落とし穴
「ヨンゴー!」
『かそくそうちっす!』
以前、コマンダーメイルを倒した後にヨンゴーたちに配合した魔石が起動。
身体能力が一時的に上昇したヨンゴーは急加速。
予想外の動きに前脚は空振り、五指は地面に深く突き刺さった。
『しょうりゅうけんっす!』
腹の下に潜り込むや否や、ヨンゴーは指の無い右手を突き上げジャンプ。
ドレイザンコウの被毛に抉り込ませた。
「■■!」
再び、煩わしそうにボディプレス。
だけど、今度は潰されることなく退避に成功。
超加速したヨンゴーが腹の下から飛び出すのが見えた。
その姿に、俺はほっと胸をなで下ろす。
「待てよ……なぁノエル、お前のカリバーって、お前の魔力を一度に全部使えるんだよな?」
「うむ、その通りだ」
「それって、装備品の魔力はどういう扱いになるんだ?」
わずかに視線を伏せて、一瞬悩んでからノエルは首を横に振った。
「わからないな。外部の魔力を使えるのかどうか、試したことはないが、それがどうかしたのか?」
「前回のダンジョン攻略の後、イチゴーたちに魔力を溜めている魔石を配合したのは知っているよな?」
「うむ」
「じゃあ、イチゴーたちを背負って、ノエルの装備品として使った場合、魔石の魔力を一度に全部使えるんじゃないのか?」
「ッ!?」
ノエルは言葉を失い、不敵に笑った。
「なるほど、試す価値はあるな。そうなると後はどうやって奴の下を取るかだな。流石に警戒して、もう堤防の上には登ってくれないだろう」
「問題はそこなんだよな。仮にカリバー級の火力を用意できても、当てる方法が無い。しかも、考えている暇もない!」
「■■■■■■■■!」
ドレイザンコウが再び丸くなった。
また蹂躙突進をする気だろう。
だけど今度は、俺らのうしろ五〇メートルの地点に、クリストファーたちがいる。
巻き込むわけにはいかないと、俺は真横に走った。
ノエルたちもついてきてくれる。
それを見逃さず、ドレイザンコウはこちらに向かって回転を始めた。
「そうだ、そのままこっちに来い!」
ドレイザンコウが加速するのと同時に、俺は3Dプリンタースキルで今度は壁ではなく、立方体を作った。
幅五メートル、高さ五メートル、そして厚み五メートルの土壁だ。
これなら、いくらなんでも貫通はできないだろうと踏んだ。
けれど俺の期待を裏切るように、ドレイザンコウの蹂躙走行はまさかの軌道を描いた。
ドウンッ!
聞いたこともないような重低音と同時に、ドレイザンコウの巨躯がバスケットボールのように跳ね弾んだ。
「嘘だろ!?」
あまりの理不尽に驚愕の絶叫を上げてしまう俺の視線の先で、青い空をバックにドレイザンコウが落ちてきた。
頭上から迫る巨大な天然削岩機の重圧に息が止まる。
脊髄反射でバックステップを踏むも、間に合わなかった。
ドレイザンコウが地面に激突すると、大地が崩落。
耳をつんざくような破砕音と無重力感に襲われ、俺はなすすべもなく、みんなの悲鳴と一緒に地中に呑み込まれた。
気絶は免れた俺は、体の周囲の土砂をストレージに入れて自由を得ると跳ね起きた。
「地割れを起こすなんて、こいつ魔王か!?」
「いや、どうやらそういうわけではないらしい。見ろ」
ノエルに言われて振り返ると、背後には洞窟が広がっていた。
「どうやら、ここは地下空洞らしい。それが奴の攻撃で落盤したにすぎない」
「なんだ、天然の落とし穴か」
俺が束の間の安堵をすると、ハロウィーが首をひねった。
「でもなんでこんな場所が?」
「きっと元はここも川の一部で、水が流れ込んでいたんだと思う。それが地殻変動か何かで川の本流から切り離されたんだろうな」
俺の説明に、ハロウィーが提案した。
「ねぇラビ、わたしたちだけここから脱出して穴を塞いで、あの子を閉じ込められないかな?」
「いい発想の転換だけど、あれだけの巨体と爪だ。すぐに突き破って出てくるだろうな」
「そっか……」
ハロウィーは肩を落とした。
天井の高さはぱっと見五メートル。
ドレイザンコウには、大した高さではないだろう。
「まったく、落とし穴ならもっと深くあれよ」
つい、大自然に理不尽な注文をしてしまう。
けれど、そこで俺は天啓を得た。
「落とし穴……」
「どうしたんだいラビ? まさかあいつを落とし穴に落とす気かい? 仰向けで落ちてくれればお腹を攻撃し放題だけど、そこまで上手くはいかないんじゃないかな?」
「いや、逆だよクラウス」
「え?」
「あいつを落とすんじゃない。あいつが登ってくれないなら、こっちが落ちればいいんだ!」
瓦礫の中からドレイザンコウが這い出し、邪魔な岩石を長いシッポで払いのける中、俺はみんなにまくしたて、作戦を説明した。




