はこのお仕事を……やめれません。お、お兄さん、その私をあの方々と同じクエストに連れて行ってくれませんか? も、もちろんお礼はします」


 中高生くらいの女の子に傅かれてお願いをされるのはなんとも気分のいい物じゃない。

 そして厄介ごと臭い。


「中級パーティーの俺たちのことが心配だってそのお嬢ちゃんは言いたいのか?」

「いいんじゃない? 見せてあげようよ。オーク如きに遅れを取らない僕らの完成している連携を見れば考えも変わるでしょ」

「ふふっ、魔王アズリタンと同盟組んでるあの人も来るんでしょ? とてもいい提案ねぇ。私たちもユニオン入れてもらいましょうよ?」


 何故か話が勝手に進んでいきました。総勢八人パーティーでオーク狩り。

 

「主、クエストにかこつけて、あの連中灰にしちゃってもいいかしら?」

「全然ダメざますよアステマさん。なんなら俺たちは戦闘なんてしないからね」

「代わりに空の下、人気のいない中で複数の男女」

「エメスさん、半分くらい未成年がいるからやめるし!」


 ミントに絡んだパーティーとミントは俺たちの活躍を期待してか、やや嬉しそうな表情を見せていた。

 寺院跡にオークが住み着いているらしく、その討伐。妙に高い報酬に怪しさを感じたが、腕に自信のある中級者パーティーは請け負ったらしい。

 

「じゃあスキル確認をさせてくれ、俺は見ての通り魔法剣士スペンスだ。酒の席はおふざけがすぎた。非礼を許してくれ、一応。今回の総合リーダーは俺に任せてもらうという事でいいのかい?」

「あぁ、構わない。別のパーティーともこうして今後は共闘機会が増えるだろうし、先輩冒険者の仕事ぶりを見せてもらうよ」


 一通りスキル確認を終える。ガルン、アステマ、エメスに関しては少し嘘を混ぜた。魔法剣士のスペンス、女性魔導士のファイ、そしてアーチャーのキロカ。近距離・中距離戦を得意としているパーティーらしい。


「で? 南の魔王と同盟を組んだ事で王都や教会からの厳しい視線は大丈夫なのかい?」

「とりあえずファナリル聖教会が虚の森は俺の所有権である事を認めてくれた」


 その名前を聞いて冒険者達は驚き、ミントが怪訝な顔をした。

 中級というだけあって中々良い装備に少し目のやりどころに困る服をきたファイのエロ姉ちゃんが俺の目の前で胸を強調する。


「マオマオさん、五大勢力、いいえ。北の魔王が死んだから四大勢力の内二つも味方につけるなんてすごいわぁ! 私、マオマオさんのパーティーに鞍替えしようかしらぁ」


 焼き鳥串みたいな物を齧っているガルンは機嫌が悪そうに喉を鳴らす。

 まぁ、人間の魔法使いが仲間に入ってくれるのもありがたいが、魔物娘三人がいるので保留だな。


「確かに! なんなら俺たちのパーティがシーイー王だっけ? その同盟傘下に入れてもらうってのもよくない?」


 軽そうな男、キロカはそういうのでそれも悪くないと思ってしまう俺。 


「確かに中級冒険者パーティーはノビスの街だと最強クラスだからな。前向きに検討させてもらうよ」


 そう言う俺にスペンスは笑った。


「はっは、やっぱアンタ商人だなぁ。すぐさま俺たちの有効性と利益について考えたろ? いや、悪く言ったんじゃないぜ? 褒めてるんだ。まぁその検討とやら、今回の活躍で決めてくれよ」

 

 スペンスはよほど腕に自信でもあるんだろう。腰に差している剣は多分、魔剣ってやつだな。

 数日分の食料を携帯、うちのモン娘達の分は重いが俺が運んでいる。じゃないと勝手に食うし。

 オークという魔物は結構強い魔物らしいが単独を好み、ある程度準備が揃った冒険者なら多面攻撃で倒せるらしい。

 

 そんな中、リュックにプリーストの杖を持ったミントが話し出した。


「えっと……私の特技ですが、見ての通りプリーストですから五回まで白魔法を行使する事ができます。あと、モンクファイターの訓練もしてきましたので、魔法を使い切ったら武術でモンスターと戦う心得も備えています! よろしくお願いします」


