モンスターは夢を語り、夢を見るか? というか人型のモンスターってなんなん?
北の魔王の宝物庫を冒険者ギルドに報告したらまさかの10000ガルドの報酬が入った。
要するにやや小金持になった俺なのだが、もう一つ面白いことを知った。
ガルンにアステマにエメス。こいつら三人というべきか、三匹と仲間になった事で四人パーティー以上のリーダー、要するに俺はユニオン結成権が発生したらしい。アプリが反応しなかったのは、地域によって条件が違うかららしい。その内このアプリは俺が改修しようと思う。まぁそのユニオンだが、要するにサークル、ギルド、レギオンなどのギルマス権限の事で、メンバーが多ければ多い程色々特典が増えるらしい。
ユニオンを結成すると、俺はユニオンスキルが使える様になる。
またこれがユニオンの大きさによってユニオンレベルが変わるので、俺のレベルとは関係がない。ようやくこの世界の理が分かってきた。はっきり言って魔物に比べてひ弱な人間が強力な魔物を倒せるのはこのユニオンスキルである。
有名な冒険者ユニオンや、王国騎士団みたいな連中も巨大ユニオン。
ユニオンは各地域の土地神的な奴の加護らしいのだが、ユニオンスキルによって伝説系の力を得る事で脅威的な魔物と人間がやりあえるってなもんよ。
そして俺は当然ユニオンを結成。四人パーティーでのユニオンスキルポイントは大して無いはずだったのが、俺に関しては何故か五十人以上のユニオン分のスキルポイントが付与された。これは、俺のチートではなく、後あと意味を知る事になるのだが……全体回復、全体強化等のユニオンスキル。本来であれば上級職じゃなければ使えないような魔法が行使できる。これは同じパーティー、およびユニオンのメンツから魔法を少しずつ力を借りる、そして土地神的な奴の加護
今回のダンジョン攻略でレベルが一つ上がった俺の魔法回数は四回と変わらないが、ユニオンスキルはなんと十回も使えるのだ。
要するに、俺は個人で必要なスキルをほぼ全て商人系スキルに振ることができる。うまくユニオンを増やす事で必要な補助スキルを取得。
3人とも超、馬鹿だが体力、魔法力、バイタリティに関しては人外のそれを持った労働力がいるわけだ。こいつらに戦闘を任せてその補助をする頭を使う部分は俺が行う
ようやく俺のこの世界でのロードマップが見えてきた。最終的には自動化なのだ。
あらゆることを自動化したいのである。
そう、CEOになるならオフィス、拠点が必要と考えるのはフリーランサーだった俺の小さな憧れだったのかもしれない。実際どんな事業を行うのかはおいおい考えるとして今日は前々からの約束があるのだ。
俺が冒険者、および商人見習いになれたのは武器屋のオッサンに件の斧のオークション出品とその手数料支払いの約束があるからだ。
そう、あの呪いの斧である。捨てても戻ってくるオーソドックスなホラーアイテム。今のところ俺が具合が悪くなったりはしていないのが救いか……
正直、三馬鹿トリオをオークションに連れて行くのは激しく嫌なのだが、小遣いを渡して放置する方がより怖い。
三人は冒険者目線では普通なのかもしれないが、他同族モンスターと同じ服装をしているので、近くの服屋で制服を仕立ててもらった。街にいる際はこれに袖を通させよう。
動きやすく、派手すぎないが流行に左右されない形状。ウェイターみたいな制服をベースにガルンは短パンタイプ、アステマは本人の希望でミニスカート、エメスはパンツスタイル。
デザインは同じなので、とりあえず従業員はこの路線で行くか……本人たちもそれなりに気に入っているようなのでこの静かなうちにさっさと終わらせたい。
三人には餌というかご褒美を渡している。
ガルンは牛肉のしぐれ煮、アステマはゼリー状飲料、エメスはバナナを二房渡している。
むしゃむしゃとそれらを食べて黙っている。
……何気に俺の持ってきた食べ物は今回で使い切ることになる。
一万ガルド、そして斧を売った際の金額が安くてもその十倍は行くだろう。
それを資本に食べ物の供給を考えようと思う。衣食住にコストをかけなくていい環境の組み立てが今後の流れだろう。
俺は正直食べ物はそこまで気にしないが住む場所は確保したい。
「マオマオさん、競売にかけるその斧をあちらに運んでおくよ」
武器屋の親父は今回のオークションの大目玉であるあの呪いの斧を見せびらかすようにステージに運び込む
「あ、主! 聞いてないわよ! どうしてヘカトンケイルを売りに出すのよ! 私が主の仲間になったのはヘカトンケイルを手に入れる為なんだからっ!
