ジャイアントキリング始めます!
言われるがまま、俺らは堤防の上に避難した。
やがて、二頭立ての馬車が八本の足で草原を蹴立ててノエルの横を通り過ぎた。
続けて、恐竜を彷彿とさせる巨獣が地面を揺らしながらノエルに迫った。
そのサイズ差から、まるで少女が新幹線に轢き殺される瞬間を目の当たりにするような光景に、心臓が痛んだ。
けれど、当事者であるノエルの目は闘志に溢れ、白刃からは絶大な魔力が迸っていた。
下級魔法使い未満なんてとんでもない。
仮にあれが全魔力であったとしても、ノエルは中級魔法使いと十分肩を並べられるだけの魔力量を持っていた。
——才能か。羨ましい。
そして、磨かれぬダイヤの原石が、裂帛の気合いと共に全身全霊を振り絞った。
「バーニング――カリバァアアアアアアアアアアアアア!」
爆炎が破裂した。
業火が駆け抜けた。
紅蓮の灼熱が濁流のようにドレイザンコウを草原の草地ごと押し流し、周囲の草を余波だけで灰と焦土に変えていく。
「やったか!?」
「いや!」
クラウスが否定した直後、一陣の風が黒煙を晴らした。
ドレイザンコウは健在だった。
アルマジロのように全身を覆う岩石質のウロコは赤く焼け、一部が黒くなっているも、四本の脚は力強く焦土を踏みしめている。
閉じていた片目を開けると、巨獣は吠えた。
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!」
思わず両手で耳を塞ぐも、心臓に響き自分の鼓動が止まりそうだった。
ウサギに手を噛まれたライオンのような、獣王の咆哮。
手傷を負わせた敵以上に、むざむざ傷つけられた自分が許せない。そんな、頂点捕食者としての矜持を懸けた激怒の遠吠えに感じた。
「ウロコだ」
クラウスが顔を歪める。
「ノエルのバーニングカリバーが直撃する寸前で、あいつが頭を伏せて体をボールのように丸めるのを見たよ」
父さんから聞いていた通りの防御姿勢。
――アルマジロやセンザンコウみたいな外見はダテじゃないってことか。
余談だが、生前目にした動物番組いわく、丸まったアルマジロやセンザンコウは拳銃の弾を防ぐらしい。
「それで仕留めそこなったのか」
俺が歯噛みすると、離れた場所でけたたましいクラッシュ音がした。
目をやれば、クリストファーたちの馬車が横転していた。
さっきの遠吠えで、馬が暴れたに違いない。
中からクリストファーたちが這い出るも、腰が抜けて地面を転がるばかりだった。
「ノエル! もう駄目だ! すぐに逃げよう!」
俺の必死の呼びかけに、けれどノエルは動かなかった。
彼女は遥か背後のクリストファーたちを一瞥してから、ドレイザンコウ相手に雄々しく剣を構えた。
「ラビ、ゴーレムたちは、あの四人を加えても高速移動は可能なのか!?」
堤防の上の俺に、声を張り上げ確認してくるノエルに、俺は言い淀んだ。
「それは……」
「ここで私たちが逃げれば、それは彼らを見捨てたことになる。領民を守る盾となることこそが貴族の本懐。なれど、領民でなくとも学友を見捨てるのは私の道に反する!」
「ッッ……」
否定の言葉は、出なかった。
クリストファーと俺は、別に友達じゃない。
クリストファーはいつも無神経で、空気が読めなくて、そのことを自覚できていなくて、嫌な想いもいっぱいした。
でも……。
「行くぞイチゴー、ニゴー、サンゴー、ヨンゴー、ゴゴー!」
俺は堤防を滑り降りると、ノエルの横に並んだ。
「俺も、見殺しにはできないよ」
「ラビ……」
「なら、僕も協力させてもらうよ」
一緒に滑り降りてきたのか、クラウスも俺の隣で剣を構えてくれた。
「あいつら貴族だけどいいのか?」
「彼らの為に戦うわけじゃない。君の為だよラビ。それに、元から僕たちは町の人たちの為に戦うつもりだったじゃないか」
言われてみればそれもそうだ。
頭上から飛来した閃きに、ドレイザンコウは首を傾けて頭部のウロコで弾いた。
ハロウィーの魔力圧縮した矢だ。
自分の役割が分かっているのか、彼女は堤防の上で二射目の準備を始めていた。
魔力圧縮で貫通力を増した一撃をいつでも撃てるよう、控えているつもりらしい。
――敵は前にダンジョンで戦った真カースメイルことコマンダーメイル超えの上級魔獣ドレイザンコウ。こっちは冒険者デビュー一日目の一年生四人。しかも切り札の魔力圧縮とカリバーがどっちも効かない。どんな無理ゲーだよ。けど……。
背後のクリストファーたちを一瞥してから、俺も覚悟を決めた。
「やるしかないか!」
「■■■■■■■■■■■■■■!」
柱のように太い四肢が、地面を踏みしめ蹴り上げた。




