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復興クエスト始めます

「そういえば、方角的にそうだったかも……」


 依頼書に描かれた町の地図と教会地区を示すマークに、嫌な予感が質量を増していく。


「もしかして、あの地下空洞に水が流れ込んで地盤が緩くなったんじゃ……」


 つまり、俺があの地下空洞をちゃんと閉じたり、埋め立てたりしていれば、教会地区は無事だったわけだ。


「俺のせいか……」


 そんな義務も責任も無いとはわかっていても、気にせずにはいられなかった。


「あっ! いやでもほら! 穴を空けたのはドレイザンコウだし! 別にラビが洪水を起こしたわけじゃないし! ラビに工事の義務や責任はないし! ね、ね!」


 全力で俺をフォローしてくれるハロウィーの優しさが心の傷に沁みた。


「わかったよクラウス。俺らもそのクエスト受けるよ」

「それは良かった。それと、Fランククエストだけど、活躍すれば領主様の目に留まるかもしれないよ。そうしたら、貴族からの評価も上がるんじゃないかな?」


 言われてみれば、それもそうだ。


 ドローンも作れるようになったし、うまくゴーレムたちを使って復興ができれば、俺の評判も上がるかもしれない。


 町の人たちを助ける為。

 後始末をつける為。

 そして俺自身の為。


 復興クエストを受ける理由は、十分すぎた。


「じゃあまたゴーレム車に乗って、早く行こうか」

「待ってラビ、その前に、ノエルも誘おうよ」

「ノエルを? おいおいハロウィー、あいつは誇り高い騎士様だぞ? いくら友達だからって、肉体労働を手伝ってくれなんて言うのは悪いだろ?」


 ハロウィーはずびしっと手を突き出してきた。


「いや、それよりも仲間外れにするほうがよくないと思うなぁ、ね、ね?」


 なんだろう、ハロウィーから妙な圧を感じる。


「う~ん、だけどそもそもノエルは本来貴族科の生徒だろ? 貴族科用の、しかるべきクエストを受けないと、あいつ自身の成績にも響くんじゃないか?」


「いいから!」

「え?」

「いいから! 声をかけるだけかけようよ! それが友達だよラビ! ね!」


 俺の両肩をつかみ、ずずいずいずいと迫ってくるハロウィー。

 今の彼女からは、ドレイザンコウにも劣らぬ謎の圧を感じた。


「お、おおう。じゃあイチゴーたちを森から呼び戻す前にノエルのところに寄るよう通信しておこう」



 しばらくして、ギルド会館にイチゴーたちを連れたノエルが現れた。


「ラビ!」

「お、早かったな」

「イチゴーたちが運んでくれたからな。世話になった」


 ノエルにお礼を言われ、イチゴーとニゴーはお腹——胸のつもり?——を張った。


 どんなポーズで運ばれたかわからないけれど、せめてお嫁にいけなくなるようなポーズじゃないことを願った。


 ちなみに、俺の脳内ではイチゴーたちの頭に座ったまま王都内を等速直線運動する金髪碧眼美少女の姿が浮かんでいた。


「そしてハロウィー、本当によくやってくれた」

「ううん、このぐらい当然だよ。ラビは鈍いから」


 二人が謎の握手をする。

 そして俺がディスられていた。


 ――俺の何が鈍いんだろう?


 首をかしげている間に、ノエルは受付でクエスト依頼を受け終わり、戻って来た。


「では町まで急ごうか」

『われにのるのだ』


 当然のように、ノエルはニゴーの頭にお尻を乗せた。


「ちょまっ! お前まさかそのスタイルでここまで来たのか!?」


 俺は全力で青ざめながらノエルに待ったをかけた。両手で。


「そうだが何か問題か? カーボンボードのお神輿と同じで乗り心地はいいぞ」

『われにはこべぬものはなし』

「いや、そうじゃなくて将来お嫁に行けなくなっても知らないぞ」

「貰い手が無かったらラビが貰ってくれるからいいじゃない!」

「ハロウィーは何を言っているんだ!?」

「なんだラビ、私では不服だと言うのか?」


 怒りと恥じらいが入り混じった表情で、ノエルは俺を睨んできた。かなり怖い。


「いや、そうじゃないけどさ」


 ——なにこのラブコメ展開。俺って異世界に転生したんだよね? エロゲ世界に転生したんじゃないよね?


「そろそろ出発していいかな?」


 クラウスが冷静にツッコんでくれた。

ただし、ヨンゴーの頭に座って。


 ——チビゴーレムの頭に座るイケメン。なんてシュールな光景だろう。


   ◆


 ノエルの嫁ぎ先が心配なので、ゴーレム車で道路を高速移動。


 ドレイザンコウの素材でパワーアップしたイチゴーたちの走行速度は、前の比ではなかった。


 完全に、高速道路を走る車そのものだった。

 背後に流れていく背景のスピード感が懐かしい。

 おかげで、王都郊外の町へは一時間もかからずに到着した。

 そして、ゴーレム車からぬかるんだ地面に降りると、その惨状に愕然とした。


「これは、酷いな……」


 町の教会地区は、全体が地盤沈下して、瓦礫と地面がまぜこぜだった。

 道路は無く、車では中に入れない。


 瓦礫の上から上に、跳びながら進むか、泥に下半身を埋め、足で漕ぐように進むしかないだろう。


 ――こんなの、令和日本でもどうやって復興するんだ?


 専門家に見せれば何かいい方法を知っているんだろうけど、俺には見当もつかなかった。


「皆さん、よく来てくださいました」


 この前、会ったばかりの町長さんと神官さんの顔を見て、俺は胸をなで下ろす。


 二人が無事で良かった。


 教会地区が地盤沈下したと聞いた時から、二人の安否が気になっていた。


「お二人ともよく無事でしたね」

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