空気が読めないクラスメイトっているよね
「えっ、そんな具体的なご利益があるの!?」
「ゴーレムの機能ですか?」
冷静な俺の質問に、神官さんは頷いた。
「はい。なんでも、空気中の魔力を微弱な回復魔法に変換し続けているそうです。おかげで一〇年前にドレイザンコウという大型魔獣が町を襲った時も多くの人が命を救われました」
俺はごくりと息を呑んだ。
「すごいですね……」
「そうなの?」
「当たり前だ。空気中の微弱な魔力を実用レベルの魔法に変換するだけでも、とてつもない技術だ。俺の父さんだって作れるかどうか。しかもそれが二〇〇〇年も稼働しているなんてゴーレム使いの常識じゃあり得ないぞ。流石はエルダーゴーレム、いや、女神様としか言えないな」
「くわしいね、さすがはシュタイン家」
「いや、追放されているから」
ハロウィーやノエル、クラウスたちがひたすら感心する一方で、俺はイチゴーたちのことが気にかかった。
——もしも、俺と女神のスキルが同じだったとしたら、俺が死んだ後もイチゴーた
ちは二〇〇〇年も動き続けるのか? そうしたら、寂しがらせないかな?
思い上がりと思われるかもしれないけれど、イチゴーたちは俺にとてもなついている。
俺がいなくなったあとの世界で、二〇〇〇年も生きて行かないといけないのか。
そう思うとちょっと心が苦しかった。
——いや、あの少女ゴーレムだって、今は動いていないし、考えすぎだろう。それに、もしかするとスキルじゃなくて手作りのゴーレムかもしれないし。
剣術スキルが無くても剣術を鍛えられるように、ゴーレム系スキルが無くても、魔法アイテムとしてのゴーレムは作れる。
俺の父さんや叔父さんたちも、普段は手作りのゴーレムを作り、王室に納品している。
女神が作ったゴーレムとイチゴーを一緒にするのは早計だろう。
——て、あれ? イチゴー?
いつの間にか、俺の足元から姿が消えていた。
赤ちゃんのように小さな相棒の姿を探すも見つからない。
広い礼拝堂に視線を巡らせると、イチゴーは女神像の足元にいた。
微動だにせず、まぁるい体を傾けて、じっと女神像を見上げている。
参拝者はちょっと不思議そうに、イチゴーを見下ろしていた。
「あ、すみません、うちの子が。ほら行くぞイチゴー」
俺は町の人たちに軽く頭を下げながらイチゴーを抱き上げ、クラウスたちのもとに戻った。
「では、僕らはさっそく討伐に向かいますね」
「「よろしくお願いします」」
どうやら話は終わったらしい。
町長さんと神官さんにお願いされてから、俺らは神殿を後にした。
◆
教会の外に出ると、遠くから二頭立ての馬車が走って来た。
通り過ぎるまで待っていると、馬車は減速。
俺らの前で蹄を止めた。
かといって、俺らに用意された馬車ではないだろう。
タイミングが良すぎるし、町長さんも何も言っていなかった。
案の定、馬車にはすでに誰かが乗っていて、その誰かがドアを開けて降りてきた。
「おや、やっぱりラビとノエルじゃないか。君たちもこの辺りでクエストかな?」
姿を見せたのは、中等部時代のクラスメイトたちだった。
四人とも、俺と同じ伯爵家のご令息である。
特別仲が良かったわけじゃないけど、会えば話すぐらいの間柄だ。
「まぁな、草原でレッサーウルフ退治だ」
俺の説明に、カールした栗毛が特徴的な男子、クリストファーが怪訝な顔をした。
「レッサーウルフ? おいおい、そんな雑魚魔獣の相手をしないといけないなんて、平民科の授業はそんなにレベルが低いのかい? そんな底辺の仕事、元貴族のプライドが許さないだろう。可哀想に」
クリストファーは、心配そうにまくしたてた。
他の男子たちも、同情的な視線を向けて来る。
「他人事でラビには悪いけど、実家を追放されるとやっぱり苦労するんだなぁ」
「僕もお父様の機嫌を損ねないように気を付けないとってラビのおかげで学んだよ」
「それにしても、中等部時代からぱっとしない成績だったけど、まさか平民科に落ちるとは思わなかったよ」
「おいおい、みんなラビに失礼だろ。口を慎めよ」
クリストファーが、みんなをたしなめた。
けれど、すぐに俺に向き直った。
「だけど、考え方によってはよかったんじゃないか? これで貴族の重責からは解放されたんだし、意外と今の方が身の丈に合っているかもしれないよ。それに平民から貴族に叙勲される人がいるならその反対もいる。それどころか家ごと没落して路頭に迷う貴族だっているんだ。実家が健在の君はお父様の許しを得られれば復帰のめどもある。むしろ恵まれている方じゃないかな?」
持論を述べてから、クリストファーは視線を逸らした。
「それにしても、平民に落ちた友達に付き合ってクエスト攻略を手伝ってあげるなんて、ノエルは義理堅いんだね。とてもじゃないけど、僕には真似できないよ。あ、だけど相談ぐらいなら乗るよ。平民に落ちてもラビはラビ、元クラスメイトだって事実は変わらないよ」
そこで、他の男子から肩を叩かれてクリストファーはハッとした。




