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具体的なご利益www

「着いた、この建物だよ」


 石造りで赤い三角屋根の、なかなか立派な建物だ。


 この町のシンボルなのかもしれない。


 教会の扉はいつでも開かれているという理念を実践するかのように、ドアは開けっ放しだった。


 それでも、クラウスは来訪を告げるように、ドアを三度ノックした。


 おかげで、奥で信者の話を聞いていた老年の神官さんが顔を上げてくれた。


 俺らの存在に気付くと、神官さんは近くにいた初老の男性に何かを告げてから、信者に向き直った。


 それから、初老の男性がこちらに駆け足で向かって来る。


「どうも皆さん、よく来てくださいました。冒険者の方々とお見受けしますが、レッサーウルフの討伐を引き受けてくれた方々でしょうか?」

クラウスが愛想よく頷いた。


「はい。王立学園から来ました」


「これはこれは、わざわざ足を運んでくださりありがとうございます。私はこの町で町長を任されている者です。おや、もしかして君は」


「お久しぶりです。去年の堤防修繕以来ですね。高等部一年生のクラウスです」

「同じくラビです」

『イチゴーなのー』


 ストレージから勝手にコロンと転がり出たイチゴーが、俺の足元でぴょこんと両手を挙げた。かわいい。


「わたしはハロウィーっていいます」

「私はノエル・エスパーダだ」


 クラウスにならい、俺らも自己紹介を始めた。

 すると、ノエルの言葉に町長さんは背筋を伸ばした。


「家名持ち……もしや貴族の方ですか?」


 平民でも、貴族から家名を貰う人はいる。

 ハロウィーもフルネームはハロウィー・パンプキンだ。


 ただし、平民は家名を名乗らないことが多い。

 それに、俺らの中では一人だけ制服が立派なものだし、平民には珍しい金髪碧眼の美貌に、自然にまとう品格。


 佇まい一つとっても、ノエルはやんごとなき出自のご令嬢であることが見て取れる。


「いかにも。だがそう硬くならないでくれ。貴君は私の領民ではないし、今日はあくまでも学生として、そして一冒険者としてこの場に来ている。依頼人がそうかしこまらないでくれ」

「いえいえそういうわけには参りません」


 無礼講を鵜呑みにしない町長さんに大人を感じる。


 同時に、年下の学生相手にただ貴族というだけで目上の存在として敬意を払わなければいけない。


 身分制度のある世界とはいえ、息苦しさを感じた。


「困ったな……」


 ノエルが声を硬くすると、クラウスが前に出た。


「じゃあ僕と話しましょう。クエストの詳しい内容を聞かせてください」

「ええ。実は最近、町の周辺にレッサーウルフが出るようになってしまいまして。駅馬車を使わないと王都へ行けませんし、堤防の様子を見に行ったり山へ行ったりするのも一苦労なんですわ」


「なるほど、それはお困りですね。では皆さんが安心して町の外へ出られるよう、僕らが魔獣を退治致しますね」


 淀みなく、言い慣れた台詞を読み上げるようにして告げるやわらかい声に、町長さんは破顔して笑った。


「ありがとうございます」

「町長」


 そこに声をかけたのは、老齢の神官さんだった。


「代わりの対応ありがとうございます」

「いえいえ。そちらはもう大丈夫ですかな?」

「ええ。それに、私は最初からおまけみたいなものですからね」


 神官さんは朗らかに笑うと、視線を礼拝堂の奥に投げた。


 円筒形の木製台座の上には人間の少女と見紛うような、精巧なゴーレムが立っていた。


 美しいプラチナブロンドのロングヘアーに、白いワンピースタイプの水着と黒のニーハイソックスというセクシーな服装でありながら、左右の腰から下には重装甲のスカートが伸びている。


 全体的な華奢なシルエットである一方で、右手に握る杖は身の丈ほどもあるアンバランスさ。

 なのに、まるで不自然に見えない不思議な姿だった。

 町の人たちはみんな、彼女を熱心に拝んでいる。


「わぁ、綺麗な女神像だね」


 ハロウィーが美貌に注目する一方で、俺は女神像の額にはまるオーブ、その中に輝くトライアングルの輝きを見据えた。


「ゴーレムだ……しかもエルダー……」

「え?」


 俺の一言に、ハロウィーはきょとんとした。


「ほぉ、よく気づきましたね」


 神官さんが感嘆の声を漏らした。


「彼の実家はゴーレム使いなんです」


 ノエルの紹介に、神官さんは得心したように頷いた。


「なるほど。君の言う通り、あれはただの女神像ではなくゴーレムです。それも、二〇〇〇年前の女神様の時代のもので、王都の巨神像と同じ、女神の遺産とされています」

「どうりで。ゴーレムの進化形であるハイゴーレムより、さらにその上のエルダーゴーレムなんて、初めて見ましたよ」


 ちょっと誇らしげな神官さんから目を離して、俺はゴーレムの胸元を注視した。

 王都の巨神像と同じ、女神のエンブレムが刻印されている。


 そして、目元を隠すバイザーに、耳から伸びたヘッドセットのアンテナのようなもの。


 手に握る杖も、よく見れば銃身の長いプラズマライフルだ。

 間違いない。

 あれも機械の、ロボットタイプのゴーレムだ。


 ——だとすると、やっぱり女神の正体は俺と同じ異世界転生者なのか?


 ふと、俺の部屋で目にした黒髪の少女の顔を思い出した。


「彼女はこの町のシンボルであり、心の拠り所になっているのです。拝むと元気になると評判なんですよ」


 ハロウィーがぎょっとした。


「えっ、そんな具体的なご利益があるの!?」

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