あぁ、そういえばそんな話をしていたなと思う。
しかしだ。こいつは忘れているんじゃないだろうか? 一度、そのヘカトンケイルとやらを持ち帰ってどうなったのかを……
きっと馬鹿だろうから、抱きしめて眠りについたんだろう。そして目が覚めるとヘカトンケイルとやらは無くなっていて、念のために俺のところにきたらそこにあった。
ここにいる大勢のオークショニアを騙すわけだから俺は耳打ちした。
「アステマさん、この斧。勝手に持って行っても結局俺のところに戻ってくるようになってるでしょ? この世界、拾得物に関しての取り決めがないので、拾った奴の物になるみたいですよ。だからダンジョンの宝物勝手にパクれるんだよ」
日本じゃ考えられないお話ですは……まぁ日本以外はトレジャーハンターが仕事になるらしいけど……
「あぁ、そうだったわ! 主。本当に考えていることが魔王そのものじゃない! 愚かな人間たちの泣きっ面が浮かぶようね」
「まぁ……静かにな……俺たちは静かに笑顔で、ヘカトンケイル様が高額落札されることを待ってさっさと帰るんだ」
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「なんとなんと! 今回の目玉商品は北の魔王も所有していた魔神器が一つ、破滅の主が所有した魔斧・ヘカトンケイルだ」
「十万ガルド!」
「こっちは十五万だ!」
「えぇい! 二十と二万!」
どう考えても戦士ではない連中が興奮しつつセリが始まった。こいつら俺の世界で言うところの転売厨だな。
よく考えれば俺もこいつらと同じような仕事をして行くかもしれないから少しばかり見学させてもらおうか……
ちなみに、俺はオフィスカジュアルスタイルに落ち着いた。
靴は元の世界から持ってきたスニーカー、一応魔法を使うのでユニオン結成でギルドよりもらったマント。明るめのジャケットにストレッチの入ったパンツだ。
某、外資系の青年実業家兼、魔法使い的な感じで割といい感じじゃないかと思う。
武器屋の親父曰く、このレベルのオークションは今日1日は終わらないらしい。ある程度の金額が決まり一日目が終わる。
そして二日目で出せるだけの金額を持って企業なのか、富豪なのかが、最終落札が決まるらしい。
「出品者はオークションが終わる間は用意された部屋にレストランも使えるから自由にしておくといい」
武器屋の親父に取引のあたりは任せておいて、この間に別の仕事について考えるか。
「それなりの運転資金が手に入るだろうからどうしても拠点が欲しいな。オフィスにもなり、自社店舗にもなるのが理想だけど、最初は賃貸的な……」
「虚の森があるのだ!」
「ガルンの森があるじゃない」
いや、遠いし……と言おうと思った俺だが案外悪くないかもしれない。街に拠点をわざわざ置く必要はないし、森なら家賃がかからないかもしれない。
“アプリ起動。この世界における領土問題に関して、北の地において虚の森の所有権を主張する国家などはありません。よって、猫々様の拠点として指定する事。また、領土として主張する事も可能になります。ただし正式に権利主張をする場合、教会の発行する権利書の作成をお勧めします。それにより、虚の森一体を猫々様の占有領土として貸し出しなども可能になるでしょう“
「現地にいる魔物よりも、俺の世界のアプリの方が優秀だと思うと泣けてくるな。にしてもいいことを聞いた。やや不便である事を除けばコストがかからないのは大きい」
俺の考えに一見クールビューティーなエメスが真顔で言った。
「人気のない森であればどんなプレイでもマスターの思いのまま」
「エメスくん、君は何を言っているのかね」
「マスターのあらゆるプレイに対応する所存!」
よく自立する美少女型アンドロイド物の作品があるが、リアルにいると自立思考するぶん実に厄介である。
機械という物は物言わない無機物である事が一番素晴らしい事をこいつを見て今一度考えさせられたよ。
「おいお前ら、これから仮に虚の森を俺たちの拠点としたとして、俺たちは商売をしていくことになるんだけどさ。お前たち何かやりたい商売とかってあるか? なんでもいいぜ。レストランであるとかさ、物流であるとかさ、なんなら派遣会社ってのもありなのかもな。お前ら魔物が人間の生活でこれしてみたいって職種ある?」
