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ヤバいことを思い出した

 翌日の放課後。


 雨もすっかりと晴れて、空は雲一つない晴天だった。


 生徒たちは昨日の休日を取り戻すように、校舎を出て街へ繰り出した。


 とはいっても遊びに行く一年生は半分。


 残りは冒険者ギルドへ向かった。


 冒険者登録をして、みんなやる気十分らしい。


 俺とハロウィーも、王都の冒険者ギルドを訪ねていた。


「うわ、凄い人だかりだな」

「大人の冒険者さんも雨でクエスト受けられなかったからね」


 右手の掲示板コーナーは人で埋め尽くされて、まともに先へ進めなかった。

 むしろ、掲示板を諦め飲食コーナーで人混みが消化されるのを待っている人までいた。


「これは、今日は無理かな?」

「だね……」


 俺とハロウィーは顔を見合わせて、互いに困った表情を作った。

 そこへ、聞き慣れた声がかけられてきた。


「やぁラビ、君らも来ていたのかい?」


 日本なら女子たちが黄色い悲鳴を上げそうな二次元的爽やかイケメンボイスの正体は、当然、みんな大好きクラウスだった。


 ——クラウスに日本語の吹き替えをするなら絶対にミドリカ●さんとかイシダアキ●さんとかあっち方面の人だよな。


「来ているけど、お前はいつも俺の行く場所にいるな。ラビ探知機でも持っているのか?」

「はは、そんなのがあるなら欲しいね」

「怖いこと言うなよ……」

「……ちなみに君のスキルで作れないのかい?」

「作れても作らねぇよ」


 俺は語気を強めた。

 あとハロウィーがちょっと頬を染めていた。なんで?


「それよりラビ、一緒にこのクエストを受けないかい?」


 気持ちの良い笑顔でクラウスが差し出してきたのは、洪水被害を受けた町の、復興支援クエストだった。


 仕事内容は、地盤沈下で崩壊した教会地区を中心とした瓦礫の撤去作業や、他地域の泥の清掃作業といった汚れ仕事だ。


 当然、Fランククエストに分類されている。


「今のところ、誰も受けてくれなくて困っているらしいんだ。僕らも無関係じゃないし、助けに行こうよ」

「え? 誰も受けていないの?」

「だろうな」


 俺は溜息を吐いた。


「普通、冒険者って言ったらみんな、かっこよく魔獣を倒して出世するのが目的だ。土木作業や清掃活動みたいなのは、一部の駆け出しFランク冒険者が下積みだと思って嫌々やるものなんだろ?」

「へぇ」


 納得するハロウィーとは違い、クラウスは意外そうな顔をした。


「それはそうだけど、ラビは元貴族なのに詳しいね」

「逆だよ。戦争が無い今は貴族こそ上級冒険者になって領地を守り繁栄させることが求められる。冒険者業界の事情は一般教養だよ」


「ふぅん、それは意外だったな。でも、言われてみれば納得だよ」


「もちろん、例外はいるけどな。戦時中から文官や研究職、政治家として国家に仕えていた貴族は冒険者なんてしないし。冒険者稼業は次男以下にやらせて次期当主の長男はひたすら帝王学を学ぶ家や、お抱えの騎士や冒険者に丸投げしている家もある」


 だからこの世界にも、いわゆるフォークよりも重たい物を持ったことが無いタイプのお坊ちゃまお嬢様は存在する。


「へぇ、ノエルみたいに剣の素振り千本が日課の貴族ばかりじゃないんだね」

「ハロウィー、ノエルを基準にしちゃ駄目だぞ」


 俺はちょっと強めに念を押した。


「それでどうするラビ? 誰もやりたがらない復興クエストを元貴族の君が受ければ、みんなのイメージもよくなると思うんだけど? 地盤沈下で家を失った人たちを助けてあげようよ」


 ——前に言ったことを随分引っ張るな。


 ちょっと思い付きで言ったことを引きずられて、少し後悔した。

 とはいえ、俺自身も気にはなっていた。


 あの日、俺は町の人たちと一緒に酒を酌み交わした。

 一期一会の関係とはいえ、知り合いの窮地は助けてあげたいと思う。


 ただ一方で、俺らはもうDランク冒険者だ。


 今更Fランククエストを受けても評価は上がらない。

 情に流されて慈善活動みたいなことを繰り返しても、俺の未来は開けない。


 ノエルやハロウィーみたいな親友ならともかく、ただ顔を知っているだけの人を助けるために被災地を訪れるのは人が好すぎるか。


 そんな風に俺が悩むと、ハロウィーが声をあげた。


「あ、そういえばラビ、わたしたちがドレイザンコウと戦った時、堤防の近くに地下空洞があったよね?」


「ん? ああ、あったな」

「あれって、町の教会地区の方に延びていなかった?」

「え?」


 嫌な予感に、口角が引き攣った。


「そういえば、方角的にそうだったかも……」


 依頼書に描かれた町の地図と教会地区を示すマークに、嫌な予感が質量を増していく。

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