 スペンスがやる気満々のミントの肩をポンと叩いて言った。


「魔法の方はとてもありがたいが、お嬢ちゃんの細腕でオーク退治は流石になぁ……魔法を使い切ったら後衛に入ってくれ。まぁ昨晩の謝罪も兼ねて絶対に守ってやるからよ。な?」


 これに関しては俺もスペンスの言う言葉を肯定する。

 流石に魔法力がない状態でミントの武術とやらが役に立つとは思えない。

 俺たちはノビスの街を出ると、今回の即席チームリーダースペンスが言う。


「よし、オーク討伐。人数が増えて手数も増えた事で確実性がさらに上がった。誰一人怪我せずに戻って祝杯と行こう!」


 ……こいつ、案外いいやつなのな。


 寺院という場所。

 何故寂れてしまったのか、俺は先ほどからそのことばかり考えていた。教会の類である事は間違いないのだが……ざっと調べてこの世界には三つほど宗教がある。セフィラム教、俺たちが出発した街もこの教会で世界の半数以上がこの信徒らしい。もう二つがカムラン教会とグランシャリオ聖会、宗派が違うものの残りの多くを占めている教会。違いはおいおいだな。

 そんな事よりも……ファナリル聖教会ですわ……

 あれ、パッと出のカルト教団や密教に近い感じらしい。物凄い速度で信者を増やしているとか……多分、この寂れた寺院はどこかの小さな教会でファナリル聖教会に取り込まれたとみていいだろう。

 あいつら、相当ヤベェ奴だった。関わるのやだなぁ。


「この寺院は元々、修験者達が細々と土地神を拝み、たまに街に来ては日雇いの仕事をしたり、いい寺院だったらしい。ファナリル聖教会に潰されるまではな」


 あぁ……やっぱそうか、商店街にファナリル聖教会の寺院建てる計画どうにかして阻止しないと。

 割と大きな寺院。木々は生え放題、壊れた建物がいい隠れ蓑。モンスターが住み着くにはいい環境なのかもしれないな。

 スペンスは自分が一番前、そしてキロカ、俺、ファイのエロねーちゃん。エメス、ガルン、アステマ。最後がミント。フォローが容易にしやすい陣形らしい。モンスターの奇襲にも対応できるという事だろうか?


 寺院を一周ぐるりと回ってみたが、オークとやらは出てこない。

 手が届く範囲に少しずつ広がる。捜索範囲を広げる。エメスの隣に並び、モンスターの反応がないかをアイコンタクト。

 こいつがまともに反応を返してくるとは思わないが、聞かないよりはマシだろう。

 エメスは目を細めながら、顎でガルンとアステマの方を見るように俺にジェスチャー。言われた通りに振り向くと……

 明らかに気分が悪そうにしている二人。エメスさん、気づいていたなら報告してくださいよ。このポンコツロボッ娘っめ!

 ガルンとアステマも気になるが、顎でエメスに二人を任せたことを指示すると周囲を警戒する。


「おかしいな。オークの巨漢であれば隠れていても見つかるハズなんだけど、エサでも漁りに行ってるのか? 少し離れたところにキャンプを張って待つ事にする。人数はいるからな、三人一組で火の番だ」

 

 スペンスの指示は的確だな。これが冒険者の冒険攻略か。

 うん、俺にはこれは無理だな。まぁこれも自動化する為の経験だ。こういう時は大体、あれが起動するハズだ。

 ほら。


“冒険の記録を行います。クエストが保留されている状態において、フラグが立ちました。キャンプと火の番についての効果的な過ごし方を提示します“

 

 俺とスペンス、そしてファイのエロねーちゃんを火の番のリーダーに、スペンスとガルン、エメス。俺とキロカにミント。そしてファイのエロねーちゃんとアステマの順番に二時間交代で火の番をすることになった。要するに食事の時間である。

 とても心配だ。何故かモン娘の三人は俺以外のリーダーと同じ時間を共にする。粗相しかしないだろうから気が気でならない。

 火の番をする者、眠り体力を温存する班、食事をする班。スペンス達の火の番の時間が終わった。

 

「……よし、じゃあ俺たちは一眠りするから……いや飯が先だな……しかしマオマオの、苦労してんな……」

 

 火の番の最中に何があったか?

