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革命などろくなものではない

「一番の理由は、革命軍の存在だな」


 穏やかではない単語に、二人の表情がやや険しくなった。


「実はさっき、クラウスに誘われたんだよ。一緒に革命軍に入らないかって」

「ねぇラビ、革命って……王様を倒して国をてんぷくさせてっていう、歴史の授業で習うあれのことだよね?」

「つまり、クラウスは革命軍と繋がりがあるのか?」


 少し怯えた表情のハロウィーと違い、王に忠誠を誓う騎士であるノエルは、至極真剣な表情だった。


「そういうことになるだろうな」

「すぐに憲兵に突き出すべきだ」


 俺が頷くと、ノエルは声を鋭くした。


「革命は明確な反逆行為だ。革命行動は罪なき民を巻き込み国の秩序を乱す。騎士として見過ごせないッ」


「といっても証拠がないからな」

「イチゴー達に音声は残っていないのか?」


「あの時はイチゴーたちはいなかったし、仮に録音してもジョークだったと言われればそれまでだろ」

「それは……」


 前のめりに浮かせた腰を下ろし、ノエルは落ち着こうとするように、お茶を一口飲み込んだ。


「ふぅ、それでラビ、貴君は革命軍への誘いを断ったんだな?」

「当たり前だろ? 革命って、ようするに内紛じゃないか」


「そうだ。そして歴史を学べばわかるが、革命などろくなものではない。過去、世界中の国で幾度となく革命は起きているが、玉座に座る者が替わるだけで、国が良い方向へ変わった例がない。革命家とはいつの世も理想を唄い、そして忘れるものだ」


「クラウスが所属しようとしている革命軍の目的はちょっと違うみたいだけどな」

「どういうことだ?」


「クラウスの話だと、自分たちが支配者になるための革命じゃなくて、王族や貴族の身分支配を無くすための革命らしい。それで平民が国を治める平民中心の世界にしたいらしい」


「民主主義、立憲制、法治国家という政治体制だな」

「なにそれ?」


 この場で唯一、平民出身のハロウィーが尋ねた。


「古代から思想家や哲学者の間で唱えられた国家体制だ。細かい差異はあるが、定期的に行われる市民投票で選ばれた元老院達が話し合いで国の舵取りを行い、物事の処遇は法律に従うやり方だ。貴族、王族というものはなく、統治者は代官のような雇われ領主で給料で事務的に徴税を行うらしい」


「それって、何か問題なの?」


「問題大ありだ。古代にはそのような国家体制の国もあった。しかし、いずれも元老院達が派閥争いに明け暮れ、賄賂など非合法な票の取り合いが横行した」


 それは、地球の先進国でも実際に起きている問題だ。

 ノエルはさらに熱意を込めながら力説した。


「さらに責任を皆でたらい回しにしたり国難の対処方法が決まらず何か月も会議をしている間に取り返しがつかなくなり国が滅んだ例もある。結局のところ、国とは強い権限を持った一人の賢者が治めるのが一番ということだ」


 封建制度の国で生まれ育った軍人貴族の娘であるノエルとしては、当然の価値観だろう。


 実際には、賢者がトップになることは稀で、絶対王政は暴君を生みやすい。

 ただ、民主政が王政の上位互換ではないというのは賛成できる。


 ——日本史の授業で習ったけど、日本でも明治維新で身分制度が無くなった。でも、明治新政府の主要メンバーの多くは革命を成し遂げた薩摩(現鹿児島県)、長州(現山口県)の人間で、薩摩と長州の独裁政権でしかも互いに派閥争いをしていたって評価もあるしな。


「へぇ、でもラビ。それとイチゴーちゃんたちってなんか関係あるの?」


「話が逸れちゃったな。問題なのは、クラウスがイチゴーたちのことを理由に俺を救世主扱いしているってことなんだ」


「う~ん、間違っていないと思うんだけど救世主はほめすぎじゃない?」


「ハロウィーの言う褒め言葉じゃなくて、そのままの意味だ。神話を記した聖典には、いずれ再び救世主が現れ世界を救うってある」


「うん、わたしも聞いたことあるよ」


「これを貴族社会ではまた魔王が現れた時、優秀なゴーレム使いがそれを倒すって意味だと解釈されている。けど、革命軍は天才的なゴーレム使いが王族貴族を倒して平民を救うって意味だと勝手に思い込んでいるらしいんだ」


 テーブルに肘をつき、ノエルが前のめりになった。


「つまり、ラビのゴーレムが巨神兵の後釜だと?」

「ああ。イチゴーたちは特別なゴーレムだ。自分で考えて、動いて、まるで人間だ。それでクラウスは、俺こそが救世主だと考えたらしい」


 女神は俺と同じ異世界転生者の可能性があるので、可能性はゼロではない。

 でも、今はその話は伏せておく。

 俺の正体を言えば、きっと二人は混乱するだろう。


「だから、あまりイチゴーたちの凄さが広まると、似たようなことを考えた奴が暴走しないとも限らない。もちろん俺は手柄を立てて貴族に戻りたいし、一生隠しておくつもりはない。だけど、世間に公表するのは俺が自衛できるような力を得てからにしたいんだ」


 ノエルはあごに手を添え、探偵のように理知的な表情をした。


「なるほど、確かに今なら革命軍がラビを拉致し監禁する事も、勝手に旗頭に担ぎ上げ、革命の象徴にする事もできてしまう。だが、ラビがSランク冒険者に昇りつめたり、大貴族や王族との太いパイプができれば、連中も派手な事はできない、か」


「ああ」


「心得た。イチゴー達の事は、他言無用にしよう」


「うん、わたしも絶対に誰にも言わないよ」


 ハロウィーは可愛い顔ながら、やる気に満ちたように眉を吊り上げた。そうすると、ちょっとだけ凛々しく見える。


「ありがとうな……ただ、革命はどうかと思うんだけど、クラウスの気持ちも少しだけわかるんだよな」


 俺の言葉に、ノエルが心外そうな顔をした。


「待つんだラビ。それはどういう意味だ?」


★本作2巻が発売中です。

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