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イチゴーの短すぎる足がぱたぱた動いた。

 イチゴーを見るなり、ハロウィーの顔がぱっと華やいだ。


「こんにちは、イチゴーちゃん」


 ハロウィーがぎゅっと抱き上げると、イチゴーは嬉しそうに手足をぱたぱたさせた。


 続けて、ニゴー、サンゴー、ヨンゴー、ゴゴーと勢ぞろいし、ゴゴーが俺の脚に抱き着き甘え始めた。


 サンゴーは俺の脚にもたれてお昼寝を始めた。


 ヨンゴーは初めて見る冒険者ギルド内にハシャぎ、俺の周りをぐるぐる回りながら周囲の人たちを観察している。


 ニゴーは、俺に甘えるゴゴーともたれるサンゴーをチラチラ見ながら、体をうずうずさせている。きっと、俺に甘えたいのを我慢しているのだろう。いじらしい。


「さてと、じゃあクエストを探そうか。みんな、はぐれないように俺に捕まれ」


 そう言いながら、俺はニゴーを抱き上げた。

 すると、ニゴーは手足をぱたぱた動かすことはしないも、その手はしっかりと俺の腕をつかみ離さない。かわいいな。


「貴族の人たちからのウケがよくなるクエストがあるといいね」

「Fランククエストでそれは難しいんじゃないか? クエストっていってもFランクじゃ街の掃除とか工事現場の肉体労働とか、良くて森で薬草採取だろ?」


 冒険者と聞けば、誰でも武器を手に森やダンジョンで魔獣と戦う戦士をイメージするだろう。


 でも、理想と現実というか、駆け出し冒険者は魔獣と戦う危険なクエストを受けられない。


 世間にとってのFランク冒険者とは、便利な雑用係でしかない。

 当然、依頼を出しているのは役所や民間人で、お偉い貴族様ではない。


 とはいえ、王立学園で散々戦闘訓練を積んできた生徒が、そんな下積みクエストに満足するはずもない。


 みんなが受けるのは、もっぱら森での薬草採取クエストだ。


「あの、薬草探している時に魔獣と出くわしちゃったら倒していいんですよね? それで素材を持ち帰ったら買い取ってもらえるんですよね?」

「はい、もちろんですよ」


 受付嬢の笑顔に、とある男子がヨッシャとガッツポーズ。

 他の生徒たちも、雑魚でもいいから魔獣の出る地域での活動クエストを選んでいる。


「貴族からの依頼が無かったら、俺らも比較的難易度の高いクエストで早く昇格目指すか」


 冒険者のランクを上げるには、ギルドから昇格資格ありのお墨付きを貰い、一つ上のランクのクエストを受けさせてもらい成功させる必要がある。


 お墨付きを貰うのに手っ取り早いのは、難易度の高いクエストを期待以上に達成すればいい。


「薬草採取クエストで大量の薬草と魔獣の素材を納品すれば、Eランククエストを受けさせてくれるだろ」

「そうだね」


 俺がハロウィーの賛同を得ると、背後から女子たちの悲鳴が上がった。


「え~! クラウスくん組んでくれないのぉ!?」

「あたしたちと一緒に森でベリー採取しようよう」

「ごめんよみんな。でも僕はこっちのクエストを受けることになっているから」

「え!?」

「嘘!? それって、なんで!?」


 驚愕する女子たちの集団を割って姿を見せたのは、長身モデル体型に甘いマスクが印象的な茶髪男子、クラウスだった。


 平民科首席のスター生徒。

 平民出身なのに、その礼儀正しさと品性はそこらの下級貴族以上だ。

 そのクラウスが、俺を見つけるなり顔を輝かせた。


「やぁラビ、ここにいたんだね。もうクエストは決まったかい?」


 親し気に話しかけてくるクラウスに、俺は首を横に振った。


「いや、まだだ。早くランクを上げるためにもできるだけ難易度の高いクエストを受けようかなって。まぁFランクじゃたかが知れていると思うけど」

「じゃあ、僕と一緒にこのクエストを受けようよ」


 クラウスが広げて見せた依頼書には、魔獣の討伐クエストと書いてあった。

 ヨンゴーがぴょこんと俺の背中に飛び乗ってきて、覗き込む。かわいい。


 ゴゴーはよじよじと俺の脚をよじのぼって、お腹辺りで依頼書を見上げる。かわいい。


「場所は王都郊外の町で、周囲の草原に出るレッサーウルフの討伐か」


 レッサーウルフとは、中型犬ぐらいの狼型魔獣だ。

 他の魔獣を討伐しても、その分の報酬は上乗せされるらしい。


「でもこれEランククエストじゃないか。俺らは受けられないだろ?」

「僕は先生からの推薦を受けてね。特別にってことで」

「あ~」


 ダンジョンの地下二階層以下に潜る許可を貰ったり、何から何までクラウスは特別扱いだった。


 ——流石は平民科一年生首席だ。


 妬む気持ちも浮かばず、ひたすらに感心してしまった。


「依頼主って、町を治める貴族さん?」


 ハロウィーの疑問を受けて、俺は依頼書に視線を走らせた。


「いや、依頼主は町の住民一同ってあるな」


 きっと、報酬は住民たちで出し合うのだろう。

 地域住民の生活を脅かす魔獣退治のクエストとしては、一般的な形式だ。


「昨日、言っていただろ? 元貴族の自分が平民を助ければ、貴族のイメージアップになるんじゃないかって」

「え? ラビってそんなすごいことをかんがえていたの!?」


 口に手を当てて驚くハロウィーからの期待が胸に刺さった。


「いやいや、ちょっとそういうこともあるのかなって言ってみただけだよ。俺に世論を変えるだけの力なんてあるわけないだろ?」


 けど、と前置きをして、俺は依頼書を見つめ直した。


「元貴族の俺が町の人たちのために働けば、とりあえず、この町の人たちは俺を元貴族だからって嫌わないでくれるかもな。俺のため俺のため」


 わざとらしく自分のためを強調しながら、俺はお腹に抱き着くゴゴーをなでた。


「じゃあ受けてくれるかい?」

「俺はいいぞ。ハロウィーは?」

「わたしはいいけど、ラビは本当にそれでいいの?」


 彼女が言っているのは、貴族ウケが良くなるようなクエストでなくていいのか、という話だろう。


 俺以上に俺のことを考えてくれる、まさにお客様以上にお客様のことを考えてくれる優良店のような少女である。


「まぁな。Fランククエストで貴族からの依頼なんてないし、それに、町の問題を解決すればめぐりめぐって町を治める貴族の耳に入るだろうし、俺の評判も良くなるんじゃないか? というか、元から昇格できそうな魔獣退治クエストを探していたんだし」


「それもそうだね。うん、じゃあみんなで受けようか」


 そう言って、ハロウィーは腕の中のイチゴーをなでくりまわした。

 イチゴーの短すぎる足がぱたぱた動いた。

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