 いやぁー聞きたくないですね。

 まぁ、今の問題児1と問題児2のリーダーはスペンスだ。

 俺は知らない。うん、俺は俺の指示する二人と話す事にしよう。


「……二人とも、俺は冒険者としての経験は二人に劣るかもしれない。まぁなんだ。火の番だし、暇つぶしに二人の話を聞かせてくれないか? 実は俺はこの世界……じゃなくてこの辺りについて文化とかあんまり知らないんだ。冒険の話とか、色々ね」


 さて、二人は俺よりも年下だろう。ミントは言わずもがな、中学生くらい。キロカ坊やは十七、八くらいだろうか?


「いやぁ……俺はずっと離れた森の集落の出なんすけど、冒険者に憧れて、この街にきたところ、スペンスに誘われたんだよ。一応ユニークスキルを持ってた事が大きかったかな。わりと山岳系のクエストをスペンスとファイと攻略してるかな。レベルももうじき二十に届くよ」


 すげぇ、俺よりもいくつもレベル高いなキロカの坊主。

 ユニークスキルは通常では習得不可能な血統や、とある条件下をクリアしないと手に入れられないレアなスキルらしい。残念ながら俺にはない。

 これはギルドで調べ済みだ。 

 火の番の暇つぶしがてら、キロカのユニークスキルを見せてもらった。

 役半径二十五メートル圏内であればロックオンスキルで確実に矢をヒットできるあれは大したものだ。

 俺とミントが驚き、感嘆の声を上げると気分を良くしたキロカは年相応だ。


 しかし、ミントさんですわ。

 よく考えればそらそうだよね。二十代の男と、十代後半の男に挟まれての火の番。さぞかし不安だろう。何話したらいいんだ?

 ミントさんは静かに火を見つめて、たまに薪を足して再び静かに。

 こういうのはチャラそうなキロカ先生に……

 キロカ先生もめっちゃ目が泳いでる。

 ど田舎から出てきてシティボーイに憧れたキロカはエセチャラ男かよ。

 仕方ないな。遠い親戚の娘と話す気分で俺がミントとコミュニケーションを取ってみるか……

 

 さて、JCとの会話だが……わっかんねーな。それも異世界のJC……くらいのプリーストだ。


「ミントさん、その……よく考えると随分お若い年齢で冒険者になられてますが、そこまでして聖女様とやらに?」


 ミントは今までおどおどとしていたのに、突如真顔になる。

 嗚呼、俺がとうの昔に失った真っ直ぐな瞳だ。

 

「私はかつて小さな村で育ちました……近くに大きな盗賊達の根城があるような治安は決してよくない場所でした。それを助けてくれたのか聖女様でした」

「へぇ、そういうのって憲兵とか、冒険者とかが行うものかと思ったけど、聖女様ってのは凄い人なんだぁ」


 俺がそう返すと嬉しそうに頷くミントと、補足してくれるキロカ。


「聖女は神の加護をより強く受けた聖人だから並の冒険者よりも素のステータスが違うんすよ」

 

 要するにチート持ちみたいな奴や勇者的な位置付けなんだろうな。そういえば東か西かにファナリル聖教会の聖女が王を冠してたな。そいつか?

 

「聖女様。たったお一人でふらっと街にやってきたんです。あまりにもか細く、あまりにも小さく、お美しい聖女様が盗賊の根城に話をつけに行くと仰ったのでみんなで止めたんです。ですが、私たちにお優しい言葉をかけてくださり、聖女様は盗賊の根城に向かわれました。夜明けと共に帰ってきた聖女様はお変わりなく、その後盗賊の根城は跡形もなくなくなり、盗賊達も去って行ったんです」

「えっ……最後おかしくない?」


 そんなすぐに盗賊という無法者達の散らかっているであろう根城が忽然と消えるだろうか? いや、ないだろう。されど、ミント達無辜の民を守その姿勢はやはり聖女様なんだろう。

 

