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目が覚めたよ

「破ぁああああああああああああ!」


 裂ぱくの気合いと同時に振り上げられたサーベルが、紅蓮の業火をまといながらダストンを直撃した。


 ダストンは腕を下げ、籠手で守るも、その巨体は爆炎に吹き飛ばされてしまう。


「ぐっ、がっ……」


 ノエルの猛攻は止まらない。

 ダストンが地面に着地する前に、もう距離を詰めている。

 続く剣撃の嵐に、ダストンは防戦一方だった。


 サーベルの剣身を防ぎきれず、一本、また一本と鎧の隙間に切り傷を刻まれていく。


 そこに、さっきまでの威圧感は無い。


 一方で、赤く(かがや)く炎をまといながら戦うノエルは美しく、まるで戦乙女のように気高く見えた。


「ふざ、けるな! オレはいまバフポーションでスピードを上げているんだぞ!? レベルだってオレのほうが上のはずだ! なのに! なのに何で!?」


 狼狽するダストンに、ノエルはさらに剣筋を加速させながら語った。


「生憎と支援アイテムならば私のほうが遥かに上だ! そして私とラビの友情の前には、レベル差など関係ない!」


 鋭いサーベルがダストンのロングソードの根元を捉え、宙に弧を描いた。

 巻き取られたロングソードはダストンの手を離れ、空中に飛び上がる。

 互いの力量差が開いていなければ起きない現象だ。


「なぁっ!?」


 くるくると無防備に回転しながら、剣は地面に突き刺さった。


「貴君の負けだ? 降伏しろ」


 サーベルの切っ先を突きつけ、ノエルは鋭い声で降伏勧告をした。

 誰の目から見ても勝敗は明白。

 だがダストンは強張った顔でニヤリと笑った。


「とどめを刺さない。やっぱりテメェは女らしく男に媚び売ってるのがお似合いだよ!」


 ダストンが拳を振り上げた。


「愚か者が!」


 刹那の斬撃が、灼熱の炎の軌跡を描きながらダストンに閃いた。

 紅蓮が爆ぜた。

 吹き上がる旋風に、ノエルが大きく後退した。


「ノエル様!?」


 ハロウィーが驚愕の悲鳴を上げた。


 ――嘘だろ!? 一体何が?


『かぜのけっかいー』


 メッセージウィンドウで、イチゴーが教えてくれた。

 まだ神託スキルを使っていないのにだ。


 ――俺が欲しがりそうな答えを学習しているのか?


「ッッ、貴君のスキルか?」


 曲げていた膝を伸ばし、ノエルはサーベルを構え直した。


「ご名答。暴風の結界だ。言ってなかったか? オレのスキルはこんな使い方もできるんだぜ。もう、テメェの炎は効かねぇよ!」


「ッ! 破ッ!」


 横薙ぎの一撃と同時に、炎の斬撃が放たれた。


 赤い三日月のような火炎がダストンに迫り、そして渦巻く暴風の結界に阻まれ、雲散霧消する。


「風と炎、相性は最悪みたいだな?」

「くっ!」


 悔しそうに、ノエルは歯を食いしばった。


 ――俺のミスだ。


 ストレージの中の魔法石で、一番品質がいいのが、あの炎石だった。

 属性の相性を考えず、単純に一番威力の高い物を選んだ自分を恨む。

 風魔法を攻略する方法は何かなかったか、俺は必死に思い出そうとする。

 けれど、慌てているせいか、すぐには思い出せなかった。


 ――早くしろ、早く思い出せ。でないとノエルが。


 ダストンが一歩ずつノエルに迫り、彼女は攻めあぐね、じりじりと後退していく。

 そこへ、メッセージウィンドウが更新された。


『かぜはかみなりによわいよー』


 俺は馬鹿だ。

 こんな時のための神託スキルじゃないか。

 でも、駄目な主に代わって、イチゴーが気を利かせてくれた。


 ――ありがとうイチゴー。おかげでノエルを救える!


 再構築スキルを発動。


 ダンジョン探索初日、イチゴーたちが地下二階層で見つけた隠しアイテムを、俺の曲がった剣に配合して、再構築した。


 俺の手元から展開した青いポリゴンを投げ飛ばす。


「ノエル! 受け取れ!」

「ラビ!?」


 弧を描いて落ちてくる青いポリゴンに、ノエルが飛びついた。

 それを見咎めたダストンが慌てた。


「させるかぁ!」


 起死回生のアイテムを取らせまいと真空の刃を放つも、タッチの差でノエルが速かった。


 ノエルは消えゆくポリゴンから剣を手に取った。

 真空の刃は、ノエルの金髪をかすめ、数本切るにとどまる。


「くそっ!」

「これは……」


 ノエルが目を見張るその剣にはめ込まれたのは黄色く光る雷石だ。

 所有者の魔力に呼応して、雷の魔法を生み出してくれる。

 雷光石火の騎士、ノエル・エスパーダにぴったりの剣だ。


「ありがとうラビ、これさえあれば百人力だ!」

「ぐっ、その色はまさか!?」


 見た目だけで剣の性能を看破したらしい。

 風魔法が不利と見るや、ダストンは落ちた自分の剣を回収するために走った。

 けれど、それを許してやるほどの甘さは、ノエルに残っていない。


「喝っ!」


 雷光石火の踏み込みで、ダストンとの距離を踏み潰す。

 自身を守るすべの無いダストンは、苦し紛れに暴風の結界を展開するしかない。

 ノエルの剣が、雷鳴を轟かせ、金色の光をスパークさせた。


「でりゃぁあああああああああああああああああああああああああああ!」


 上段から振り下ろされた渾身の一撃が、ダストンの暴風に喰らいついた。

 金色の稲光は空気の中の通り道を通りジグザグに拡散してしまう。

 が、同時に電気熱で空気は内側から瞬間的に膨張し、暴風の激流は四散した。


「なぁっ!? あぁっ!?」

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