自分のミスを隠す奴!
俺は3Dプリンタスキルで階段を作ると、ハロウィーたちと一緒に地上へ戻った。
視線を巡らせると、戦いの跡は凄まじかった。
ドレイザンコウが蹂躙した跡には深いわだちが刻まれ、ノエルのバーニングカリバーを受けた場所には焦土の道が刻まれ、堤防は深く抉れて亀裂が入っている。
離れた場所では、横転した馬車の近くに、まだクリストファーたちが転がっていた。
馬車に繋がれた二頭の馬が地面で暴れている。
「大丈夫か? これ、回復のポーション飲んどけ」
駆け寄ってからポーション入りの小瓶を四つ、クリストファーたちに投げ渡した。
四人は呆けながらも、クリストファーがぽつりと聞いた。
「あいつは?」
「ドレイザンコウなら倒したよ。かなりギリギリだったけどな」
「そん、な」
「嘘だろ……」
四人の顔が驚愕に固まった。
「俺らは報告に町に戻るけど、お前らも落ち着いたら戻れよ。馬車は俺が直しておくからさ」
3Dプリンタスキルの青いポリゴンで馬車を包み込んだ後にポリゴンが消えると、そこには新品同様、どこも壊れていない馬車の姿があった。
「すごっ!?」
「馬は……」
「はーい、どうどうどう、いいこいいこ」
地面に転倒し、四本の脚をバタつかせていた二頭の馬は、実家が畜産家のハロウィーが首をなでまわして落ち着かせていた。
「大丈夫そうだな」
「いや、待てラビ、報告に帰るなら、先に被害状況をまとめておく必要があるんじゃないのか?」
「それもそうか。じゃあノエル、一緒に――」
「ラビ!」
俺の言葉を遮るように、クリストファーが立ち上がった。
「報告は僕らのほうでやっておくよ! そもそも、山でドレイザンコウとどういう状況で出会ったのか、どうして追いかけられたのか、そして君たちの戦いの経緯を見ていたのは僕らだ。君は早くドレイザンコウの討伐証明部位を持って、査定してもらうといいよ。平民に落ちても流石は名門シュタイン家。まさかドレイザンコウを倒してしまうなんて驚いたよ。これなら一気にEランク、いや、Dランク冒険者への昇格も夢じゃないかもよ。早くも追い抜かされて悔しい限りだよ」
いつも以上にまくしたてながら詰め寄って来るクリストファーに気圧されて、俺は思わず頷いた。
「それもそうか。確かに俺は山での様子とか知らないもんな。じゃあ任せていいか?」
「ああ! 是非任せたまえ! みんな、堤防の被害状況を確認しに行こう!」
他の三人もクリストファーに追従して、堤防の方へよたよたと歩き始めた。
「なんか変なテンションだったな」
「助けられたのがうしろめたいのではないか?」
「そういう話か、じゃあ俺らは早く帰ろうか。今度はゴーレム車で」
ハロウィーとノエルがまばたきをする前で、俺はまた3Dプリンタを使用。
木材と石材、カーボン素材でシンプルなデザインの馬車を作ると、ロープをイチゴーたちに持たせた。
みんな指はないけど、丸い手はなんでも吸い付く。それを持つと言って良いのかわからないけど、そこはご愛敬だ。
みんなで馬車に乗り込むと、俺がイチゴーたちに合図をして、ゴーレム車は走り出した。
◆
ラビたちが見えなくなったのを確認してから、クリストファーたちは強張った面持ちで、堤防に穿たれた穴を見つめた。
「これ、まずいよね」
「言われるまでもなく、ね」
「これって、僕らの責任かなぁ……」
「どうだろう。やったのはドレイザンコウだけど、そのドレイザンコウを山からここまで連れてきたのは僕らだし、仮にお咎めなしでも僕らの評判は落ちるだろうね」
ドレイザンコウ討伐の功を夢見た時の気分はどこへやら、今は崖っぷちを渡る遭難者のような気持ちだった。
「仕方ない、ここはなんとか誤魔化そう。幸い堤防は盛り土みたいだし、地面系の魔法で土をかぶせれば、見た目にはわからないさ」
「でも、もしも大雨が降ったら決壊するんじゃない?」
「そんな大雨いつ来るんだよ」
「そうそう。それにドレイザンコウがここに衝突したなんて誰も知らないし、ここが決壊しても僕らが原因だなんてわからないじゃないか」
「町だってわざわざラビたちに確認なんて取らないだろ? せいぜい、老朽化や魔獣のしわざと疑われておしまいさ」
去年、クラウスたちが修繕工事をしたばかりだと知らないクリストファーたちは、自分らに都合の良い解釈をして納得。
地面魔法で周辺の土石を操作して、陥没部分を穴埋めした。
それから、草地ごと魔法でずらして絨毯のように被せると、馬車に乗って逃げ出した。
◆
「ドレイザンコウを倒したぁあああああああああ!?」