「聖女様はお一人で旅を続けられているそうです。女性プリースト達の憧れである聖女様。聖職者としては最高位のハズなのにまだまだ徳が足りないとおっしゃっておりました。あれだけお美しくて、お優しくて、心も力もお強い聖女様がまだ修行が足りないと仰られているのですから、ミントももっともっと経験をつんで聖女様に少しでも近づきたいんです。ですから今回のオーク討伐頑張りますのでみなさんお願いします! 補助は任せてください! 中級、物によっては上級魔法も扱えます」


 すげぇな。俺はそもそも初級系魔法の補助と簡単な攻撃魔法を片っぱしから習得してる。おそらく上級魔法は永遠に習得できないだろう。


「ええ子やなぁミントさん……多分、俺も補助役なんだけどミントさんの方が確実に上位互換だから頼りにしてるよ。俺も出来る事は頑張るから改めてよろしくね」


 俺が手を出すとミントは恥ずかしそうに手を握り返してくれた。

 これが、二十四歳独身、外面の良さはピカイチの処世術ですわ。


「お、俺もいるんすからね! よろしくです!」

 

 キロカ坊や、別に俺はミントさん狙ってるわけじゃねーから、いいねぇあおいねぇ。

 

 俺たちは楽しかった事や、これからの目標なんかを話していると、ミントが静かにするようにとジェスチャーする。そう、何やら獣臭が漂う。

 ジュッと焚き火を消すと、身を低くしてその臭いの元を待つ。

 俺たちの遠く、寺院に壊れた廃墟と同等の大きさの何か

 

「……おいおい、あれがオークか? デカすぎやしないかい?」


 身の丈は四メートルくらいか?


「……マオの旦那。ありゃオークじゃないっす。あれはオーガっすよ……あんなのこの即席パーティーじゃまず無理です」


 でしょうね。

 30センチ尺みたいなツノが逆立ってますもん。


「全員起こして逃げるぞ。現時点のリーダーは俺だ」


 判断は迅速に、逃げるが勝ちだ。


「わ、分かったスペンス起こしてくるから、二人はオーガの動向を監視しててくれっす。こっちに気づいたらすぐに教えてください!」


 キロカ、できる子だなぁ。

 ウチのどれかと交換してはくれないだろうか?


「ミントさん、できれば防御系の補助魔法の準備をお願いします。俺も使える魔法をいつでも発動できるようにしておくので」


 俺の判断はきっと冒険者としては間違ってないハズだった。


「マオマオさん、あのオーガを放置していたら大変な事になります! ミントは、戦います」


 えっ? この子、今何つった? あんなヒグマよりもでかい化け物と

 戦うだって? あれはダメだろ。話が通じる系じゃねぇ。

 

「行きます!」

「行くな!」

 

 飛び出そうとするミントを止める。


 あんな怪物にこの子は単身でどうするつもりなのか?

 彼女が言う武術で?

 馬鹿げている。というか、この子良く今まで生きて来れたものだ。まさかアズリたんみたいに凄まじい力を持った子供かと思ったが……

 俺に止められて顔を真っ赤にしてジタバタしているので多分腕力は普通の女の子だろう。

 絶対死ぬって……


「ミントさん! キロカさんも言ってたろ? ここでオーガの様子をみて、みんなが揃ったら一斉に退却だって!」


 ミントさんに大声を上げる俺、なんだろうこの既視感。キロカやスペンスと話している時のあの感じではない……


「マオマオさん。退却はできません! あんなところに凶悪な魔物がいるんですよ! 聖女様ならきっと逃げずに立ち向かうハズです!」


 そうかもしれない。だけど君も俺も聖女様とやらではないので、潔く逃げるべきなんだ。

 確信した。ミントさんはガルン達に似ているんだ。このヤバさ……

 そして、こういう状況は大体面倒な事になるんですわ……


「オォ……ニンゲン…………クラウぅうう!」


 ほーら見つかった。プリーストと補助魔法が使える商人。

 要するにさ……


「くそっ! ミントさん、後ろのみんなの準備が整うまで障壁系の……」

「腕力上昇、魔力上昇。スキルの使用回数を力の向上に変換。優しき地母神よ。我に力を!」

 

“プロメテア!“


 ミントさんは補助系の中級魔法を高速使用すると……多分ユニークスキルを発動した。


「マオマオさん、行きます!」


 だから、行くな! と思った俺だったが、巨体で動きも速いオーガの攻撃をミントさんは凌いだ。


「悪しき者よ。滅びなさい! セイクリッド・フレアぁあ!」


 ミントさんは小さな体を全部使うように緑色の炎を放った。

 多分、神職者の白魔法か?

