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何か変な乗り物が走っているぞ!?

 そこで、他の男子から肩を叩かれてクリストファーはハッとした。


「おっと、長話が過ぎちゃったね。君たちもクエストがあるのに引き留めてゴメンよ。じゃ、僕らはこの町を治めるウォルター伯爵からの依頼で、山に虹色テントウムシを捕まえに行くからこれで」


 俺らの返事も聞かずに馬車の中に戻ると、クリストファーたちを乗せた馬車はさっさと走り出してしまった。

 俺の隣で、ハロウィーは表情を硬くしていた。


「な、なかなか強烈な人だったね……」

「あー、悪い奴じゃないんだけどな……。でも、クリストファーの奴は昔から人の話を聞かないところがあるのと、空気が読めなくて……」


 不幸なのはお前だけじゃないとか、もっと不幸な人もいるとか、だったらなんだという話だ。


 他人の不幸は俺に関係ないし、その理屈だと世界一不幸な人一人以外は不幸を嘆いてはいけないことになる。


 クリストファーは慰めるのが下手だ。

 しかも、そのことに自覚が無い。


 ――中等部時代もよく俺に『大丈夫だよラビ。家を継げない次男でも努力すればそれなりの人生は送れるさ』とかキメ顔で言って来たなぁ……。


 ノエルも小さな溜息を吐いた。


「前も、彼氏にフラれた女子に『泣いても彼氏は戻ってこないし縁が無かったと思って早く次の恋を見つけなよ』などと言って顔を叩かれていたな」

「うわぁ……」


 ハロウィーの顔がさらに曇った。

 天気なら、曇天といった具合だ。


「ていうか、あいつ、散々俺のこと馬鹿にしておきながら自分はテントウムシかよ」


 俺が辟易とした声を漏らすと、ノエルはまた溜息を吐いた。


「虹色テントウムシの素材は宝飾品の材料になるからな。格調高いと言いたいのだろう。それにあのクエストなら私も目にした。確か報酬は我々の三倍だ」

「貴族用の高級クエストってことか……」


 クラウスがなぐさめるように俺の肩に触れてきた。


「まぁまぁ、それに彼の言うことも一理あるよ。親が生きているんだ、君は恵まれているほうさ」


 父親の形見の剣で戦うクラウスにそう言われると、ちょっと言葉に困る。

 けれど、クラウスは爽やかに笑った。


「さ、彼らのことは気にせず、僕らは僕らのクエストに向かおうよ。地道に足で歩きながらね」


 今から町の外まで歩いて、さらに広い草原でレッサーウルフを探す。

 現代日本とお貴族様の経験が重なる俺には、なんともダルい話だった。

 そこで、ぴんと閃いた。


「イチゴー、ニゴー、サンゴー、ヨンゴー、ゴゴー」


 俺はストレージからニゴーたち四人を取り出すと、続けて3Dプリンタスキルを発動させた。


 作るのは、横幅一五〇センチ、長さ二五〇センチのカーボンボードだ。


「みんな、これに俺らを乗せて運んでくれるか?」

『いーよー♪』


 五人は四隅と中央を支えるように並んでからバンザイポーズを取る。

 その上にボードを乗せると、俺は空飛ぶ絨毯に乗るアラジンの気分で上に乗り座った。


「えっ、これ乗っていいの?」

「イチゴーたちは大丈夫なのか?」


 ハロウィーとノエルが心配すると、イチゴーたちは余裕を表すように、俺をお神輿わっしょいとばかりに上下に揺らした。


「へぇ、余裕があるみたいだね。じゃあ遠慮なく」


 言って、クラウスが俺の隣に座った。

 すると、慌ててノエルが俺の逆隣に座ってくる。


 続けて、ハロウィーが俺の後ろに座った。

 ノエルがぎゅむっと肩を寄せてくる。

 必然、彼女の制服に収まりきらない胸のふくらみが俺に触れそうになって少し焦った。


「バランスが悪いな、前後に座ろうか」


 俺は乗用車の運転席と後部座席のような座席位置を意識して前にズレた。

 クラウスも俺と一緒に前にズレてくれた。


 ノエルがちょっと寂しそうな顔をした気がするのは気のせいだろう。

 そうして、板の上に座り込む男女四人という珍妙な光景が出来上がった。


「ごめん、やっぱりもうちょっと見栄え良くするよ」


 俺は板に接合する形で手すりと椅子を生成した。

 ノエルたちはお尻の下から生えてくる椅子に座る形となり、俺はイチゴーたちに指示を出した。


「よし、出発だ」

『わーい♪』


 まるででんしゃごっこをして遊ぶ子供のような無邪気さでボードは動き始めた。

 みるみる加速していくボードの走行速度は、体感で時速七〇キロは出ているだろう。

 乗用車でも、なかなか出さないスピードだ。


「うわ、速いね!?」


 ハロウィーが風圧で髪を背後にはためかせながら、驚きの声を上げた。

 昨日から、ハロウィーは驚き通しな気がする。反応がかわいい。


「ふむ、馬車よりもずっと速いな。これならすぐに町の外に出られるだろう」

「それに乗り心地もいいね」


 クラウスの言う通り、イチゴーたちによるゴーレム車の乗り心地は快適だった。


「ラビ、どうしてこんなに揺れないんだい?」

「そりゃ、イチゴーたちは足が短いからな」

「あー……」


 クラウスには珍しい、重みのある「あー」だった。

 イチゴーたちは申し訳程度にしか足がないため、必然的に走った時の上下運動も限られている。


 小さすぎる足を高速でちょこちょこ動かしながら走る姿には、いつも胸をキュンとさせられている。

 美人は何を着ても似合うと言うけれど、イチゴーたちは何をさせても可愛らしい。


「うわっ!? なんだあれ!?」

「馬もないのに走っているぞ!?」

「どうやって走っているんだ!?」

「何か変な乗り物が走っているぞ!?」


 ただちょっと、町の人たちからの視線が痛かった。


「みんなごめん……」


 ハロウィーたちの手が、俺の肩にぽんと置かれたのがせめてもの慰めだった。


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