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モン娘達と初めての共同作業は家づくり

「さて、次にアズリたんがやってくるまでに我々はこの森を開墾する必要があります」

 

 虚の森というか、虚無感の凄い何もいない森の中に俺は持参した大型テントを設営し、そこを仮の我が社の本拠地としてこれからについて三馬鹿に話をしてみることにした。

 お茶とお茶菓子をかっくらう三人に俺は当然、期待していない。

 

「森の開墾? 主。ここに何か作るつもりらしいけど、魔物も寄ってこないようなこんな場所にあの街にあるようなお店を作って商売成り立つの? ちょっと考えれば無理って分かると思わないかしら? 人間の街だって人がいるから成り立つんでしょ?」

 

 生意気にもアステマが正論をぶっ込んでくる。

 が、しかしその考えを論破してやるか。


「さて、アステマさん。崇高なグレーターデーモンのお前さんの言う事は最もだ。確かに街は人が生活をしていく上で一つの生態系を持ったコロニーだからいろんな店があって、それら必要な店に必要な時に人々は用途別に活用するわけだな? そこには貨幣経済が完成していて、代価を支払う消費者。そして代価をもらってサービスを遂行する。需要と供給ってのができているから街というシステム、いやこの場合は大きな生き物は生きていけるんだな? 確かにお前さんの言う事は正しい。だけどよ。よく考えてみろよ。この人間の街がいきなり、神様が塩の柱でも作るみたいに無からこの街とここの人間を生み出したとでも思ってるのか? そんなわけねーだろ? あのノビスの街だってそうだぜ。あそこだって誰かが最初に集まってきて集落ができて街ができたか、大きな街から人が集められてここができたか、最初は必ず少数、小さな集落だったハズだ。だから、この虚の森だってその道理が通るだろ?」


「ま、まぁそうね。分かっていたけど、うん。主がその事を知っていたか試したのよ! そう! 試したの!」


「ほぉ、俺を試したと。まぁ俺はこの世界について知っている事が確かに限りなく少ない。もちろん商売の世界だと俺を試してくる商売人もこれから五万と出てくるだろうな。うん、心からアステマさんには礼を言っておこう。お前さんが上位種の敵には足がガクガクになって何もできず。口達者で無駄に大食らいであったとしても、俺はたった一度だけお前さんが役に立ったあのハチの一件を忘れないからな。それ以外に役だった事があったか知らんけど」

「も、もぉおおお! 私は役立つんだからぁ!」


 何を根拠にそういう事を言えるのか、俺にはない異次元の自信過剰さに少々驚きながらもこれ以上アステマと口論しても無駄だとここで話をやめる。

 が……アステマはどうやら納得がいかないらしい。

 それなりに可愛い顔を不安そうに、それでいて不貞腐れたように話を続けてきた。

 

「主! 私の類まれな魔法の力、忘れたわけじゃないでしょ! 並の人間には到底真似できない程の使用回数を誇るんだからねっ! この開墾だって私の力が必要でしょう!」


 うん、非常にまずい。これ以上、突っ込むと多分アステマは泣く。


「あぁそうだな。お前さんの使用回数に関してはそれなりに評価しているところはある。この森を切り開くのも木を切って、土を耕して道を作ったり畑を作ったり、建物を建てたり人力のみで行うと重機のない世界だ。何日かかったものか分からない。俺の持ってるスキルと、エメスとガルンは重機代わりの運搬力。そして当然お前さんの魔法も期待しているんだぜ俺は」

 

 アステマさんの頭にある一本のアホ毛がピンと立った。

 分かりやすく機嫌を直してきているんだろう。コイツの魔法が実際何ができるのかまで把握していないんだけどな……

 という事で、少し反論した俺も大人気なかったので少しばかりヨイショしてもう一押し。


「まぁ聞けアステマさんよ。お前さんはグレーターデーモン。人間からすれば中々に畏怖すべき存在なのかもしれない。が、お前さんは俺の見立てではかなりの美人だ。お前やガルンにエメスが看板娘になればこんな遠く離れた場所でも客は来る。それともなんだ? 自分の容姿に自信はないか?」

「ふふん! 主、分かってるじゃない! いかにここがあらゆる世界から離別していたとしても、この私の美貌の前には虚無なんて裸足で逃げ出すに違いないわ! いいじゃないやってやるわよ!」