 炎や氷、雷と言った物理的な領域ではなく、白魔法は存在確率とか難しいが量子的な領域から発現する魔法だと学んだ。

 火傷をするわけでもないのにオーガが苦しそうにしている。ミントさんは凄いプリーストだ。

 

「おいおい! こりゃどういう常態だ? とにかくミントの嬢ちゃんを支援する。魔法が使える奴は中距離から!」


 キロカがようやく全員を連れてきてくれた。

 オーガがいるので逃げようから状況を判断してオーガ退治に代わる。


「マスター、我も助太刀を進言」


 そう言ってエメスが両手を突き出してぶん殴った。


「シルバー・ハンマー!」


 アステマとファイのエロ姉ちゃんが氷の魔法。


「行くわよアステマちゃん」

「私に命令しないで人間!」


「「ダイヤモンド・ハープーン」」

 

 氷の中級魔法なら岩みたいなオーガの皮膚にも突き刺さる。そしてそれをキロカのユニークスキルで確実に全弾ヒットさせる。

 凄いな。これがスペンス達中級者パーティーか……酒場での態度はいただけないが自信があるだけはある。

 

 俺も何もしないわけにはいかないので、スペンスとガルンの背中に触れる。ユニオンスキル。魔王の加護である。そして全体能力向上。ミントと共に近距離戦闘できる二人を射出。


「瞬発力を限界まで引き上げて放つから、スペンスはミントさんを安全な場所に、そしてガルンはあのでか鬼に一発大きいの叩き込め!」

「任せたのだご主人! ボクがどれだけ凄いかをあのオーガ種に見せつけてやるのだ!」

「即席パーティーにして、オーガと会敵、最悪だと思ったが、マオマオ。中々面白いじゃないのっ!」


 うわー、かっこいいな。この世界の人達。テンション高いし、ノリもいいしな。俺みたいに一人でまったりしている人間にはちと毒だわ。奇跡の連携で俺たちはオーガにダメージを与えてなんとか逃げた。

 

 退路の途中、俺たちが本来倒すべきオークが食い散らかされた痕を見つけた。


「……オークが増えた。本来オークを襲うような事はないが、縄張りで揉めたか、よほど腹をすかせたかでオーガが住み着いたか」

「スペンス、これ私たちの今の戦力でどうにかなるものじゃないわね。ギルドに報告して討伐隊を出さないと、被害が街の人間にまで及びそうね」

「まぁ、でもモンスターをもう少し襲わせてから退治した方が楽になるんじゃねーですか? 共食いさせて一網打尽に!」


 中級者パーティーの三人はそんな話をしている。多分それが正しい選択なのだろう。

 でもね? うちのパーティー、俺以外全員モンスターなんですわ。だからあからさまに機嫌が悪くなるアステマとガルン。


「これだから人間って卑しいのよ……魔法力も大したことないくせに、強力な道具なんて作っちゃって」


 アステマはファイのエロ姉ちゃんが持つ杖を羨ましそうに見ている。


「それにしてもあんたら本当に強いな。助かったよ。俺たちとミントさんだけだと全滅してたかもしれねー」

「そんなことはないぜ、むしろ礼を言うのはこっちの方だ。オーク狩りだと油断してオーガに出くわした。今回は危なかった」

「皆さん、まだオーガは倒せていません。あの時トドメを……」


 そう、ミントさんは納得がいかないようだった。

 ガルンの一撃で怯んだところ、俺とスペンス、アステマにファイのエロ姉ちゃんの魔法が使える連中の連続射撃で威嚇して逃げた。

 本来、一番正しい選択であり今もそう思っている。 


「ミントの嬢ちゃん……お前さんをバカにしたのは謝る。だが、命は大事にな。なんならうちでプリーストしないか? 回復職はありがたい」


 確かに、プリーストがいればスペンスのパーティーは随分安定しそうだ。


「私は回復の類は一才習得していません。覚えているのは、戦闘用の魔法と身体強化系と、格下に対する即死系魔法のみです。あぁ、身体能力超向上のユニークスキルを持っていますので、私自身には体力も常態への回復魔法も不要なんですよ。ですから、できる限り取得しているものはプリーストの中でも戦闘特化した物になっているんです」