俺のその言葉にはらぺこ駄犬であるガルンが発言した。
「ご主人! ボクはレストランがいいぞ! 美味しいものをたくさん食べられるのだ!」
よし、こいつは給料の代わりに賄いだな。
「私は装備屋ね! ただの装備屋じゃないわよ? 古今東西、珍しい武器やアクセサリー、それにこの主が用意してくれた衣装とかも取り扱っていると尚いいわね。毎日自分を着飾るのはデーモンとしての大切な身だしなみよ。人間の分際で私よりもこういう事を楽しんでいるのを知った時は私ならもっとうまくやって見せるわと思っていたの!」
なる、武器屋っつーかブティック的な物がこいつはしたいのか。
「我は、遊び場。性的な意味で、老若男女。そしてマスターの脳がとろけてアヘ顔ダブルピースになるような」
却下。
虚の森の広さはどのくらいだろう?
東京ドーム何個分あるのやら多分推定だけど十五万平方メートルくらい。ドーム三個分くらいか……
ん? これって作れるんじゃね? ガルンのレストランも、アステマのブティックも、また性的な意味のない遊び場も……
駐車場の概念は一旦この際おいておき、俺はこの異世界での展望が見えてきたような気がする。
「これきたんじゃね! 複合商業施設を作る事を念頭においていけば、敷地を広げていけばいいし、テナント貸し出しもできるな!」
俺の大いなる独り言。それに関してポカーンとしている三人。
“アプリ起動。猫々様の今後のルートが確定しました。ショッピングモールの作成。“
俺の事をわかってくれるのはアプリ様だけです。好き。
「もぉおおおり上がってきましたぁああ! 今回の目玉商品であるヘカトンケイルの明日の値が決まったところで、その他注目のルーンが刻まれた武具です」
「二万ガルドだ!」
外のセリは盛り上がっているようだ。
モンスター娘三人が変な事を起こさないようにとりあえず飯でも連れていく事にした。
「おーい。とりあえず飯食いに行こうぜ。ここ、この前俺たちが苦労して作り方を教えたカレー出してる店が出店してるらしいぞ」
俺が飯を食べに行こうと言うと真っ先にガルンが尻尾を振る。こういう時はこいつのこの反応は助かるな。カレー以外にもカツレツやコロッケなどの揚げ物もいつくつかあの店には教えている。それなりに人気を博していると聞いている。
やや口うるさいがアステマも食べることには割と目がないわかりやすい奴なのだが、一番はそもそも食べ物を必要とするのか謎なゴーレムのエメスだ。
「え、エメスは何が食べたい?」
艶かしく、上目遣いに俺を見るエメス。そして人差し指を口元に触れる。
そしてその指を根元まで咥える。こいつを作った北の魔王という奴はマジもんの馬鹿なんだろうな。
こんな超科学の塊、使い方がもっと他にあるだろに……嘆かわしい。
異世界、正直自然現象も物理法則も理解できない事だらけなのに……
なんというか、そそらないな。本来であれば俺の知らない未知の生物を前にしているのに、俺はこの長身の残念な美人が言う言葉に耳を塞ぎたくなった。
「強いて言えば、バナナだなマスター」
果物の……ですよね? エメスさん。
ちょっとしたお祭りみたいなこのオークション会場内は飲食する店が多く出店している。とはいえ、バナナはないな。こればかりは俺が持ってきた物を与えよう。
「濃厚で、口の中でねちゃねちゃと絡みつようで、時折苦い部分があるが、特濃ミルクのようで美味い」
「言い方! そんな紅潮してバナナを食べる頭のおかしな子は俺のパーティにはいりませんよ!」
こいつわざとやってるんじゃないだろうな……いや、そういう風に作られたと信じたい。
周囲の連中の視線が痛いのである。それなりの美人に羞恥プレイを強要している俺の図に取られているようでいただけない。
エメスはよほど燃費がいいのか、あるいは本来バナナを食べる必要はないのか、これ以上の栄養補給は不要らしいので、ガルンとアステマが食べたいという串焼きみたいなレストランに入った。
これは、多分俺の世界の料理っぽい。
日本料理とは違い下味を付けていないけれど、ソースが異様にうまい。
こういうのなんて言うんだっけ? サテーだったかな?
