冒険者ギルド
翌日の放課後。
俺ら平民科一年生の一組から三組は学校を出て、王都の冒険者ギルドを訪れていた。
先生たちが扉を両手で左右に押し開けると、外とは違う喧騒が俺らを出迎えた。
そこは、いかにも冒険者ギルド然とした内装だった。
玄関ホールの床は石畳で、広々とした空間では武装した人々が立ち話をしたり、人探しでもするようにたむろしている。
団体客である俺らを目にすると場を空けてくれた。
彼ら彼女らの中には、荒事向けの無法者然とした人がいる一方で、整った鎧姿の騎士様風の姿もある。
戦争の無い昨今、騎士や修業中の戦士も冒険者としてダンジョンで名を上げお金を稼ぐのがトレンドだ。
軍人や衛兵でも、冒険者登録をして休日はダンジョンで小遣い稼ぎ、なんて人もいる。
——前に来た時も思ったけど、シュタイン領の冒険者ギルドとは規模が違うな。
流石は王都の冒険者ギルドというべきだろう。
三クラスの生徒は全員で一〇〇人以上もいるけれど、玄関ホールは広く、楽に入れた。
右手のコの字形の空間の壁は掲示板で、いくつものクエスト、仕事の依頼書が張り出されている。
あまり装備の良くない冒険者たちが、我先にと争うように群がっている。
きっと下級の冒険者で、割のいい仕事はないかと血眼になって探しているんだろう。
左手の広い空間は食堂で、木製の長テーブルと丸椅子が並び、修羅場をくぐり慣れていそうな人たちが、食事を摂りながら熱心に会議をしている。
酔っぱらっている人は、今日の仕事を終えた人たちだろう。
ウェイトレスの女の子が持ってきた木製コップの中身を呷るように飲み干したおじさんグループが、テーブルに銀貨を置いてから勢いよく立ち上がった。
彼らはこれから仕事に行くのだろう。
そしてホール正面奥の、王都らしい高級感漂う上質なウッドカウンターの向こう側では、美しい受付嬢が愛想よく微笑んでいた。
「お待ちしておりました。王立学園御一行様ですね」
「はい。今日は、うちの生徒たちがお世話になります」
先生たちはカウンター近くまで進むと、そこで踵を返して俺らを振り返った。
「では皆さん、これから貴方達には、冒険者登録をしてもらいます」
冒険者とは、ダンジョン攻略や魔獣討伐を中心に、報酬次第であらゆる危険な仕事を請け負う何でも屋だ。
ここはその冒険者たちを管理、統括する冒険者ギルド。
そして冒険者として登録できるのは一部の例外を除き、十五歳以上の人だけだ。
「いいですか。王立学園の生徒なら、高等部になれば学園内のダンジョンには入れますし、校舎裏の森で魔獣狩りもできます」
先生はみんなの注意を集めるように、顔の横で人差し指を鋭く立てた。
「ただし、冒険者ギルドに発注された依頼、クエストを受注するには冒険者登録が必要です。 卒業生の多くが冒険者になる貴方たちにとって、在学中から冒険者登録をし、クエストを受けて経験を積むのは大切な課外授業と言えます。くれぐれもハシャがないように」
特定の生徒に念を押すような含みのある言い方をしてから、先生たちは左右に分かれた。
「では、出席番号順に受付で登録を済ませてください。終わったら、今日のチーム分けをしてFランククエストを受注するように。それと、授業よりもクエスト優先ですが、授業に間に合わない時は欠席届を出すのを忘れないでください」
クエストの受注は互いの信頼関係の上に成り立つ取引だ。
学校の授業があるので放棄します、なんて論外だろう。
先生に言われるがまま、俺らは受付嬢の人たちの前に列、は作らず、わらわらと群がるようにして集まった。
正直、出席番号なんて誰も気にしていない。
けれど、先生たちは少し呆れるだけで、誰も注意しなかった。
最初から期待なんてしていないらしい。
——順番通り列に並ぶって、本当に日本人特有の習性なんだな……。
外国人曰く、日本の行列が珍しいらしい。
でも、それは異世界でも変わらないようだ。
登録を済ませると、冒険者証である金属製の板、ドッグタグのようなものをもらった。
一番下のFランク冒険者マークと、俺の名前が刻まれている。
「ラビ」
右手の掲示板スペースに足を運ぶと、紫陽花色のショートカットに、童顔の大きなタレ目が可愛らしい小柄な女の子、ハロウィーが人懐っこい笑みで待っていてくれた。
「見て、わたしも登録終わったよ」
嬉しそうにチェーン付きの冒険者証を見せるハロウィー。
彼女の夢が、冒険者になって実家を助けたいということだと思い出した。
「夢への一歩だな」
「うん♪」
明るくほにゃっと笑ってくれる。それだけで、「守りたい、この笑顔」という自衛隊の隊員募集フレーズが頭に浮かんだ。
周りの生徒たちは今日だけの仮チームを組む相手を探しているけど、俺はもう彼女と正式なチーム申請をしている。
だから、今日もハロウィーと組むのは決定事項だ。
「じゃ、どんなクエストを受けようか?」
「わたしはなんでもいいけど、選ぶのはラビじゃないの?」
不思議そうに小首をかしげるハロウィーに、俺も首をかしげ返した。
「なんでだ?」
一瞬、クラウスとのやりとりを思い出すも、それは杞憂だった。
「だってほら、ラビって貴族に戻りたいんだよね? じゃあ少しでも貴族の人たちの印象が良くなるようなクエストを受けた方がいいんじゃない?」
「あ~」
どうやら、ハロウィーは俺の目的を気にかけてくれたようだ。
本当に、どこまでも他人思いで奥ゆかしい子だと思う。
「あとラビ、今日はイチゴーちゃんたちいないの?」
頬を赤らめながら、内股でそわそわと体を揺らすハロウィー。
本当に、どこまでも欲望に忠実な子だと思う。
「整列している時にいたら邪魔者扱いされるからな、ほい」
ストレージスキルを起動させると、俺の足元に赤いポリゴンが生じた。
その中から、赤ちゃんくらいの身長しかない丸いゆるキャラみたいなのが、申し訳程度の短い足でちょこちょこ歩き出てきた。
イチゴーを見るなり、ハロウィーの顔がぱっと華やいだ。
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