全機出動!
上段から振り下ろされた渾身の一撃が、ダストンの暴風に喰らいついた。
金色の稲光は空気の中の通り道を通りジグザグに拡散してしまう。
が、同時に電気熱で空気は内側から瞬間的に膨張し、暴風の激流は四散した。
「なぁっ!? あぁっ!?」
風と雷が相殺。
残るのは、無防備なダストンと、ノエル会心の一撃だけだ。
鋼の斬撃が、ダストンの脳天を直撃。
兜が割れて、ダストンは脳震盪でも起こしたようにフラついて倒れた。
「安心しろ。打ちどころは弁えた。誰か医務室に連れていってやれ」
ノエルは品格に溢れた立ち振る舞いで踵を返し、俺に向き直った。
視線の先で、彼女は目元を緩めて、柔和な笑みを浮かべてくれた。
「ラビ、勝ったぞ」
その笑顔があまりにも可愛くて、綺麗過ぎて、思わず心を惹かれた。
本当に、心底魅力的な子だと思う。
その彼女の頭に、何かが投げつけられた。
「クッ!?」
「ノエル!?」
小さなボール状の物はノエルに当たると破裂して、中から黒い煙が広がった。
煙はすぐにノエルを包み込み、姿を隠してしまう。
煙玉かと思うも、彼女が咳き込むと黒煙はすぐに晴れた。
どうやら、煙幕の類ではないらしい。
けれど、途端にノエルは膝から力が抜けたように体がグラついた。
「よし! 作戦通りだ!」
舎弟の男子たちが駆け寄り、ノエルを抱えた。
「ノエルから離れろ!」
走り出していた俺を睨みながら、男子の一人が叫んだ。
「動くな! こいつの顔に深い傷が刻まれることになるぜ!」
「ぐっ」
思わず、俺は足を止めてしまった。
俺のポーションなら、たいていの傷は完治する。
けれど、傷跡が残らない保証は無い。
それに、一時的にでもノエルの顔に傷をつけられたくなかった。
「よし、おりこうだな。悪いけどこっちも引き下がれないんでね!」
「そこでおとなしくしていたら顔は無事で返してやるよ」
「仲間を使っちゃいけないなんて言ってないからなぁ!」
「これも作戦の内だぜ!」
「証人はみんなオレらと同じ平民だ。口裏合わせは頼んだぞ!」
さっき投げつけられたのは、体を麻痺させる毒か、弱体化効果を持つ魔法が込められた、いわゆるデバフアイテムだったに違いない。
俺は自分の愚かしさを恥じた。
肉体強化のバフアイテムを用意しているなら、その反対もあってしかるべきだ。
万が一の時は、これでノエルを袋叩きにしろ。
そんな風に言われていたに違いない。
「いいかお前ら。ダストンさんが貴族に勝った。そう言って人を集めろ!」
「それから回復魔法を使える奴はダストンさんを回復させろ!」
「その間にオレらでこいつをてきとうに痛めつけるぞ」
俺は反射的に叫んでいた。
「おいやめろ。お前らの声は全部ゴーレムに記録されているんだぞ。何をやっても無駄だ!」
「うるせぇ! だったらゴーレムが記録しているオレたちの声を消せ! お前ならできるんだろ!?」
――それが狙いか。
目の前で、着々とノエルに危機が迫っている。
なのに俺は何もできず、歯噛みをした。
――イチゴー、どうやったらノエルを助けられる?
『むりー』
――そううまくはいかないか。
つい、気持ちが焦って俺の足が反応してしまう。
それを目ざとく気づいた男子が声を張り上げた。
「動くなって言ってるだろ! こいつの目を潰すぞ!」
「いくら貴族と言っても片目じゃ嫁の貰い手がねぇだろうなぁ!」
「ぐっ……」
俺が苦悩していると、ノエルが虚ろな瞳を開けた。
「ラビ……」
「ノエル!」
朦朧とする意識を必死に手放すまいとするように震えながら、彼女は声を振り絞った。
「……貴君なら、眼帯姿の私でも嫁にもらってくれるか?」
その言葉と表情に、俺は万感の思いを感じた。
俺に向けられた最大限の信頼、絆、情。
ノエルは、家同士のつながりなんて関係ない。
本当に、俺を大切に思ってくれているんだ。
――どうすればいい。どうすればノエルを助けられるんだ!?
俺が握り拳を震わせ目をつぶろうとすると、メッセージウィンドウが更新された。
『しゃがんでー』
意味がわからないまま、俺はその場で素早く膝を折った。
「頼む! ノエルを傷つけないでくれ! 代わりに俺を好きにしろ!」
「おうおうカッコイイなぁ。正義の味方気取り――」
ノエルに剣を突きつける男子の言葉は最後まで続かなかった。
一筋の射撃が男子の腕を貫き、その手から剣が落ちた。
「ぎゃぁあああああああああああああああああああ!」
汚い悲鳴を上げて男子が地面に転がった。
仲間の惨状に他の男子が気を取られる。
その隙を見逃さず、ノエルは歯を食いしばり、フラつく足で跳び出した。
「ラビ!」
「ノエル!」
伸ばされた彼女の手を取り、俺は強く引き寄せた。
力なく俺に倒れ込み、足の甲を地面につけて、全体重を預けてくれるノエル。
ノエルの華奢な体が、腕の中に収まった。
それだけで、何物にも代えがたい安堵感で胸がいっぱいになった。
「テメェ!」
男子たちが武器を振り上げ、鬼の形相で追いかけてくる。
だけど、俺は少しも慌てなかった。
「全員出動!」
『しゅつどー』
『ぎょい』
『いくのだー』
『ヨンゴー、いっきまーすっす』
『ゴゴーのでばんなのです!』
五人に搭載した魔力バッテリーが起動。
五人の運動性能が跳ね上がった。
イチゴーたちの目が光り輝き、内部から凄まじい熱量と出力を感じる。
イチゴーとニゴーとサンゴーとゴゴーの四人が、男子たちにロケット頭突きをかました。
余ったヨンゴーは、腕を貫かれ地面を転がる男子に低空飛行で頭突きをした。
五人は体をくの字に折って絶叫する。
そこからは先日の再現だった。
イチゴーたちが五人をフルボッコのメッタ打ちにして、ひたすら男子たちの汚い悲鳴が溢れかえっていく。
ダストンも起きる気配はなく、俺は息を吐いた。
それから、体にもたれてくるノエルの軽さに気づき驚いた。
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タチコマってかわいいと思いませんか?攻殻機動隊という作品のロボです。
乗り物でもあります。タチコマに乗って走ったら気分が良さそうです。
ただし中に乗り込むのではなくあえて背中に乗って風を感じたい。
子犬サイズのタチコマが隣を歩いてAIコンシェルジュ機能もいいですね。