 ちょろっ、滅茶苦茶機嫌を直したアステマはこれでいいだろう。

 茶菓子を与えているガルン、そしてエメスがバナナを食べ終わったらしい。

 

「ご主人、その看板娘って言うのにボクもなるのか? なんだか分からないけど、とても楽しそうなのだ! アステマとエメスと一緒ならなおさらなのだ!」

「ガルン、看板娘というのは仮の姿。必要に応じてはクライアントにその身を捧げる所謂、にく……ん? おかしい私の思考になんらかのノイズがかけられている。こんな事ができるのは、マスターか」

 

 汚れを知らぬガルンに対して、頭がイカれているゴーレム姉さんは寝ている間に18禁フィルターをユニオン権限でかけさせてもらったよ。

 

 ガルンとエメスにもとりあえずの俺のプランを書いた紙を見せた。

 アステマをやる気満々にできればあとはどうとでもなる。腕を組んで準備万端アピールのアステマ、たまに俺をチラ見してくるのは何か褒めて欲しいんだろう。が、俺はそんなに甘い経営者ではない。


「まぁ、店を出すにしてもなんにしてもさっきいった開墾が先だ。そして俺達はここの管理をすることになる。とりあえずは俺たちの拠点を中心に周囲に店を広げていく」

 

 もう少し捻ったショッピングモール的なものを作りたいが、今の手持ちの労働力とこの世界の文化レベルから商店街の方が流行るだろう。


 何気に一番行動原理不明のエメス。彼女がじっと俺が描いた地図を眺めている。こいつ要するにアンドロイド的な物だから多分俺より演算能力に長けているはずだ。

 が、俺は期待はせずに聞いてみた。

 

「えっと、エメスさん。何か気になる事でも?」

 もしかしたら、もしかしたら妙案を出してくれるかもしれない。

 エメスは自分の指の第二関節を噛み、さらに考える。

 人間臭い癖だな、そしてこうしてみていると知的美女そのものだ。そして想像通り、俺の期待を裏切らない。

「マスター大変な事に気づいた。周囲四方向。食堂。武器屋、宿屋、道具屋しかない。風俗宿は?」

「ないよ」

 

 効率よく金を稼ごうとすれば当然売春宿という考えにもなるかもしれない。

 

「ご主人、風俗宿ってなんなのだ? 普通の宿と違うのならばボクも行ってみたいぞ!」

 ほら、お子様が興味を持った。かつて俺も両親に山の上にあるお城に行きたいと言って困らせた事があった。

「ガルンさん、そんな宿はない。普通の宿で我慢なさい」

 

 正直さ。アステマはまだしもエメスはガルンの情操教育上とてつもなく悪いな。エメスを生み出したという北の魔王。もし生きていたら親父の次にぶん殴ってやる。

 

「そんなことより主。確か南の魔王アズリタン様が近々また遊びに来るって言っていたわよね? 同盟関係にあるとはいえ、相手はあの南の魔王。東の精霊王の天敵じゃない。そんなアズリタン様と同盟組んでいたら、精霊の加護は皆無と言ってもいいんじゃない? まぁデーモンである私からすれば精霊の加護なんて禁忌みたいな物だからとてもありがたいのだけれど、人間達はそうじゃないでしょ? 食物だって武器防具だってあらゆる物に精霊の加護をつけるじゃない。そのあたりはどうするつもりなのかしら?」

 

 いや、もっとはよ言え! そんな各地域のドンの関係性なんて知りませんわ

 あまりにも後出し、後付けロンに俺は頭が回らなくなってきた。

 こんな辺鄙な場所で、なんの加護もないとか……

 

 まぁ、そこは考えても仕方がない。


 今回はクエストではないのだ。自力で広大な庭の手入れをする。

 コイツらに何ができるか?

