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ダストンも起きる気配はなく、俺は息を吐いた。
それから、体にもたれてくるノエルの軽さに気づき驚いた。
ノエルは幼い頃から剣術で全身を鍛え込んでいるし、色々と発育も良い。
だから、失礼だけどもっと重たいと思っていた。
でも、肩に乗る頭は小さく、腕の中の首は人形のように細く、肩は華奢で、ウエストは頼りなかった。
本当に、ノエルは女の子なんだなと思う。
――こんな細いカラダで、あの剣裁きを。本当にすごいよ。自慢の幼馴染だ。
思わず、彼女を抱きしめる腕に力が入ってしまう。
「すまんラビ、油断した……」
「気にするなよ。それに助けたのは俺じゃない」
可憐でたおやかなノエルを腕の中に感じながら、俺は振り返った。
「ノエル様!」
人混みをかき分けて走ってきたのは、我らの名スナイパー、ハロウィーだった。
「だいじょうぶですか!?」
深刻そうな顔で詰め寄ってくるハロウィーに、ノエルは微笑を見せた。
「ああ。だいぶ良くなった。どうやら効果は短時間らしい。考えてもみれば、当てるだけで長時間無力化させるアイテムなど、奴らが持っているわけもない」
そりゃそうだ。
そんなチート兵器があれば、とっくに所有者が世界を牛耳っている。
さっきのはある程度消耗している人に対して、ほんの一時的に眩暈を起こさせる程度のものだろう。
「ありがとうハロウィー。貴君がいなければ危なかった」
「いえ、わたしはノエル様の領民ですから。助けるのは当然です!」
背筋を伸ばして姿勢を正すハロウィーに、ノエルはかぶりを振った。
「敬語はよしてくれ。私たちは同じ学園に通う同学年で、貴君は私の恩人だ」
「で、でも領主様のお嬢様相手にそんなこと……」
恐縮しきってしまうハロウィーに、ノエルは聖母のように微笑を浮かべた。
「私の友達になって欲しい。それとも、貴族の友達は嫌か?」
ノエルの温かい眼差しと声音に、ハロウィーの顔から緊張が抜けた。
「いいえ、ううん。友達になろう、ノエル♪」
二人の少女が笑みを交わし合い、両手を握り合った。
俺は、彼女たちの仲間であることが、心の底から誇らしかった。
「ところでラビ、あの人たちだいじょうぶなの?」
きっと、前回のことを思い出したのだろう。
ハロウィーは心配そうに男子たちに目線を向けた。
前は加減知らずに男子たちを痛めつけていたイチゴーたちは、ちゃんと顔への攻撃はほどほどに、首から下を重点的に攻撃していた。
死なないように、加減している。
――さっきの神託スキルもだけど、みんな学習して成長しているんだな。
まるで我が子の成長を感じる親の気分で、なんだか嬉しくなった。
あとでいっぱいなでまわしたい。
だけど、俺とは違い、たとえ命に別状が無くても敵が悪党でも慈愛の心を忘れない天使のような子がいた。
「みんな、そろそろやめてあげていいんじゃないかな?」
ハロウィーがイチゴーたち、もといギッタギタにされている最中の五人に歩み寄った。
「くそがぁあああああああ!」
男子の一人が、やせ我慢をしながら強引にイチゴーを振り払った。
それから、恩を仇で返すようにハロウィーへつかみ掛かる。
「え? え?」
「きっとオレらは退学にさせられるんだ! だったら道連れだ!」
男子が右手でハロウィーの首を抱えながらうしろに退いて、顔にナイフを添えた。
余った左手を頭上に掲げると、そこには炎石のように赤い水晶玉のような物が光っている。
「こいつはダストンさんから預かった爆炎玉だ。こいつを解放すれば、ハロウィーはただじゃ済まないぜ!」
「ッッ」
俺とノエルは固まった。
ゴーレムは全員こっち側にいる。
スピード特化のニゴーでも、男子が爆炎玉を解放するほうが早いだろう。
俺が苦悩していると、何も聞いていないのに、メッセージウィンドウが更新された。
『こっちもひとじちをとるー』
振り返ると、イチゴーたちは残る四人の男子たちの頭をつかみ、拳を構えていた。
「なら人質交換だ。こっちは四人、そっちは一人。十分だろ?」
ちょっと卑怯だけど、俺は正義の味方じゃない。
目には目を、歯には歯をだ。
けれど、男子は吐き捨てるように言った。
「けっ、そいつらのことなんて知るかよ! やりたきゃ好きにやれ!」
「なっ!?」
信じられない。
仮にも仲間を、簡単に見捨てた。
『けんさくちゅう』
イチゴーは、長考に入ってしまった。
俺も他の手を考えるも、すぐには思い浮かばなかった。
こうしている間にも、爆炎玉が解放されてしまうかもしれないのに。
その事実が焦りを生み、思考が空回りしてしまう。
すると、ハロウィーが意を決したように、けなげな声を張り上げた。
「ラビ、こんな奴の言うことは聞かないで! わたしは平気だから! 死ななければ、ラビのポーションですぐに治るもん!」
そんな問題じゃない。
あとで治るから傷ついてもいいなんて、俺は思いたくない。
「こんな時までイチャつくんじゃねぇ! いくぞ!」
爆発前の兆候であるかのように、爆炎玉が強く輝き始めた。
「キャッ!」
「やめろぉ!」
俺が体当たりをするように突進すると、男子は計画通りとばかりに黒く笑った。
「テメェが本命だよバーカ!」
男子はハロウィーから手を離すと、そのまま刃物の切っ先を俺に突き出してきた。
勢いのついた俺の体は今さら止まらない。
――くそ、間に合え!
何かに請い願いながら、腹にストレージのポリゴンを出現させる。
鋭利な切っ先が、皮膚を突き破り、肉に深く食い込んだ。
「いやぁああああああ!」
「ラビが刺された!?」
「ッッ」
腹に鋭い衝撃が奔った時、視界のメッセージウィンドウが更新された。それも、凄まじい勢いで。
『条件が達成されました』
『これより、イチゴーの■■■■システムを起動』
『デウ■・エ■■・マキ■稼働』
『■■■■コネクト完了』
『コード■■■■■■■■を始動します』




