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ホームレス回避!


 以前、ドレイザンコウと戦った場所へ赴いた俺は、決壊して崩れ去った堤防の裂け目を前に息を呑んだ。


「直接の原因は洪水だけど、一撃でこれだけでかい堤防を決壊させるとか、ドレイザンコウってあらためてボスモンスターだよな」


 もしも回転アタックを喰らっていたらと思うと、今からでも背筋が冷たくなるようだった。


「よしイチゴー、3Dプリンタスキルで直すぞ」

『むりー』

「なんでだ?」

『ていぼうはないのー』


 視界のスキルウィンドウに、3Dプリンタスキルで作れる物の一覧が表示された。

 指でスクロールすると、確かに堤防は無い。


「じゃあさっきみたいに土壁とか土塊で埋めるのは?」

『もとのていぼうとのつぎめからみずもれするー』

「さっき埋め立てる時は? あー、そっか」


 少し考えて気が付いた。

 地面は、上からの圧力に耐えられればいい。

 だから継ぎ目が癒着していなくても問題ない。


 けれど、横から水圧のかかる堤防は違う。

 洞窟を石垣で隔離した時は隙間を土で埋めたけど、こちらとは奥行、距離が違う。


「じゃあAIチャットスキルで質問だ。どうすればいい?」

『ちゃんとしんたくすきるっていってほしいのー』


 腰?に手を当てて、イチゴーはちょっと偉そうにお腹を突き出した。かわいい。


「はいはい、神様仏様イチゴー様、憐れな子羊たる俺に神託を~」


 俺がちょっとふざけてばんざいをしながら頭を下げると、イチゴーはぴょこんと飛び跳ねた。


『いちりっぽうめーとるのつちのブロックをいっぱいつくるー』

「わかった、じゃあイチゴー、一立方メートルの土ブロックを二〇〇個作ってくれ」

『えいー』


 イチゴーがまるっと可愛いポーズを取ると、周囲に青いポリゴンが出てきて、大量の土ブロックが出てきた。


 すると、それをみんなで次々運び、堤防の断面に押し込んでいく。


 ——なるほど。ああして地面に埋め込むことで隙間を無くすのか。


 赤ちゃんのようにちっちゃなイチゴーたちがみにみにちょこちょことブロックを運び、積み上げていく姿はまるで箱庭ゲームを見ているようで、ソシャゲっぽさを感じて、なんだか面白かった。


『せっちゃくざいおねがーい』


 頼まれるまま、俺はブロックの上にストレージの赤いポリゴンを展開して、中から接着剤を垂らした。


 材料は粘土、魔獣の骨、植物の樹液などだ。


 そうして待っていると、イチゴーたちは決壊した堤防の断面をブロックで綺麗に埋めてしまった。


『さいごおねがーい』

「おう」


 返事をして、俺はブロックの上から接着剤を垂らしまくった。

 重力に引かれて接着剤が壁面をどろりと垂れて広がっていく。

 それから、堤防の切れ目と同じ幅、高さの土ブロックを生成した。


「よし、これで修理完了だな」


 堤防の完成に、イチゴーたちはころころと転がり飛び跳ねダンスを踊りながら喜んだ。




 それからまた町に帰ると、全ての家具の近くに、誰かしらが立っている。

 でも、みんな表情がまだ暗かった。

 さっきまでは、あんなに喜んでいたのに。


「ハロウィー、みんなどうしたんだ?」

「う~ん、それが、みんな家財道具が帰って来るってわかってさっきまでは喜んでいたんだけど。家が無いから」


「あーそのことか」

「ねぇ、ラビのスキルで家を元に戻せない?」

「元のデザインが分からないから元に戻すのは無理だな」


 ハロウィーの眉が、しゅんと八の字に垂れた。


「ごめん、ラビに頼りすぎちゃって……」


 その表情に、俺は少し考えた。

 家財道具だけあっても、家が無いんじゃ結局ホームレスだ。

 令和日本の価値観に照らし合わせても、そんなの最悪すぎる。


 でも、俺の3Dプリンタスキルは復元スキルじゃない。

 元の家を知らない俺には、元に戻すことはできない。

 けれど、そこで俺はピンと思い出した。


 ——もしかして、今こそあの計画を実行する時なんじゃないか?


 物質再構築スキルという名の3Dプリンタスキルに目覚めた時、作れる物の一覧を確認して、俺は【家】というカテゴリーを見つけた。


 最初は令和商品を作って現代知識無双、なんて考えたけどこれは難しい。


 人が欲しがるのは良い商品ではなくみんなが持っている商品。


 たとえ便利でも、知らない謎の商品は誰も欲しない。


 この世界の誰もが知る、そして欲しがる物、それが家だ。


 どこかにモデルハウスを作って宣伝すれば、国中から俺に建設依頼が舞い込んでくる。


 そうすれば俺は経済無双して、とりあえずお金の心配はなくなる。


 今がその時だ。


 一日で町を復興した建築無双に、誰もが注目するはずだ。


「皆さん、同じ家は作れませんけど、もっといい家なら多分作れますよ」


 家具の近くで途方に暮れていた住民が顔を上げた。

 誰も彼もが意味が分からないといった表情だ。


「イチゴー、役場の書類からこの町の地図を読み込んでくれ」

『おぼえたー』

「じゃあそこと同じ場所に家を建てていくぞ」

『わかったー。えい』


 イチゴーが手をかざすと、目の前にストレージの赤いポリゴンが出現した。

 中から、一台のドローンが飛び出した。


「飛んでいる!?」

「あれもゴーレムか!?」


 住民がドローンに驚く一方で、クラウスの視線はイチゴーに向けられていた。


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