巨大モンスターの弱点を攻めろ!
「やるしかないか!」
「■■■■■■■■■■■■■■!」
柱のように太い四肢が、地面を踏みしめ蹴り上げた。
足の裏に響く震動。
俺らの数百倍の体重が一瞬で加速して迫って来る重圧。
獰猛に光る牙。
そのどれもが現実離れしていて、今すぐ逃げ出したい気分だった。
けれど、ここで退くことはできない。
俺はいきなり3Dプリンタスキルで目の前に壁を作り出した。
轟音が響き、破砕音の後に壁に蜘蛛の巣状のひびが入り、ドレイザンコウが突き破って来る。
巨躯に見合ったパワー、そして馬車でも振り切れなかったスピードに俺は驚嘆した。
正直、俺らがドレイザンコウに勝っているものが見えてこない。
俺らは素早く横に散開して、ドレイザンコウの突進を避けた。
幸い、俺らをターゲットに絞っているらしい。
ドレイザンコウは手負いの獲物に興味はないとばかりに、クリストファーたちを無視していた。
「喰らえ!」
クラウスがウロコの無い顔面を狙い突撃するも、ドレイザンコウの剛腕がそれを許さなかった。
剣のように長く鋭い爪を備えた五指が羽虫を払うように空を薙ぎ払うと、クラウスは人形のように投げ出された。
「クラウス!」
「大丈夫だ。剣で受け止めた!」
空中で二度、三度と宙返りを繰り返してから、クラウスは草地にやわらかく着地した。
けれど、直後に咳き込んだ。
やはり、ダメージを殺しきれなかったらしい。
不意に、ドレイザンコウが体を丸めた。
その先で、ノエルが怪訝そうな顔をしている。
ドレイザンコウの意図を察して、俺は声を張り上げた。
「イチゴー! ニゴー! ノエルを真上に投げろ!」
ドレイザンコウの巨体が、レーシングカーのタイヤのように高速回転を始めた。
草地を蹴立てて土砂を巻き上げながら地面を疾走。
イチゴーとニゴーはノエルの足をつかむと真上に投げ上げる。
二人が側転で捌けると、コンマ一秒後にドレイザンコウが貫通していった。
ドレイザンコウの外見はアルマジロに近い。
だけど、そのウロコは一枚一枚が刃のように鋭利で、背中はおろし金、あるいは削岩機のソレだ。
草地に巨大なわだちを抉り抜きながら、ドレイザンコウの回転は止まらず、ハロウィーの立つ堤防に激突した。
「きゃっ!?」
回転するドレイザンコウの背中が、重機のホイールローダーのように斜面を掘削した。
父さん曰く、ドレイザンコウが地面に潜る時の技らしいけど、想像以上の威力だ。
堤防が大きく陥没して、全体が大きく揺れた。
亀裂は頂上まで達して、ハロウィーは小さな悲鳴を上げて転倒した。
「ハロウィー!」
俺は急いで堤防の下に駆け寄ると、斜面を転がり落ちるハロウィーを抱き止めた。
「ありがとう、ラビ」
「気にするな。それよりも、あいつ本気でやばいぞ」
「まるで隙がないな」
空から落ちてきたノエルは着地を決めると、素早く剣を構え直した。
クラウスも、表情が苦しげだ。
「ノエルのカリバーもハロウィーの魔力圧縮も効かないなら、僕の魔法剣も効かないと見るべきだろう。それでも、僕が諦める理由にはならないけどね」
丸めた体を開いて、ドレイザンコウは堤防に半ば埋もれた上半身をゆっくりと引き抜いていく。
それが、まるで死へのカウントダウンのようにも感じられた。
——ん? 今更だけどあいつ、片目なんだよな?
ドレイザンコウの目の傷は、まだ新しい。
——クリストファーたちがやったのか?
ウロコの無い場所なら効く。
あまりにも単純な話だけど、それしかない。
——でも顔は前脚の攻撃で弾かれる。四つん這いだからお腹は攻撃できない。いや。
俺は声を絞り出して、叫んだ。
「みんな! とにかくウロコのない場所を狙うんだ! イチゴーたちは真下に潜ってお腹を攻撃だ!」
『わかったー』
俺の指示に従い、イチゴーたちはドレイザンコウのもとへ猛ダッシュ。
初めて見るであろうゴーレムたちに、ドレイザンコウの独眼が彷徨った。
『えいー』
イチゴーたちは五人バラバラの方向からドレイザンコウの腹の下に潜り込むと、一斉に飛び上がり、頭突きを始めた。
「どうだ!?」
「■■」
ドレイザンコウは煩わしそうに鼻を鳴らすと、ボディプレスのようにお腹を落とした。
「みんな!」
ストレージの射程圏外で、回収ができなかった。
ドレイザンコウが体を起こすと、イチゴーたちは地面に丸ごとめり込んでいた。
「よかった」
どうやら、ドレイザンコウの回転で地面が耕されてやわらかくなっていたのが幸いしたらしい。
大したダメージはないものの、ドレイザンコウは嫌そうな顔をしていた。
「効いている。みんな、やっぱり攻撃をするならお腹だ。なんとかしてこいつの下を取るぞ!」