 それモンクファイタ〜って言うんじゃと思ったが、聖女への道はアークプリーストからしかない。モンクファイターでは彼女は意味がないのだろう。


「そ、そうか……ミントは個性派のプリーストなんだな……悪くないと思うぞ」

「いや、回復魔法使えないプリーストなんて聞いた事ないぞ。それともこの世界では普通なん?」


 流石に俺はスペンスにツッコんでしまった。


「いやぁ……今まであったプリーストで回復魔法を使えないプリーストは見た事はないが……そんなプリがいてもいいじゃないか?」


 スペンスはウィンクする。

 いやいや、話し合わせろよ的ないい男を演じてるけど、それでミントが変な自信持ったらアンタどう責任とるつもりだよ?

 まぁ、冒険者の責任は自分自信でケツ拭かないとなんだろうけどさ。


 いやにガルン達が大人しいと思ったら、ファイのエロ姉ちゃんが何かお菓子振舞ってる。

 あんまり餌付けしないでくださいね。


「それにしてもオーガ、大したことのない奴だったわね! 私たちよりも上位種なのに尻尾巻いて逃げていったわ! ふふん!」


 はい、アステマさん。そういうの俺の世界ではこう言うんですよ。

 フラグを踏んだってね。


「大きな魔力感知。マスターの息子を上回る荒ぶり方」


 知ってますか? 女性から男性へのセクハラって殆ど立件されないんですよ。

 エメスが夜の俺は凄いんですよ的な虚言を言っているが、

 みんなその話を聞いちゃあいない。

 だって、エメスさんが危険察知と共に見えたんですよ。

 怒り狂い、身の丈が二回りほど大きくなった。


「オーガだ!」


 俺はオーガの登場と共に飛び込んでいきかねないミントの手を引いて逃走を開始。


「ど、どうするのだご主人? ボク達でもう一度やっつけるか?」


 ガルン。その勇気には感服するがあれはヤバい。


「あれはダメだなガルンの嬢ちゃん。狂化したオーガは手に負えない」


 モンスターの中でも独自進化を遂げたらしいオーガ。

 魔族種、ドラゴン種と並ぶ危険種。最下位に位置するオーガですら中級パーティーが複数で退治する必要があるんだそうだ。

 とにかく逃げる必要があるが、俺たちを視界に捉えたオーガは速かった。

 木々を、障害物を無理やりぶち壊しながら迫り来る。


「チッ、とてもじゃないが逃げきれない。ここは俺が魔法剣で食い止める。できる限り凌いで見るが、その間に逃げ切ってギルドに報告。いいな? この状況。現時点よりファイがリーダーだ」

「わかったわスペンスぅ。貴方との冒険、中々楽しかったわぁ。中級魔法までしか使えない私でごめんなさい。他の子たちは無事に街に送り届けるわ」

 

 おいおいおいおい……

 スペンス、死を覚悟して、仲間のファイのエロ姉ちゃんはそれをすぐに受け入れたよ。異世界の人潔くてぱねぇな……

 

「行くわよみんな。振り向かずに走りなさぁい!」


 あぁ、確かに今逃げれば何とかなるだろう。

 でもさ……生き残りました。スペンスが死にました。

 じゃ夢見悪すぎるだろ……

 しかし、アズリたんより弱いのだろうが、話が通じない時点でどうしょうもない。

 スペンスの剣に魔法の力がみなぎる。されど一瞬にして砕かれた魔法剣。スペンスの額から血が流れる。

 

「しゃーない。アステマ、できる限り特大の攻撃魔法準備! エメスとガルンは俺の残りのスキルとユニオンスキルで限界まで強化する。スペンスを手伝え!」


 アズリたんと同盟になった事で得た魔王特権、一日に一回しか使えないが、モンスターへの超カリスマと化す。


「わかったのだ! ご主人!」

「マスター、下の息子も元気百倍!」


 ちげーよ! そんなところまでカリスマ化しねーよ!


