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灯台下暮らし  作者: 夜寝眩
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4

唯の家は学園の最寄り駅から3駅にある。駅からは少し遠く、歩いて行くには少し疲れる場所だ。唯はもう慣れたらしく、運動にもなって良いと言っている。

「いつ来ても大きいなぁ、この家」

外壁の門から中に入り屋敷の玄関前に立って僕は周囲を見渡す。

昔から何度も遊びに来ているがこの屋敷は本当に大きいと思う。この規模以上の家をまだ見たことは無い。

高校生になって世間というものを理解してきた今は、唯の家が相当な資産家であると改めて実感させられる。

「え?何度も来ているでしょう。今更どうしたの?」

「というか、修君のお家も大きいとおもうけど」

確かに僕の家も一般的なものと比べれば大きいと思う。邸宅と言ってもいいかもしれない。

ただ、唯の家程ではない。家の規模もそうだが、歴史や伝統といったものがこの屋敷に感じられる。さすが代々大企業を経営している一族だ。

「唯も周りが見えてないんじゃない?」

さっき唯に言われた言葉の意趣返しのようになってしまった。でも唯もそろそろ世間というものを知るべきだと思う。

「え?どういうこと?」

先ほどの僕の反応と全く同じ反応に思わず笑ってしまう。

「なによ。なにがそんなにおかしいのよ」

「ゴメンごめん、でも唯が僕と全く反応しているからおかしくて。予想していたけど笑っちゃったんだ。」

笑われたことに拗ねている唯を謝りながらなだめる。

「もう、早く入ろうよ」

唯に促されて大きい玄関に入るとお手伝いさんが迎えてくれる。

昔から吉野家で働いている人で僕も知っているお手伝いさんで植木さんという。

植木さんにお帰りなさいませといわれ。唯はただいまと答える。

「あら、今日は修様もご一緒ですか。いらっしゃいませ。お正月以来ですね」

「様はやめてくださいよ。背中がムズムズします」

植木さんはクスクス笑って、では昔のように修君でいいですか。と聞いてくる。

「それでお願いします。でもなんで今更様付けで呼んだんです?」

「お嬢様も修君ももう高校生ですからね、そろそろ接し方を変えたほうがよろしいのかと思いまして」

僕はこれからも昔のように接して下さいと苦笑しながら言って唯と一緒にピアノが置いてある部屋に向かった。


長い廊下を曲がったところで意外な人と遭遇する。

「唯おかえり。え?修ちゃんじゃない!久しぶりね!今日はどうしたの?」

唯の姉で咲さんだ。

雰囲気が僕の姉さんに似ているが、髪は明るく染められ長い髪がふんわりと巻かれている、大きい目だが目じりが下がり気味で優しい雰囲気があり、モデルのようなスタイルの良さと相まってとても美人だ。

「姉さんもどっていたの?」

唯の問いかけに咲が答える前に修が問いかける。

「咲姉!正月ぶりだね、戻っていたんだね」

唯と同じく昔から付き合いで、僕はいつも咲姉とよんでいる。

面倒見がよく昔からよく遊んでもらっていた。

咲姉も渚学園に通っていたが、大学は実家を出て東京の大学に通っている。それに伴って東京で一人暮らしをしているそうだ。大学は今2年生だ。

実家のある神戸に戻ってきているのが少し気になったので聞いてみると

「ちょっと家の用事でね、お父さんとお母さんに呼ばれて帰ってきているんだ。しばらくは家にいるよ」

名家の長女という事もあって家の事情で色々と顔を出さなければならないことがあるのだと正月に言っていた記憶がある。

「お父さんもお母さんも私には何も言ってなかったけど・・・姉さんも戻ってくるなら一言言ってくれればいいのに」

なんだか家族の中で仲間外れにされているような雰囲気になって唯が少しむくれている。

「ゴメンって唯、私も急だったし、唯はまだ高校生になったばかりでしょ、家の事にあれこれ巻き込むのはまだ早いと思ったんじゃないかな、お父さんもお母さんも」

「むぅ~」

咲姉の前では唯は子供っぽくなる。この姉妹はとても仲がいい。

こういう光景を見ると自分と姉の今の関係性と比べてしまう。

「咲姉、いつまでこっちにいるの?」

「ゴールデンウェークが終わるまではこっちにいるよ」

「そっか、じゃあまた皆でなんかしようよ!バーベキューとかいいんじゃない季節的にさ」

うーんと咲姉は少し考える。

「結構予定詰まってるからなぁ、大学のレポートとかもあるし、あんまり時間ないかも」

見るからに肩を落としている僕をみて咲姉は困った様子で

「そんな残念そうにしないでよ~」

仕方ないなぁと咲姉は微笑む

「じゃあ今日やっちゃおっか。バーベキュー」

修ちゃん今日予定あいてるよね。と確認をしてくるので食い気味にあいてるという。

「修君」

唯をそっちのけで咲姉と話をしていたので、唯がとても不服そうな顔で見てくる。

「私との予定忘れてない?さっきから姉さんばかり気にしてさ」

ジトっとした目で見られて僕は焦る。

「忘れてないよ。ピアノでしょ」

「ああ、修ちゃん唯のピアノの聴きに来たの?」

「うん、なんか無性に僕に弾き聞かせたいらしい」

「・・・あ~、高校生になっても変わらないねぇ」

苦笑しながら咲姉が言う。

「まぁバーベキューの用意は植木さんとしておくから、唯のピアノ聴いてあげて。そのころにはお父さんとお母さんも帰ってくると思うから。一緒に食べよ」

梨沙ちゃんにも声かけようか?と咲姉が聞いてくる。

当然の流れで聞かれることだと思っていたけど、今の姉さんとの関係を考えると難しい。誘っても来る可能性は低いと思う。あまり触れらたくないことに表情が少し曇る。

「姉さんは最近なんか悩んでいるみたいで、僕ともあまり話したがらないんだ」

「そっか、梨沙ちゃんも3年だしね、色々あるか」

少し暗くなった僕の表情を見て咲姉は気を使ってくれたのか、すんなり引き下がって言う。


「じゃあ修君いこっか。さっさと叩きだしちゃおう」

話を打ち切るように唯が言う。僕としてはタイミング的に良かったけど叩き出すって何?ピアノでなにする気なの?繊細な楽器だよ?大事にしようよ。怖いよ。

咲姉が笑いながらいってらっしゃいというので改めてピアノのある部屋に唯と一緒に廊下を歩き始めた。


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