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復興なんてもう終わってますけど?

「ラビ」


 町長さんが頷くと、クラウスが声をかけてきた。

 空になったジョッキを近くのテーブルに置いて、俺の隣に立つ。


「見てみなよ、みんなの笑顔を。昼までは明日の生活も見えなくて誰もが塞ぎ込んでいたのに、今ではこんなにも楽しそうに笑っている。明日も、明後日も、ずぅっと彼らが笑っていられるといいよね。それが、世界中に広がったら、とても素敵だとは思わないかい?」


 まるで聖人君子様のような台詞を、だけど俺は綺麗ごとだと笑えなかった。

 両手に宿る確かなやりがいに、俺はまんざらでもない気分になっていた。


 今日一日でわかった。

 不遜でも自信過剰でもイキりでもない。


 俺のスキルには、人を救う力がある。


 これを上手く使えば、苦しむ多くの人を救ってあげられる。

 そうして元貴族の俺が世界中の人たちを救い続ければ、平民と貴族の溝も無くなる。

 そんな未来を夢想して、俺はクラウスに頷いた。


   ◆


 翌朝。

 教会に泊まった俺らは、朝食のパンとサラダ、それにスープをご馳走になってから、学園に帰る支度を始めた。


「よし、今から帰れば、一時間目の授業には途中からでも出席できそうだな」

「ゴーレム車は本当に速いからな」

「イチゴーちゃんたち、よろしくね」

『まかせてー』


 ハロウィーに頭をなでられたイチゴーが、むふんと胸を張るポーズでお腹を張った。かわいい。


 そこで部屋のドアがノックされた。

 クラウスかと思いドアを開けると、廊下には神官さんが立っていた。

 クラウスは、その隣だ。


「皆さん、申し訳ありませんが、よければ出立を少し待っていただけませんか?」

「何か用事ですか?」


 神官さんは柔和に目を細めた。


「はい、町の人たちが是非貴方がたを見送りたいと、集まってきているんです。なので、もう少しだけ」


 そう言われては断りにくい。

 神官さんの隣に立つクラウスも、涼やかな微笑で語っていた。

 これは一時間目は欠席だね、と。


「まぁ、一時間目は絶対に出ないといけないような授業じゃないし、俺は構いませんけど」


 部屋でイチゴーたちを抱きしめるハロウィーとノエルへ振り返り、予定を確認した。


 ハロウィーとは教室が違うし、ノエルはそもそも貴族科の生徒だ。

 俺とは受ける授業が違う。


「わたしは平気だよ」

「私も、今日の一時間目の重要度は低い」

「そっか」


 それはいいけど、一時間目の担任が可哀そうになって来た。

 みんなの都合も確認して、俺らはしばらく教会で待たせてもらう。

 やがて外が騒がしくなり、俺らは教会の玄関扉をくぐった。


「!?」


 教会前の敷地には老若男女、大勢の人々が詰めかけていた。

 それこそ、前の道路にまではみ出し埋め尽くし、通行ができなくなるぐらいに。


「ラビさん、昨日はありがとうございました」

「クエストに関係なくまた来いよ」

「お前らならいつでも歓迎するぜ」


 そんな温かい言葉を投げかけながら、みんなは俺らの見送りをしてくれた。

 昨日から感謝されっぱなしで、本当に照れ臭いったらありゃしない。

 心地よい気まずさに耐えられなくて、早く帰りたくなってきた。


「こちらこそ、そんなに喜んでもらえて嬉しいですよ。じゃあ、俺らはこれで」


 そう言って俺らが足を進めると、みんな、俺らに道を空けるようにして人垣を割ってくれた。


 人々の笑顔に溢れた通路を通り抜け、道路に出た俺はストレージからゴーレム車を出そうとする。


 けれどその直前、見送りの声に紛れる異音に気付いた。

 道路の奥からいくつもの車輪の回る音と、地面を蹴り立てる馬蹄の唸りが聞こえてくる。


 何が迫っているんだろうと目を細め注視すると、馬車で大移動する一団がこちらに迫って来た。


 一体何事だと、背後の人たちの言葉も俺らへの歓声からどよめきに変わる。

 やがて、先頭の馬車が停まった。


 馬を操る御者の出で立ちも、馬車の外装も立派なものだ。

 上級貴族か軍が派遣した一団であろうことは、一目でわかった。


 先頭の馬車の扉が開いた。

 高級軍人かどこぞの上級貴族が降りてくると思った俺は、頭を下げる準備をして、ぎょっとした。


「兄さん!?」


 馬車から降りてきたのは、俺の実の兄でありシュタイン家本家の嫡男、フェルゼン・シュタインだった。


「ラビ? どうしてこんなところにいる? 学園の授業はどうしたんだ?」


 俺を見咎めるなり、やや不機嫌な顔で威圧してくる兄さん。

 貴族の価値観で言えば家名の面汚しで追放された不肖の弟相手なら、普通の反応だ。

 ややかしこまって、俺は答えた。


「冒険者ギルドの復興クエストを受けたんです。そういう兄さんは何でここに?」

「兄さん、か……まぁいい。私は王室と領主の連名で、復興支援部隊の一員として派遣されたんだ」


 兄さんが振り返ると、後続の馬車から次々降りてくるのは兵士と、そして他のゴーレム使いと思われる人たちだった。


 兄さんと同じ先頭の馬車から中年の上級軍人らしき人が降りてくると、町長さんが対応する。


 どうやら、支援物資を手に本当に復興を手伝いに来てくれたらしい。


「しかしどういうことですかな町長殿? 某達はこの町が地盤沈下で一区画が崩落したと聞いて飛んで参ったのですが?」


 部隊長が周囲を見回せば、王都並みに整地された道路に、二階建てで見たこともない立派な家が乱立した町並みが広がっている。


 困惑するのも無理はないだろう。


「支援部隊の派遣、感謝致します。ですが、復興はこちらのラビさんが半日で終わらせてくれました」

「なんですと!?」


 部隊長だけでなく、その場にいた他の軍人やゴーレム使いたちも、仰天しながら集まって来た。


★★本作の単行本2巻は本日発売! オーバーラップより本日発売!★★

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