「マオマオの、何やってんだ! 今のうちに逃げろよ!」


 全員無事で帰れるなら逃げるわ。でも、そうもいかんだろう。スペンス達は今後の仕事で関わるかもしれない。


「いくぞ! ユニオンスキル・魔王の加護ウィルオーウィプス!」


 中級モンスターの三人に力が漲る。

 コポルト・ガールのガルンは、上位種ウルフェンに、グレーターデーモンのアステマはアークデーモンに、魔導機人のエメスは機巧魔人へ。

 一時的にクラスチェンジ。


「「……まさか、モンスター!」」


 バレちまったけど、仕方ねー。今、あのオーガとやりあえるのはこいつらくらいだろ。


「オォオオオオオオオ!」

「マスターは、我が守る」

 

 スペンスに襲いかかるオーガの腹部にエメスはエクストラ・カノンなる北の魔王が設定した厨二臭いがとてつもない一撃を叩き込み、十四、五歳くらいに成長したガルンはいつの間にか二刀流になった短剣で超連撃。


「見ててねご主人! 今なら、ご主人の隣に歩ける。これがボクの力だっ!」

「ガルンだけじゃないわよ! 主、アンタが主だから使うんだからねっ。第一階層級魔法……エグゾ・ブリザード」


 うん、普段の君たちがそんなクールなら俺ももう少しクールに振る舞えるんだがな……これは魔王権限で酔っ払ったみたいな状態らしい。

 

「ええっと、皆さん。あの三人はですねぇ……かくかくしかじかでして」



 狂化したオーガは討伐された。

 いかに凶暴なモンスターとはいえ、相手は上級モンスター三人だ。

 ユニオン権限でクラスチェンジした三人は、オーガを討伐して十分くらいすると元に戻った。


「た、倒しちまった」


 スペンス達は今の状況を理解できないでいる。


「えっ……アステマちゃん達ってモンスターなんすか?」


 キロカの質問に対して、俺は静かに頷いた。



「……なんつーか、色々と出会って気がつけばパーティーにね」


 ファイのエロ姉ちゃんは興味深そうに見つめる。

 でも魔法の杖を離さないところから警戒はしてるわな。

 しかし、彼女は杖を下げた。


「そう、モンスターもいいえ敵性亜人種も一緒に冒険できるのね」

「だな。今回の件はとりあえず俺たちだけの秘密にしておいてやる。なんせ命の恩人だ!」


 スペンス! お前さん、心までこんなに広かったんだな。


「そ、そうっすよ。俺、森で育ったのでエルフやドワーフ達とは交流してたんすよ。そりゃ人型ゴーレムやデーモン、獣人とだって話せるっす!」


 おぉ、思いの他みんなわかってくれたらしい。確かに亜人側も何故か人間を忌み嫌ってるだけなんだよな。


「実際、俺は三人と過ごしてるけど、確かにこの世界的にも常識はずれな部分はあるけど、悪さもしてないんだよ」

「ふっ、ハハッ! マオマオの、お前さんも亜人かと思ったが、使えるスキルからして普通の商人だ。だが、なんとなくお前さんがあの気分屋の南の魔王に気に入られた理由がわかった気がする」

「そうねぇ。マオくん。不幸体質っぽいもんねぇ。でもそういう男の子。お姉さん嫌いじゃないわよぉ」


 こいつら好き放題言ってくれるが、ここは笑って耐えよう。


「まぁはは。とりあえず街に戻って一杯っての! 楽しまないか? 今後のお仕事の話もしたいからな。スペンスのパーティーは信用における」


 俺の言葉の意味をキロカが誰よりも早く気づいた。


「も、もしかしてユニオンに誘ってるんすか?」

「おいおい、それはこのパーティーのリーダーである俺が言う事だろ? キロカ、でもまぁその話は確かに興味深いよな。今日は俺の奢りだ! 全員じゃんじゃん飲めよ!」

 

 スペンスは気前のいい男だな。

 こういう奴が地球の日本で同じ会社にでもいれば、俺は会社勤めをしていたのかもしれないが……

 そう、俺たちは一件落着! さぁ! 勝利の美酒に酔いしれよう! というそんな空気だったんだが……

 たった一人だけ……モンスター絶対殺すマンがいる事を忘れていた。

 

