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カリバー

 堤防の下で一人ずつそれぞれ、ゴーレムを抱きしめなでまわし、手持ち無沙汰を解消しながら、俺らはノエルが持つスキルの解説を聞いていた。


 余ったゴゴーは俺の肩に乗っている。


 ——丸い体と短い腕で器用な子だ。


「私のスキルはカリバー。全魔力の同時解放だ」

「え、それ本気で凄いな」

「そうなの?」


 魔力は扱うものの、生粋の魔法使いというわけではないハロウィーが、小首をかしげた。


「魔法に大切なのは貯蔵魔力量、魔力を溜めるスピード、一度に扱える魔力量なんかがあるだろ?」

「うん」


 サンゴーを抱きしめながら、ハロウィーはお利口に頷いた。いい生徒だ。


「仮に無限に近い魔力を持っていても、一度に使える量が少なかったら、最下級魔法を連射するだけ。だから、魔法の威力を上げるには一度に扱える魔力量を上げる訓練をする。それでも、一日分の魔力を一発で使い切れる人なんてほとんどいない」


「え、じゃあノエルは一流の魔法使いってこと!?」


 興奮するハロウィーに、ノエルは涼やかに手を振り否定した。


「まさか。言っただろう、ハズレスキルだと。剣士の私は魔法を使えない。そんな私に、魔力の全解放スキルがあったところで意味がない」


 ノエルは自嘲気味に笑った。


「仮に使えても、私自身の貯蔵魔力量がそれほど多くはないからな。一日分の魔力を一度に使い切ったところで、トップランカーの小手調べにも勝てないさ。いくら蛇口が大きくても、肝心のタンクそのものが小さければ意味がない」


 剣士であるノエルは、魔法の鍛錬をしていない。

 彼女の魔力量は、下級魔法使い未満だろう。


「私に体が二つあれば、もう一人の私には魔法の鍛錬を積ませたのだが。それを思えばクラウスは凄い」


 剣と魔法、両方を扱う魔法剣士であるクラウスは、ノエルの賞賛に謙遜を返した。


「それは買い被りだよ。剣の腕ではノエルに敵わない。世間じゃ万能戦士みたいに言われているけれど、実際の魔法剣士なんてただの器用貧乏だよ」


 その器用貧乏で平民科首席なのだから、十分万能だろうと、俺は心の中でツッコんだ。


「あれ? ゴゴーちゃんどうしたの?」


 ふと、ゴゴーが俺の肩から降りて、山の方角を見つめた。


『なにかおおきなものがくるのです』

「大きなものが来る?」


 何のことだと俺が思っていると、何かを察したハロウィーが、狩人のような身のこなしで素早く堤防を駆け上がった。


 手で目の上にひさしを作り、高台より遥か遠くを窺うハロウィーが、不意に目を見開いた。


「大変! クリストファーたちの馬車がこっちに向かってくるよ! そのうしろを、すごく大きな魔獣が追いかけている!」

「なんだと!?」


 ニゴーから手を離し、ノエルはサーベルに手をかけた。


「あいつら何から逃げているんだ?」

「ドラゴンみたいだけど、ツノが無くて、たぶん顔に毛が生えているのかな?」


 高台に立っているとはいえ、俺らからは何も見えない魔獣の毛並みまでわかるハロウィーの視力に舌を巻きながら、俺は冷や汗を流した。


「それってまさか、ドレイザンコウ!?」

「神官さんが言っていた? 知っているのかい?」

「ウロコがゴーレムの材料になるからな。昔父さんから教わったよ。センザンコウ型の」


 ――は、こっちの世界の人に言っても分からないか。


「全身にウロコを持った哺乳類型の巨大魔獣だ。大人のプロ冒険者たちが束になって討伐するような上級魔獣だ。すぐに逃げるぞ」

「待ってくれラビ」


 イチゴーたちに乗って逃げようと、カーボンボードを取り出した俺に、クラウスは手の平を突き出した。


「ここは町から人間の足でも来られる場所だ」


 その言葉で、ノエルがハッとした。


「ここで止めなければ、町に被害が及ぶかもしれない、ということか?」


 ノエルは勢いよくサーベルを抜き、臨戦態勢に入った。

 今度は、俺がノエルを手で止めた。


「いや、だとしても俺らの手に負える相手じゃない。急いで町に帰ってこのことを知らせるほうが重要だ。俺らがここで死んだら、町の人たちは何も知らずにいきなり襲われることになるぞ!」


「忘れたかラビ、こういう時のカリバーだ。貴君の炎の剣を貸してくれ」


 ノエルは俺に手を伸ばすと声に力を込めた。


「私は魔法を使えない。だが、ラビの魔法アイテムがあれば私でも魔法を使える。幸い今日はまだ一度も魔力を使っていない。今日一日分の魔力、全てこの一撃に懸ける!」

「……ッ」


 振り返れば、草原の奥からこちらへ駆けてくる馬車と、それを猛然と追いかける巨大な影が目に留まった。


 近い。


 今から町に戻ったところで、大した時間の猶予はない。

 なら、ここでイチかバチか迎え撃つべきか。

 その逡巡の間にもドレイザンコウとの距離は縮まり、選択の天秤は傾いた。


「わかった。頼んだぞノエル」


 俺はノエルに剣を託した。

 ノエルは剣を上段に構えると、その白刃に魔力を溜め始めた。


「任せろ。貴君のこの剣と、私のスキルでドレイザンコウを打ち倒してみせよう! みんなは堤防の上に避難してくれ!」


 言われるがまま、俺らは堤防の上に避難した。

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