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私立渚学園。初等部から大学までの一貫校であり、全国でもトップレベルの学校でもある。小学から入学した者がそのまま大学までエスカレーター式に進学することが当たり前でありながら閉鎖的ではなく、むしろ多様な特待生制度により、スポーツや勉学、芸術など、秀でた才を持った者が全国から渚学園に途中で入学してくることも多い。
学園の校風は比較的自由的で、生徒同士互いに高め合っていくことを重要視としているようで、その校風から、初等部からいる者とほかのタイミングで入学してきた者との間に壁はほとんど無い。
そんな学園で初等部から在籍している修は高等部に進み、4月も終わりに近づき人間関係にも変化があったもののクラスにだいぶ馴染んできた修は、高等部に新しく入学してきて仲良くなった真鍋と放課後の教室で話をしていた。
「修は本当に梨沙さんが好きだなぁ」
彼はサッカーが得意なのだそうで、特待生として高等部に入学してきた一人だ。
渚学園の部活動はどれもレベルが高く、毎年どこかの部は全国大会に出場するほどだ。
もちろんサッカー部も強豪と言っていいレベルであり、そこに所属している真鍋は、1年生ながらレギュラーを狙えるほどの実力を持っている期待の新人だ。
人当たりも良く明るい人間で、僕やほかのクラスの人ともすぐ仲良くった。
そんな彼に最近の姉との関係を相談してみた。
「好きとか嫌いとかじゃなく心配じゃない?姉弟だしさ」
そう、好き嫌いの問題じゃない。ずっと一緒に暮らしてきた家族であり、中等部の頃は勉強などもよく教えてもらっていた。家族で出かけては何かと姉を一緒にいることも多かったが、僕が高等部に進むあたりから、姉弟関係に急にヒビが入った。最近ではろくに会話もしていない。
「まぁ、梨沙さんは3年で進路とかいろいろ考える事があるんだろ。考えがまとまったらまた話せるようになるさ。心配するなとは言わないけどあんまりしつこいと余計に関係が悪くなるんじゃないか?」
真鍋の言う事ももっともだと思う。最近の姉は話かけると機嫌が悪くなっているようにも見えるし、あまり気にしすぎても良くないのかもしれない。
「あとはそうだな、彼氏ができたとかじゃないか?」
「・・・は?」
何を言われたのかを理解するのに少し時間が必要だった。言葉の意味を理解できても、だからといって今の姉弟関係にその要素が関係することなのか?意味がわからずとっさにでた言葉に真鍋が少し焦った様子で言う
「怖い!怖いよ!そんな目で見ないで!修のそんな低い声初めて聞いたよ。ほんとに怖いよ」
どうやら自分でも信じられないような声音で言ったみたいだった。
声にそこまでの感情がこもるものなのか。驚きだ。
「どうしたの真鍋君?修君がどうかした?」
そんな状況に綺麗な声を出す女の子が話に加わってくる。
「吉野!修が見たことない恐ろしく冷え切った目でオレを見てくるんだよ!」
そんな変なこと言ったかなと真鍋は心底疑問に思っている様子だ。
吉野唯、幼いころからの付き合いで学園では一緒にいることが多い友人の一人だ。
長めのすこし茶色が入った髪を後ろに丁寧に編み込むようにしたハーフアップの髪型をしている。整った顔立ちで大きい目、小柄で可愛らしい見た目をしているが、しっかり者で成績も良く、頼りになる女の子だ。幼いころから家族ぐるみの付き合いで、学園でも一緒にいることが多い一人だ。
「あー・・・もしかして梨沙さんのこと?」
古い付き合いとあって、知っていますよ言わんばかりだ。
「そうそう、最近仲が悪いっていうから、進路で悩んでいるのか彼氏でも出来たんじゃないかって言ったら急に怒り出してさ」
「怒ってないよ。ちょっと理解が追い付かなかっただけだよ」
怒ってはいない。意味が分からなかっただけだ。
「そんなに変かな?弟の修にこういうのも失礼だけど、梨沙さんすごい美人だろ?梨沙さんに好意を持つ男なんていくらでもいるさ。まぁ梨沙さんに釣り合う男っていうのはなかなか難しいかもしれないけどさ」
そして何か思い出すように上を見ながら顎に手を添える真鍋が続けて言う
「でも梨沙さんってあまり周りを気にしなそうというか、そういうつり合いとか関係なさそう」
すると真鍋がそれ以上しゃべる前に唯が話に割って入る。
「真鍋君っ!そういえば今週試合じゃなかった?」
急に話を変えられて真鍋が驚いた様子で視線を下げて唯をみてから僕を見る。
「っ!? そ、そうなんだよ。練習試合だけど出られるからさ、結果出して次につなげたいなと思っているんだよ。」
真鍋は驚いた様子で話を合わせる。どうした?
「そういえばそうだったね。応援してるよ」
急な話題変更に合わせた真鍋を疑問に思いながらも僕もそれに合わせて言った。
「おう!早くレギュラーになって公式試合に出られるようになりたいしな。じゃあオレ部活行って来るわ。また明日な二人とも」
頑張って。と唯と修は真鍋を見送った。