「……おかしいですねぇ……魔物が三匹もいるのに、なんで? 殺さないんですか?」


 そこには、今まで一緒に冒険してたじゃん! 命の恩人じゃん! とか無意味な目をしたミントの姿があった。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 俺は、ぐったりとしたミントを背負ってようやく街にたどり着いた。

 あのあと、ブチキレミントと戦ったら間違いなく全滅しただろう。

 しかし、ミントは回復魔法を使えない。自身のリミッターを解除するようなユニークスキルは体に負担をかけるようだった。

 

 体力も気力も魔法力も限界状態でミントは全能力を解放し……

 頭の血管から血を拭いてぶっ倒れた。要するに自爆である。俺は残りのスキルで手当てをすると彼女を背負って今に至るというわけだ。

 

「み、みなさん! お疲れ様です! お話は聞きました……オーガ討伐おめでとうございます!」


 受付嬢、そしてギルドにいる冒険者達は大きな声で俺たちの帰還を称えた。俺たちが行った後に、オーガの目撃情報が入ったらしい。


「う……ううん。ここは? そうだ! オーガとモンスター三人を! やっつけなくちゃ!」

 

 目を覚ましたミント。俺、そしてスペンス達は警戒する。だが、俺はこんな状況をクールに対処するさ。

 

「おぉ、起きたかミントさん。いやぁ、すごかった! オーガ討伐にミントさん無くしては有り得なかったよ」

 俺を見たスペンス達があほづらを浮かべるので、今回は俺ができる男の顔でウィンクを飛ばす。話し合わせろや!


 ガルンにアステマ、エメスは腹ペコでギルドで飯を食っている隙に……

 俺たち全員で戦い、ミントの補助や武術で随分疲弊させたところをファイのエロ姉ちゃんとアステマの魔法でトドメを刺した。しかし、頑張ったミントは力を使い果たしてぶっ倒れた。夢の中でも何やらモンスターと戦っていたよと俺はそんな話をしてみるが……

 

「……そ、そうだぜミントの嬢ちゃん。ほんとこの前はすまなかったよ。あんたは大したプリーストだ!」

「ほんとに私が? このミントがお役に立てたのですね? 悪しきモンスターを滅ぼして、皆さんを……嬉しい! 聖女様に近づきたくて、戦闘スキルばかりを取得していた事が無駄じゃなかった事が証明できました! 本当に、本当にマオマオさん、スペンスさんありがとうございます! ですが、私も冒険にでてわかりました。私ではまだまだ修行が足りません。パーティーに属してこそのプリーストだと」

 

 いや……これは……まずい。スペンスは目を逸らす。そりゃ回復できないプリーストはいらんわな?

 

「もし、もしお邪魔ではなければ。マオマオさんのパーティーか、スペンスさんのパーティーに私を入れてはくれませんか? 回復はできませんが、強化系の補助は大抵覚えていますので、支援に関してはお役に立てる自信があります! もっと戦闘経験を積みたいのでどうかお願いします!」

「いやぁ……悪ぃなミントの嬢ちゃん。補助は俺たち三人もできるんだよ。どうしても回復できないとなるとなぁ……マオマオのはどうだい?」


 うわっ、ずるっ! こいつ、いい奴とか思ったけど……クソがっ!


「う〜ん、ハハッ。俺は商人だからさ。これから商店街って商業街を作るんで戦闘とかあんまり……ねぇ?」


 そんな俺の言葉に受付嬢は気を利かせてヤベェことを言ってくれた。


「そういえば、マオマオさんはその商店街の教会や加護をしてくれるプリーストをお探しでは?」


 いやーーー、いやあああああ。


「マオマオさん、是非、そのお役目をこのミントに任せてください!」

「ちなみに……ミントさんの宗派は?」


 今にして思えば、俺はその宗派と関わらないようにプリーストを探してたんですよ……


「当然、ファナリル聖教会です! 憧れは聖女王アラモード様です!」


 嗚呼、はい……ファナリル聖教会の方が、商店街の教会関係者になってくれました。嬉しいな……

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