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貴族科だけどノエルもついてきます!

 今は放課後の夕方なので、郊外の町を訪ねるのは明日になった。


 俺とハロウィーが王立学園に戻ると、平民科と貴族科の校舎の間にある掲示板ホールで、通りの良い声を掛けられた。


「ラビ、それにハロウィー」


 振り返ると、腰に剣を挿した長身の少女騎士が、長い金髪をやわらかく揺らしながら、こちらに駆けてきた。


 周囲の男子たちの視線を独り占めにする美貌の彼女が少しでも走ると、男子たちの視線が一斉に三〇センチ下がった。


 ——お前ら、ノエルのどこを見ているんだ?


 内心不機嫌になるも、俺はそんな素振りはおくびにも出さず、軽く手を挙げた。


「よっ、俺らはさっき冒険者登録を済ませてきたんだけど、ノエルは?」

「うむ、こちらも先程、講堂で済ませてきた」

「え? 講堂?」


 きょとんとするハロウィーと状況が呑み込めていないノエル。

 彼女たちには、俺から説明した。


「俺ら平民科は冒険者ギルドに行って登録するけど、貴族科はギルド職員が学園に来てくれるんだよ」


 去年、兄さんもそうだったらしい。


「ふわぁ、さすがだね。ギルドのほうから来てくれるんだ……」


 ハロウィーは幼い子供みたいに、目を丸くして驚いた。素直でよろしい。


『すごーい』

『とくべつたいぐう』

『すごいのだー』

『すごいっすー』

『もりでいしさがししていーい?』


 ハロウィーのまねっこをするようにして、視界のメッセージウィンドウが更新された。


 そしてゴゴーがブレなかった。

 なんてマイペースな子だろう。


「一年生全員でおしかけたらギルドがパンクするからな。ただの特別待遇じゃなくて、混雑を避ける意味もあるんだろうな」


「うむ。ただクエストも、ギルド職員殿が用意してくれた我々用のEランククエストから選ぶのだ」


「クエストまで特別待遇かよ」


 やっぱり混雑を避けるためではなく、本当にただの特別待遇なのではないかと疑ってしまう。


「先生の話だと、平民と我々貴族では基礎戦闘力が違うかららしい」

「やっぱり、貴族って強いんだ」


 ちょっと感心しているハロウィーに、俺は補足する。


「そりゃ幼い頃から一般教養で戦闘訓練するからな」


 地球の先進国が学歴社会なら、こっちの異世界は戦闘力社会だ。

 歴史的にも強い奴が戦場やダンジョンで活躍して出世して、貴族には強さが求められる。


 強さイコール社会的ステイタス。


 日本と違い、一個人が山を砕き海を割るような戦闘力を発揮できる異世界ならではの価値観だ。


「その様子だと、そちらのクエストは違うのか?」

「俺らは普通に掲示板からFランククエストを選ぶんだよ。みんな森や山で素材採集だ」

「わたしたちはクラウスと一緒にEランクの魔獣退治だけど」


 その一言で、ノエルの顔色が変わった。


「何? また貴君ら三人で組むのか?」

「クラウスが誘って来たからな。俺らもEランククエストを成功させれば早く昇格できるかもしれないし、断る理由はないだろ? ……?」


 何故か、俺が説明するごとに、ノエルがちょっとずつ不機嫌になっていく。

 そしてハロウィーが一言。


「昇格したら貴族からの依頼も受けられると思うし、そうしたらラビの心証もよくなるよね」


 ノエルはハッとして、俺に詰め寄って来た。


「その依頼、私も受けるぞ!」

「え? でもノエルは貴族科に用意されたのがあるだろ?」


 大きな青い瞳に俺を映しながら、ノエルは声を鋭くした。


「私はソロだからな、どれを受けるか決めあぐねていたのだ!」

「だけど平民科の俺らとチームは組めないだろ?」

「私はソロで受ける! 私の一人チームとラビの三人チーム、二チームで依頼を引き受ければいい。まだギルド職員殿は残っていたはずだ。ラビ、ハロウィー、イチゴーたち、一緒に来てくれ!」


 言うや否や、ノエルは俺の手を握りしめ、早歩きになった。

 俺はノエルに手を引かれるがまま、バランスを取りながらついて行った。


   ◆


 翌朝。


 俺、ハロウィー、ノエル、クラウスは駅馬車を使い、王都郊外の町を訪れていた。

 王都の近くではあるものの、開発はあまり進んでいないらしい。


 石畳の整備されていない剥き出しの地面の上に、木造や土壁の家が並んでいる。

 石造り、レンガ造りの建物は、ごく一部だ。


 それでも人口は多く、道を行き交う人々の顔には活気がある。


 ——この町の平民は、特別に虐げられているわけじゃないのかな?


 もちろん、貴族への不満はあるだろうけど、時代劇に出てくるような、重税にあえぎ苦しみ生かさず殺さずの民、というわけではないようだ。


 最近色々あって、平民の環境にナーバスになる俺がいた。


 ——王都からの駅馬車もあるぐらいだし、開発は遅れているけど発展していないわけじゃないのかも。


 町の発展具合は見た目だけではわからない。

 将来貴族に戻るなら、そういう目も養わないといけないなと感じた。


「クラウス、約束の場所は神殿だよな?」

「そうだよ。前に一度来たことがあるから、道案内は任せてよ」


 辺りを見回す俺らの視線を受けてから、クラウスは迷わず歩き始めた。


「前にも来たことがあるってどういうことだ?」

「中等部時代にここで慈善活動に参加したんだよ。古い堤防の修繕作業さ」

「堤防?」

「うん。町の外に大きな川が流れていてね、洪水にならないよう、堤防で治水しているんだ。仕事の後は町の人たちと一緒にサンドイッチをご馳走になったよ」


 嬉しそうに話すクラウスの横顔が眩しかった。

 これだけの剣と魔法の腕を持ちながら、そんな土木作業にも従事する。


 聖人君子というか、清廉潔白というか、滅私奉公というか。


 まるで物語に出てくる理想の騎士様だと感じた。

 あるいは、少女漫画のイケメン王子様キャラか。


 俺が感心しながらしばらく歩いていると、やがて斜めの十字架を掲げた教会風の建物が見えてきた。


 もちろん、地球の十字架とは関係ない。掛け算マークみたいなものは平行線が交わり平和となることを示しているらしい。


「着いた、この建物だよ」

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