 モンスターという種族に属しているコイツらだが、ありがたい事にコミュニケーションは取れる。何が得意なのかゆっくりと知るのも経営者の責任だろう。


「……さて、じゃあ分担を話すから全員で協力して行えば問題も少ないだろう。いいか? ゆっくりでいい、言った事をちゃんと行う事が仕事だ」

 

 片目を閉じたエメスは不敵に笑う。なんか腹立つなぁ。

「ふふっ、マスターは焦らしプレイがお好きか? 我、あらゆる性癖に精通したり! 例えばそこで空気椅子で待っていろと言われれば一千年でも万年でも待つ事すらも我の稼働時間を考えれば、可能っ! ちなみに精通と言っても我は女型なので……むっ再びノイズ」

「お前何言ってんだ。あー、じゃあいいや。命令する」

「我、承諾したり!」

「とりあえず斧でその辺の木を切って丸太にしろ」

「なんというど変態プレイ……」

 俺が人工知能に関してもう少し知識があれば頭を書き換えてやりたい。

「……ご主人ん! ボクは? ボクは何をしたらいいのだ? ボクもご主人の役に立ちたいのだっ!」

 

 ガルン、きっと地球の日本にいたらいい子なんだろうけど。

 空回りして仕事できないタイプだ。

 

「……ガルンは俺と一緒にエメスが丸太にした物を加工する」

 

 ガルンは物凄い興奮して尻尾を振る。

 モンスターを連れ帰って地球でタダ働きさせる悪徳な連中が出てこないか心配になるな。

 


 拠点の仮設テント周辺。

 作業開始である。まず超怪力のエメスが周囲の木々を伐採。そしてアステマの風の魔法で枝やらの処理、当分にカットする。

 綺麗な綺麗な丸太の完成である。

 いつでも地球で林業の仕事ができそうだ。

 そして、そこから俺とガルンで木の加工。俺もやりながら覚えるしかあるまい。

 

 小屋を作るのに必要な木々は前日の夜にパソコンに入力済み。

 あとは材料を作ってプラモデル感覚で作っていけばいい。

 

「しかし、模型をプログラムした物を実寸大で作ろうと思うと中々ヤベェな。とりあえず部品はまだまだ足りないからどんどんやってくれ!」

「分かったわよ主。こんな木材加工に私のグレーターデーモンの力を使わせるなんて主だけなんだからね!」

 いつの時代のツンデレヒロインのセリフだろうかという小言を言いながら作業を続ける。

 そして意外にもエメスが真面目にしっかり仕事をこなしている事が少しばかり驚きの発見である。一応執事型なので仕事には集中すんのかな?


 俺たちが使う商店街本部の小屋は二階建ての一軒家を想定している。一応二階が各部屋で下が職場だ。

 やりだすと凝り性な俺なわけで、本格的なログハウスを構築しようとしているので部品が多い。

 しかし、部品が出来上がってくるとなんともやる気が出てくる。


 職場部分のパーツが一通り揃ったところで、俺は全員に休憩の指示を出した。今日はいつものレストランのシェフにお弁当の試作を作ってもらったのだ。

 シェフには2号店を俺達の商店街で弁当屋として出してもらう契約をしている。

 一応出資者は俺で、マージンもいただける。

 そんな弁当を三人に配って、冷たいベコポンの果汁をこれまた冷水で割ったドリンクも配る。

「これが、あのレストランのシェフに主が依頼して作らせたそのランチボックスなわけ? 中身はマッシュしたポーテトに甘くにたキャラットのグラッセ。そしてハンバーグをメインに主食は柔らかいパンなのね」

 説明ありがとう。

 そう、これは洋食のお弁当。


「まぁ、知らんと思うけど、俺はのり弁とか幕内的なものがいいんだけどな。誰の口にも合いやすい料理はハンバーグ弁当かなってな。あとガルン、ニンジンみたいな野菜どけて食うな!」

 野菜が嫌いって子供か! 少し前までは3食飯食える事が幸せ的な事言ってたのにな。

 いや……好き嫌いは行かんが、そんなことも言ってられない環境にあったんだな。

「あら? キャラット苦手なの? ガルンはダメダメね。それにしてもこのランチボックス美味しいけど冷たいわね」

 玉ねぎみたいな野菜の炒め物をどける奴が言うな! と言いたいが、色んな食べ物を食べて舌が肥えてきたコイツらは中々役に立つ。


「ヒートや、フィアなどの初級魔法で温めるという方法を我思いついたり! 初級魔法であれば当然我でも誰でも可能! 故に、我直感したり! 購入した者に直前で温めるのである! このようにフィア!」

 

 エメスがそう言って不敵な顔で俺に弁当を差し出す。ホカ弁じゃねぇか!