「ご主人! これ、すんごいうんまいぞ! ご主人がボクにくれたご主人の肉に勝らずとも劣らないのだ! 噛めば噛むほどに旨味が出てくるのだ! こんなに美味しい物はあのご主人の肉以来なのだ! 食べる手が止まらないぞ! こっちの辛いのも美味いのだ! こっちの辛いのも美味いのだ! おかわり! 同じものを十本ずつ追加を所望するのだっ!」
「いや、待て! 美味いのはわかるが流石に食い過ぎだ。腹壊したらまた治療の費用がとんでもない事になるんだからな? 腹八分目に抑える事。分かったか? 美味しい物はお腹いっぱい食べたいものだが、少しだけ抑え目がマナーだ」
ガルンは俺にそう言われて今注文した物を食べると串についたソースを舐めたいのを我慢してうなづいた。
「わ、分かったのだ! ご主人の肉もうまかったのは本当だぞ!」
「うん、そのご主人の“くれた“を略して言うのをやめような?」
俺が自分の体の一部をこいつに食わしているように思われるじゃないか、なんかそう言う戯曲があったよな。
「マスター、マスターの体の一部を食すことで我、新たな領域へのクラスチェンジを期待したり、是非に、ガルン氏に賜ったというそのマスターの雄々しき肉片を我に!」
何言ってるんだこいつは……黙ってバナナでも食っとけ。
「全く、二人とも恥を知りなさい! 主が困っているじゃない!」
「おぉ、アステマさん。突然のキャラ変にやや不安が広がるが……」
俺は、きっと思い過ごしだと思って俺の肩をもつアステマを見る……あぁ、これはきっとダメな奴だ。
「あーるーじぃ! わたぁしは……わたぁしはねぇ?」
なんとも懐かしく、喉が鳴る匂い。焼肉や、揚げ物のお供にこの一杯。
信じられないがビールだ。
「おい、飲酒は許可してないだろ!」
俺はこのアホデーモンにきつく説教をする為に強い口調でそう言った。
すると、今まで謝罪をする機能が働いていないかと思われたアステマの瞳から涙が溢れた。
俺は、女子を泣かせた事と言うのは、過去に何度かある。
認めよう。子供の頃に何気ない一言で学級会の議題にまでされ謝罪をし続けたあの日、そして大人になって初めて恋人という人物ができたとき、考え方の違いでただ俯き泣きじゃくったあの人。
いずれも俺は……自分が悪いと思った。
「おい、酔っ払い! 顔洗ってこい!」
でも、今回は百ぱー俺は悪くない
「……うっうっ! なんでそんな事いうの? 主、私を騙してパーティーに入れたよね? それでも私、いう事ぉ聞いてきたのにぃ……ひどい、ひどいわ主! 私とは遊びだったのねぇ! 私のこと……好き放題使ったくせに」
「あの……すみません。もう勘弁してください」
女の子を泣かせたら、男は負けである事を異世界でも知らされた。




