ハイゴーレムに存在進化します!
ハイゴーレムは、ゴーレムの上位種だ。
一部の上級ゴーレム使いにしか作れないし、ゴーレム生成スキルを持っていても、ハイゴーレムの生成に至れる人は少ない。
ハイゴーレム使いともなれば、身分に関係なくどの業界でも一目置かれるし、ゴーレム使いから最大の敬意を払われる。
軍に入れば、幹部軍人からキャリアがスタートする。
ハイゴーレム使いの人数は、軍事力に大きな影響を与えるとも言われている。
父さんたちはみんなハイゴーレムを使っているけれど、それはうちがゴーレム使いの名門であるシュタイン家だからだ。
世間では、一生かかっても到達できない人も珍しくない。
俺の兄さんだって、まだハイゴーレムは生成できない。
『ボーナス:一体につき一つ、スキルを追加できます』
メッセージウィンドウの後に、スキルの一覧が表示された。
——へぇ、探知スキル、魔法ダメージ半減スキル、通信スキル、天井走りスキル、魔獣除けスキル、色々あるんだな。
俺は、イチゴーたちにそれぞれスキルを追加してから、ダイアログボタンの【進化】を押した。
途端に、イチゴーたちの体が光り輝いた。
「イチゴーちゃん!?」
「どうしたんだ?」
「これは……まさか……」
三者三様の反応をする中、五人の体に直線的な光のラインが走り、輝きが増していく。
五人はふわりと重力のくびきから解き放たれ、天へ昇るように浮かび上がった。
まばゆい光の中、五人の体がバラバラに開き、トランスフォームした。
——これはまさか、変型!?
カシャカシャカシャーン!
ジャキン! ジャコン!
ヴィイン! ウインウイン!
カシュッ! ゴファッ!
五人の体は開き、各部パーツが伸び、組み替わり、まるで巨大ロボの合体変型シーンを見ているようだった。
そして……。
カシャガシャジャキガコガッキィイイイイイイン!
もとのまんまるもんまりボディに戻った。
地面に着地すると、五人は謎のキメポーズを作った。
「いや今のなんだったんだよ?」
『なにがー?』
「いやどう見ても変型していただろ? なんかこう大きな人型ロボットになる雰囲気ばりばりに出していただろ!?」
『ぼくわかんなーい』
「わかんないじゃないだろ!? お前らハイゴーレムになったのにどこが変わったんだよ!?」
イチゴーたちはきょろきょろと自分たちの手足やお腹を見回して、互いの体を手で指し合った。
『あ、サンゴーくびのまわりにせんがはいっているー』
『そういうイチゴーもはいっているのだー』
『むねにオーブがひかっているのです』
『みんなおなじみたいっすね』
『しかり』
言われてみれば、五人の目元から少し下――そこって首なのか?――辺りに白いオーブが、そして首輪のようなラインが入っていた。
イチゴーはリーダーらしい赤。
ニゴーはクールな青。
サンゴーはのんびりしていそうな緑。
ヨンゴーは厨二臭い黒。
ゴゴーはかわいらしいピンク色だ。
五人は互いのラインを確認し合うと、俺に向かってポーズをキメた。
「いやそれだけかよ!?」
虚空に向かって空手チョップでツッコんだ。
こいつらはなんなんだろうと俺が心底呆れていると、ハロウィーが声を震わせた。
「す、すごい、イチゴーちゃんたち喋っている」
「へ? ん?」
見れば、五人は俺のステータス画面だけではなく、頭上にウィンドウを出して直接メッセージを出していた。
どうやら、あれはハロウィーたちにも見えているらしい。
「はっ、そういえばラビ、先程ハイゴーレムとか言っていたな。まさか進化したのか!? 凄いじゃないかラビ、その歳でハイゴーレムを使える者など聞いたことが無いぞ!」
「そうなんだ!? やっぱりラビってすごいね! それにイチゴーちゃんたちと話せるなんてうれしいな。みんな、わたしのこと好き?」
『すきー』
『このましい』
『すきなのだー』
『だいすきっす』
『ハロウィーのことはすきなのです』
「えへへ、ありがとう。わたしも大好きだよ」
満面の笑みで膝を折り、ハロウィーはイチゴーたちをかわるがわるなでまわした。
ノエルが頬を染めながらそわそわとしていると、ゴゴーがちょこちょこと歩み寄った。
『ゴゴーをめでるのです。むふんなのです』
「しょ、しょうがないな、ふふ」
——ゴゴーが空気を読んだ!?
いつもマイペースなゴゴーにはあり得ない気遣いに、俺は困惑した。
これもハイゴーレムになった恩恵なのか、みんなの認知能力が上がったのか。
と思ったらゴゴーはノエルに抱き上げられて足をぱたぱたさせて喜んでいた。
——あー、これ空気を読んだんじゃない。ただ欲望のままに動いたらたまたま利害が合致しただけだ。そうだよな、やっぱりゴゴーはゴゴーだよな。
俺は謎の安心感と一緒に落胆した。
「さてみんな、じゃあそろそろ上に戻ろうか」
ただ一人、冷静なクラウスのおかげでおちゃらけムードはお開きになった。