 すげぇ!

「おぉ、俺もやってみるか、かの旅人を温めたまえ! だっけか? フィア! ほれ、お返しだエメス」

「ふひひ! マスターの愛を得たり! 性的に!」

 いや、おかしいだろ……少し感動した俺の五分前を返してくれ! にしてもホカ弁は考え付かなかった。

 ここ異世界だもんな? 科学の代わりに魔法あんだよ。そういえば……

「お前達よくやった! この昼飯タイムがかなり有意義な物になった」

「マスターが性的に喜んでくれたのであれば我、至極恐悦!」

「はいエメス君、大変俺は喜びましたが、性的にではなく、経営的にですね。君の冗談は時と場合を選ばなさすぎるのでコンプラ違反をその内与えるぞ」



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「……ご主人、ご主人! 凄いのだ! 虚の森の巨木がアステマとエメスで切られて、ボクとご主人でその木を擦って、運んで! 並べて、要塞なのだ! 木の要塞ができてきたのだ!」

 事務所なんですけどね。

 ガルンが超テンションを上げているのでとりあえずいいか。

 

「……まぁ、俺たちの生活や仕事の拠点と言う意味では俺たちの城といってもいいか、そう! 要塞。まさに二階建ての天守閣ありの城を作る。そんで城を中心に遠くまで、見えなくなるまで色んなお店を出店してもらうんだ。最終目標は仕事の自動化だ。ショバ代やらマージンで生きていく」

 そう言えば、ずっと昔、小さい頃俺は商店街で育った。

 母さんと言った今川焼きの店。

 本屋さんでは週刊の漫画を発売日に買いに行き。

 コンビニなんてあんまりない田舎だったけど色んな物を扱っている商店でおまけ付きの駄菓子を箱に穴が開くくらい見つめて選んだっけ?

 ……これもまた偶然か?

 ………………運命とか思ってる俺、ロマンチストだなぁ。

 

「マスター、見栄えはいいが、地震や自然現象などで倒壊する可能性限りなく高い」

 ……そりゃそうだ。ただ建てただけだもんな。建築の知識なんて俺にはない。

 が、ここは異世界だ。科学や力学、物理を魔法で代用できるのだ。

 とりあえず、エメスに全力で本拠地の柱を地面に打ち付けさせる。

 大きな丸太を三本まとめて括って柱にする。


 一度作ってみたいと思ったんだよな。出雲大社の大柱。

 正直心が震えたね。

 神話とか呼ばれた時代に重機もないのに化け物みたいな社を作った昔の人。

 どれだけの時間をかけて建てたのか分からない。

 先人達は、重機はおろか、魔法すら当然使えなかったんだ。

 

「主。実は建築家か何かなのかしら? こんな立派な建物を考えるなんて」

 まだ完成には程遠いそれをみてアステマがテンションを上げる。

 そういや日本の神道は悪い物でもなんでも祀る世界一特殊な宗教だ。デーモンも神道からすれば神か、アステマもテンション上がるわけだ。

 

「いや、俺の住んでいたところにあった神社……神殿かな? を真似た完全なる劣化コピーだ。本物はもっとすげーぜ! お前達にも見せてやりたいな」

 

 まぁ異世界島流しにあった俺には向こうに戻る事は不可能でしょうけど……

 エメスが人工地震を起こすくらい柱を叩いて地面に打ち付けていく。


 続いてユニオンスキル、同盟により魔王の加護を使って耐震、耐熱等の補強を魔法で行うのだ。

 

「だ、誰かくるのだ! なんだか尻尾がソワソワするのだ!」


 ガルンが警戒してそう叫ぶ。またどうせしょうもない事だろうと思っていたが、アステマも身を固めてから俺に言う。

「主、聖なる加護を持った連中よ」

 

 言われた通りアステマが指さす方向を見ると、十人、いや二十人だろうか? 見るからに聖職者です。

 というジジイを筆頭にそれらはやってきた。

 

「ここに北の魔王の後継者にして、南の魔王・アズリタンと同盟を組んだ者がいると聞いたが誠か!」

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