ドローンでマッピングしようぜ
ノエルに頭をなでられたイチゴーは、その手にころころと甘えた。
「じゃあそろそろ会議を始めるか。てきとうに座ってくれ」
俺が着席を促すと、二人の視線はイスとテーブルに向いた。
平民科の木目剥き出しの部屋の中には場違いな、象牙色の上質な家具に二人は興味を惹かれていた。
「これってラビのスキルで作った家具だっけ?」
「土から作ったのだったな? 陶器や土壁のようなものか? すべすべとして肌になじむ、珍しい家具だ」
——一応ケイ素素材ってやつなんだけど、専門的なことは俺も知らないんだよなぁ。
「ほい、お茶とお菓子」
炎石で作ったコンロで沸かしたお湯を使い、森で採集した薬草茶を淹れさせてもらった。
それをお盆に載せて、イチゴーとニゴーに運んでもらう。
二人共身長は赤ちゃん並の五〇センチなのでテーブルに届かないのはご愛敬。
ハロウィーとノエルは笑顔で自らお盆を受け取った。
「む? ラビ、小皿が空なのだが?」
「イチゴー、クッキーを頼む」
『まかせてー、えいー』
むぎゅっとイチゴーが謎のポーズをキメると、ハロウィーとノエルの小皿の上に青いポリゴンが出現。
消えた後には、きつね色のクッキーが一〇枚載っていた。
「いい香りぃ」
ハロウィーは顔をほっこりとゆるませた。かわいい。
「ラビのスキルは料理も作れるのか?」
「なんでも作れるわけじゃないけどな。構造が単純なものならある程度は。味は保証するぞ」
ハロウィーがクッキーを口にすると、目がほころんだ。
「おいしー。甘くてサクサクだよぉ。こんなおいしいクッキーをすぐに作れるなんて、ラビとイチゴーちゃんはすごいことだらけだね」
『すごいのー』
両手を腰?に当てて、ちょっと胸?を張るイチゴー。
「うむ、これは貴族に出しても恥じることのない味だ。商品になるぞ」
子爵家令嬢で、高級な菓子を食べ慣れているはずのノエルも、クッキーとお茶の味に感心していた。
「……このクッキーを作ったのはラビとイチゴーどっちになるのだ?」
「俺だけどスキルの使用にはイチゴーが側にいないと駄目だな」
息を吐いて、ちょっと説明モードになる。
「俺自身のスキルはゴーレムを生成すること。そのための材料をストレージに保存すること。それ以外の派生スキルはイチゴーを介して使っている。それが俺の弱点だな」
「ではイチゴーは森へ行かせず常に側に控えさせていたらどうだ?」
「それは可哀そうだろ? イチゴーだけ外で遊べないなんて」
途端に、ノエルが微笑を浮かべた。
「ふふ、やはりラビはラビだな」
「どういう意味だ?」
「そのままの意味さ」
ノエルは涼やかに笑った。
「じゃあそろそろ今後の方針について話そうか」
俺もテーブルに着くと、ノエルが軽く手を挙げた。
「その前に、明日行われる、貴族科との合同授業について話さないか?」
「そういえば、掲示板ホールでもそんなこと言っていたよな。じゃあノエルとも組めるのか?」
「うむ、明日は世話になる」
普段は厳格なノエルの声がちょっと弾んでいる。
イチゴーたちと組めるのがよほど嬉しいらしい。
「明日は探索階層の規制も解除され、各チームごとに自由に探索ができる。ハロウィーから聞いているが、ダンジョンの地理に詳しいクラウスのいる我々は有利だな」
「そのことなら、明日はたぶんクラウス抜きだな」
ハロウィーがまばたきをした。
「え? どうして?」
「最近、俺らクラウスと組みすぎじゃないか。正式なチームでもないのにこれ以上組んだら他の生徒からやっかまれる」
「う~む、学園新聞での扱いを見る限り、ラビ達は事実上の正式なチーム扱いであったし、問題はないように思うが?」
「みんなもそう思っているかわからないだろ? それに俺がクラウスの誘いを断った時、気にしなくていいとか僕らは親友だとか言っていたけど、こっちが気まずいって」
「ていうことはダンジョンの地理を知っている人がいないってこと?」
ちょっと不安げなハロウィーに、俺は頷いた
「ハロウィーの言う通りだ。けど、安心しろ。俺ら一年生は地図の閲覧はできないけど、俺のドローンでマッピングはできる」
俺はストレージから一台のドローンを取り出し、天井辺りを自由に飛ばしてみせた。
「こいつには映像記録機能がついている。これをダンジョン中に飛ばしてイチゴーと情報を同期させてマッピングすれば、明日は有利に進めるだろうな」
「それはいい。何から何まで、高等部になってからラビは規格外だな。正直妬けるよ」
「火傷させて悪かったな。でも規格外なのはイチゴーたちだよ」
俺がイチゴーを抱き上げると、ハロウィーも貪欲にサンゴーを、ノエルも欲望のままにニゴーを抱き上げ、なでくり回し始めた。
なんという本能の奴隷。
「ただ今更なんだけど、イチゴーたちの能力は秘密にしてくれないか?」
「どうして?」
「悪用を防ぐためか?」
「ノエルの言う通りだ。でも……」
一瞬、クラウスとのやりとりを話してもいいものか悩んで、だけど俺は二人にはむしろ打ち明けるべきだと判断した。
「一番の理由は、革命軍の存在だな」
穏やかではない単語に、二人の表情がやや険しくなった。
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