AIスキルの可能性
姿勢を正して、クラウスは軽く拳を作り俺にかざした。
「さらに力を得て、王族や貴族たちの不正を暴き、冒険者以外の平民たちにも自信を与えて団結させ、貴族の横暴に対してNOと言える社会にする。貴族たちはいずれ保身のための粛清をするだろうから、それを倒せば合法的に平民中心の世界になる」
理想の未来図を、夢を語りながら、クラウスは両手を広げて語気を強めた。
「君も見ただろう。町を復興し、救われた人々の笑顔を。女神像を守り抜き貴族たちを退けた時のみんなの安心した顔を。僕はあの表情を世界中に広めたいんだ。ラビだってそう思ったはずだろう?」
「でも、だからってなんで俺を誘うんだよ。俺なんて、たかが十五歳の子供だぞ? 3D、じゃなくて、再構築スキルで武器を作れる程度で買いかぶりだよ。武器が欲しいならもっと他に方法があるだろ?」
「イチゴー君だよ」
満を持したように、自信の溢れる声だ。
その一言に、俺は心臓が硬くなる想いだった。
——やっぱり、こいつはイチゴーの正体を知っているのか?
俺の沈黙をどう捉えたのか、クラウスは演説をするように堂々と、そして含みを持たせるように話し始めた。
「あれは神話で女神が操った巨神兵側の存在だ。聖典には世界が闇に覆われた時、救世主が降臨しゴーレムと共に世界を救うとある。貴族たちはこれを勇者みたいな存在が魔王を倒すと考えているみたいだけど、僕の考えは違う」
俺を説得しようとするクラウスは、感情を込めて、熱弁を揮ってきた。
「考えてもみてくれ、聖典は魔王を倒す、ではなく世界を救うと書いてあるんだ。現代の闇とは王族貴族そのもの。つまりこれはゴーレム使いが平民を王族貴族たちの圧政から解放するという意味に他ならない。それが君だ!」
普段の爽やかさの下に、こんな熱い想いを隠していたのかと俺が驚くと、ついにクラウスの足が動いた。
一歩ずつ、俺との距離を詰めながら、クラウスは後ろの席に座った。
机を隔てて、だけど正真正銘、同じ目線の高さで彼は問いかけてくる。
「お兄さんとの決闘は僕も見ていたけど、君のゴーレム、自分で考えているんだよね?」
「そう、だけど……」
「それはあり得ない。ゴーレムとは魔力を燃料に外部からの命令通りに動くからくり人形。農機具のような道具の延長だ」
目の色を変え、クラウスはまるで未知なる発見を前にした学者のように声をはずませた。
「自ら考え、勝手に動くということは、つまり魂を持っているということだ。この意味がわかるかいラビ? 君のスキルの本質は魂の創造。これは神にも等しい、人ならざる権能だ」
まるで予言者が世界の真実を告げ、未来の救世主を誘うような口調に、だけど俺は困ってしまった。
——勘違いしている。
魔力とは魂から生まれる精神エネルギーだ。
本当に魂があるなら、魔力供給なんて必要なく、自分たちで魔力を生み出せるはずだろう。
俺は、イチゴーたちはAIだと思っている。
いかにもAIチャットな神託スキル。
いかにも3Dプリンタな再構築スキル。
いかにもドローンな小型飛行ゴーレム生成スキル。
そして神話の女神が作ったとされる、どう見てもロボット然とした巨神兵や教会のゴーレム。
魂なんてなくても、高度にプログラミングされた疑似人格があればそれは人格たり得る。
だけどそれは、令和日本人の俺だからこそわかる概念だ。
文明レベルが中世程度の異世界に生きるクラウスに、AIの話をしても理解できないだろう。
——まぁ、AIプログラムを目で見たわけじゃないから、魂じゃないって証拠もないけど。でも、いくらなんでも魂を作るスキルなんて、現実味が無さすぎるだろう。
俺の悩みには気づかず、クラウスは机越しにゆっくりと、手を差し伸べてきた。
「さぁラビ、この手を取ってくれ。そして、僕と一緒に新世界を築くんだ」
「……」
手の平は横ではなく上に、俺の顔に向けられていた。
何もやましいことが無い、手の内を見せきった友好と信頼の証。
そんな風にも思える。
クラウスは本気だ。
本気で、世界中の人々を救いたいと思っている。
それは痛い程に伝わって来る。
前にも思ったけれど、クラウスはこの世界で英雄になる人材だと思う。
地球でいうところのフランス革命や、日本の明治維新のような、封建社会を打ち壊し近世国家の民主化、近代化を成し遂げる革命者になる人物だと思う。
そして俺は異世界転生者だ。
チート能力がある。
近代国家の知識もある。
俺がクラウスの手を取れば、この世界を近代国家に押し上げられる可能性は、グッと上がるだろう。
逆に、この機を逃せば、この世界は数百年、王族貴族が平民から搾取し家畜のように扱う地獄が繰り返されるだろう。
そのことを一瞬の間に、だけど深く考えながら、俺は言った。
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