これぞ真・3Dプリンタ無双
イチゴーが手をかざすと、目の前にストレージの赤いポリゴンが出現した。
中から、一台のドローンが飛び出した。
「飛んでいる!?」
「あれもゴーレムか!?」
住民がドローンに驚く一方で、クラウスの視線はイチゴーに向けられていた。
「ラビ、今、イチゴーがアイテムボックスを使わなかったかい?」
「ああ。ハイゴーレムになった時、イチゴーにはアイテムボックススキルの権限を与えたんだ。今までもイチゴーたちが倒した魔獣の素材は俺のアイテムボックスに入れていたけど、中の物を取り出したりはできなかった。でも、イチゴーは自分の意思で勝手に物を取り出せるんだ」
これで、より臨機応変な対応ができるはずだ。
『れんけいかんりょう。ちずじょうほうきょうゆう』
ドローンが真上に飛び、俺らを俯瞰する。
地図情報と実際の地形を重ね合わせて、どこに家を建てればいいかわかるはずだ。
「じゃあまず一軒目だ」
『えいー』
俺が家のデザイン一覧から一軒の家を選択。
するとイチゴーが謎のポーズをもちっとキメて、3Dプリンタスキル、もとい再構築スキルが発動した。ポーズに意味はない。イチゴーが近くにいれば、予備動作無しで発動できる。
すると更地に一〇メートル四方高さ六メートルの青いポリゴンが出現した。
数秒後、ポリゴンが消えたところには、土の主成分であるケイ素から作った樹脂製の3Dプリンタハウスがそびえ建っていた。
町中に並ぶ平屋ではない。
【3Dプリンタ】【家】で検索すれば出てくるような、屋根が丸みを帯びた未来的二階建て家屋だ。
道路を一本挟んで、世界と時代が五〇〇年ズレている。
ただし外見だけで中身は空っぽだ。
流石に、俺のレベルで内装まで完備することはできなかった。
残りは町の大工さんにお任せしたい。
代わりに、庭には組み上げポンプ式井戸——この世界にはまだ無いので使い方説明札付き――と物置小屋が設えられている。
さらに地下空洞を利用するため、地下室付きだ。
「ここに家のあった人は?」
「あ、うちらですけど」
前に進み出た数人の家族らしき人たちに、俺は笑みを作った。
「どうぞ、ここが貴方たちの新居ですよ」
俺がドアを開けて中を手で示すと、彼ら彼女らは中に入っていく。
家の中から歓喜の悲鳴が聞こえてくる。
特に、女性陣の悲鳴が強い。
「わーい、ひろーい、はしれるー」
という子供の声もほほえましい。
できれば全員の職業や家族構成を聞いて最良の家を用意してあげたいところだけど、そんなことをしていたら何日もかかってしまう。
ここは悪いけど、汎用的な家を作らせてもらう。
とは言っても、令和日本と違って独り暮らしの人は少なく、誰もが大人になったら結婚して家族を作るのが当たり前の世界だ。
両親の部屋、夫婦の部屋、子供部屋、予備の部屋で4LDK。
今、独り暮らしの人も、将来のことを考えれば悪くないだろう。
「あとは引っ越しだな」
俺はゴーレム生成スキルで、ロクゴー以下一〇人のゴーレムを生成。
さらにドローンも一〇機、追加で生成した。
「みんな、彼らの家財道具を家の前まで運んであげてくれ」
一〇人の新メンバーはぴょこんと跳ねてから、ちょこちょこと歩き始めた。
軽い物はドローンが、大きな物はゴーレムたちが運んでいく。
ここから教会地区の逆端までタンスや机を運ぶのは重労働すぎる。
なので、家の前まではゴーレムたちに運んでもらう。
流石に俺が一軒一軒回っていたら何週間もかかるので、ストレージに入れて運びはしない。
「よし、どんどん行くぞイチゴー」
『あいあいさー』
急にイチゴーが両手で俺にひざかっくんをすると、俺を頭の上に座らせた。
そのままイチゴーは走り出し、左手の敷地に次々青いポリゴンが出現していく。
振り返れば、背後のポリゴンが順に消えては、新居が佇んでいる。
デザインは、ウィンドウの一覧画面を順に消化中だ。
そうして夕日が沈む前には、ついに教会地区全ての住宅が完成。
役場も、ふんぱつして三階建ての立派な建物にしてあげた。
おかげで、精神的にキツかった。
——3Dプリンタスキルって魔力消費しないけど、製作難易度高いと精神に負担がかかるんだな……。
今日、初めて知った新事実であった。
全ての住民が新しい教会地区に大喜びで、そこら中からはしゃぐ声が聞こえた。
中には、洪水が来て却って良かったなどと言う不謹慎な人や、自分の家も流されればよかったのに、とまで言う猛者もいたけれど、気持ちはちょっとわかる。
そうこうしながら、俺は最後の仕上げにかかった。
夕日が沈む直前、町の人たちを、かつて教会が建っていた場所に集める。
みんなの心の拠り所である教会の建設は、あえて最後に回した。
教会の見取り図は、瓦礫と一緒にストレージの中に回収されている。
それを参考に、イチゴーに3Dプリンタを発動させるよう指示した。
すると、ずんと頭が重たくなる。




