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時間を稼げ!チャンスをつかめ!仲間のために!

 大したダメージはないものの、ドレイザンコウは嫌そうな顔をしていた。

「効いている。みんな、やっぱり攻撃をするならお腹だ。なんとかしてこいつの下を取るぞ!」


「だがラビ、四つん這いのあいつの下をどうやって取るんだ?」


「……クラウス、前脚をかいくぐってスライディングで腹の下に潜り込んで魔法剣を叩き込んでもらう、っていうのはできるか?」


「僕は無理って言葉が嫌いなんだけど、流石に無理だね」


 クラウスが強張った笑みを浮かべる一方で、ハロウィーは弓を構え直した。


「みんな! どうにかしてドレイザンコウのお腹を見せて。そうしたら、わたしの魔力圧縮で貫くから!」


「正直、それが唯一の手だよな」


 ノエルのカリバーが効かなかった以上、俺らに残された最大威力は、ハロウィーの魔力圧縮された矢だ。


 ただ問題は、どうやってドレイザンコウの下を取るか。


 何か使えそうなものはないかと周囲を見回して、さっきまでハロウィーの立っていた堤防を見上げた。


「よし、みんな! 下に潜り込めないなら、あいつに上がってもらうぞ!」


 俺はイチゴーたちに指示を出しながら、ストレージからボウガンを取り出して引き金を引いた。


 矢はドレイザンコウの頭を覆うウロコに当たり弾かれるも、気を引くことはできたらしい。


 そのまま、俺はボウガンを撃ちながら堤防の斜面を駆け上がっていく。


 イチゴーたちも、五人一斉に斜面を登り始めた。


 うろちょろと煩わしい虫けらに、カンカンと物をぶつけてくる虫けら。


 獣王の神経を逆なでされたドレイザンコウは、怒りの咆哮を上げながら後ろ脚で地面を蹴った。


 轟音と土砂を巻き上げながらドレイザンコウは加速。


 三秒とかからず堤防の頂上に登ってきた。


 そこで、俺とイチゴーたちは跳躍。


 三階の屋上に届く高さから一気に地面に飛び降りた。


 俺は両手両足を地面につけた四点着地で落下の衝撃を分散。


 それでも殺しきれなかった反動で肩が外れそうだったし、足には骨が折れたかと錯覚するような痛みが走った。


 けれど、そんなことにかまけている暇はない。


 背後を見上げれば、ドレイザンコウはまだ堤防頂上にいた。


 あれだけの巨体なら、飛んだり跳ねたりは苦手だろうと思った通りだ。


 それでも、小癪な獲物を食い殺さねば気が収まらぬとばかりに、ドレイザンコウは方向転換。


 下へ降りようと試みた時、ウロコに覆われていない腹部が見えた。


「今だ!」

「うん!」


 ハロウィーは力いっぱい右手を引いて弓を引き絞ると手を離した。

弓から弾かれるように放たれた灼熱の矢は、大気を焦がし焼け跡を残すような勢いで赤い閃光となって、ドレイザンコウのみぞおちを直撃する。


「■■■■!?」


 ドレイザンコウの独眼に、無視できない強張りが生まれ、口から咆哮とは違う、苦しみを噛み殺すような唸り声が響いた。


「やったか!?」


 俺は期待に声を上げるも、それはぬか喜びだったらしい。

 ドレイザンコウはギリギリと歯を食いしばると、前脚を堤防に突き刺して口を開いた。


「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!」


 獣王の咆哮には、怯みも衰弱もなかった。

 むしろ、アドレナリンで我を忘れ、さらに怒りの炎を滾らせているようにさえ見える。


「嘘だろ? ハロウィーの魔力圧縮だぞ? なんで効かないんだよ!?」


 俺の疑問を晴らすように、クラウスが何かに気付いた。


「君たち! あいつの目は、君たちが潰したのかい!?」


 クリストファーたちは怯えすぎて上手く喋れない様子だけど、なんとか頷いているように見える。


「やはりか。彼らとて、半端な攻撃はしなかったはずだ。ドレイザンコウのウロコが持つ強度は並外れているけれど、顔やお腹は強靭な毛皮に守られている。ウロコよりはマシというだけで、弱点ではないわけか……」


 クラウスは無理のある硬い笑みに、一粒の冷や汗を流した。


「馬車でも振り切れないスピードにラビの壁を砕くパワー、全身を覆う無敵の防御力と、そこから繰り出される堤防をも破壊する突進力……これは、苦しいね……」


「そうでもない」


 俺はクラウスを元気づけるように、語り掛けた。


「たとえそうだったとしても、腹が唯一効く場所なのは間違いない。問題は威力だ。なんとかして、ハロウィーの魔力圧縮以上の威力を出せればいいんだ。それこそ、ノエルのカリバーみたいな」


「だけど、彼女はもう魔力を使い切ったじゃないか。ラビ、君のストレージに、魔力を回復させるポーションはないのかい?」


「残念ながら無い。だけど、何か方法があるはずだ。いや、あってくれないと困る。そうだろ?」


 俺がクラウスに視線を送り返すと、彼は表情をあらためた。


「あぁ、君の言う通りだラビ。僕も、ここで諦めるつもりはない。僕は苦しむ全ての平民を救うんだ。格上に挑むなんて当たり前。こんなところで、こんな魔獣一体に立ち止まっている場合じゃない!」


「もちろん、私もだ」

「わたしも、あきらめないよ!」


 クラウスに続いて、ノエルとハロウィーも意気込みは十分だった。


 士気は高い。

 けれど事態は最悪のままだ。


 ドレイザンコウが堤防から降りてきた。


 偉そうなことを言った手前、俺も考えてみるが、カリバー級の火力を得る方法なんてわからなかった。


 流石に、ここで都合よく魔力回復ポーションの材料が現れてノエルの魔力を回復、なんてご都合展開はあり得ないだろう。


『じぶんがじかんをかせぐっす』


 意外にもヨンゴーが単独でドレイザンコウへ接近。

 常人なら一〇〇人は殺せる前脚の一撃がヨンゴーを捉え、容赦なく振り下ろされた。


「ヨンゴー!」

『かそくそうちっす!』

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