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決闘

「やった、ノエル様勝てるよね、ラビ?」

「ああ、そうだな」


 はしゃぐハロウィーとは違い、俺はどうにも引っかかる。


 ――みんなの反応を見る限り、あのダストンて、二年生の中でも相当強いはずだよな?


 そんな奴が、このまま負けるのかと、俺は警戒してしまう。

 特に、舎弟の男子五人がほくそ笑んでいるのが不気味だ。


「どうした? 降参するなら今のうちだぞ?」

「降参? 冗談言うなよ。オレは今、テメェの攻略方法がわかったところなんだぜ」

「攻略方法か。それは面白い。この私に、どんな弱点があると言うのだ?」


 ノエルも意趣返しのように、挑発的な態度で剣を構えた。


「簡単なことだ。テメェの武器を封じるだけだよ」


 邪悪な笑みを浮かべるダストンを睨みつけ、ノエルは前傾姿勢に構えた。


「ほざけっ!」


 ノエルが叫ぶと同時に、舎弟の一人がダストンに何かを投げた。

 ダストンはそれを受け取ると、呷るように飲み干した。


 直後、ノエルが駆けた。


 今まで以上の超高速の踏み込みと斬撃の閃きは、だけど空振った。

 ダストンはノエルの剣を鋭く避けて、彼女のサイドを取っていた。


「もらったぁ!」


 ダストンのロングソードが、ノエルの額当てを直撃した。


「ガッ!?」


 ノエルの体が吹き飛び、地面を転がった。


「ノエル!」

「ノエル様!」


 仰向けに倒れたノエルの額当てはひびが入り、流れ落ちた血がこめかみを濡らした。


「だ、大丈夫だ……しかし……」


 ノエルが睨みつけた先で、ダストンは得意げだった。


「一時的に能力を底上げする、いわゆるバフアイテムだ。テメェの武器がスピードなら、スピードでオレが上回ればいいだけの話だよなぁ!」


 バフポーションは、再構築スキルで作れる物の一覧にもあった。

 値は張るが、金を積めば誰でも買える。

ダストンが持っていてもおかしくはない。

 だけど……。


「決闘でアイテムを使うなど恥を知れ! 貴様の反則負けだ!」

「おいおいみんな聞いたかよ? 反則負けだとよ!? いかにも貴族のお嬢様らしい戯言だよなぁ?」

「なんだと?」


 周囲へ同意を求めるように笑うダストンに、ノエルは顔をしかめた。


「考えてもみろよ。ダンジョンで魔獣がルールなんて守ってくれるのか? 戦場で敵がフェアプレーしてくれるのか? 戦いが有利になるようにアイテム使うなんて当然じゃねぇか!」


「愚か者め! ここはダンジョンでも戦場でもない! 戯言は貴様のほうだ!」

「言葉遊びに付き合うつもりはねぇよ! テメェがオレの前に屈しているのは事実じゃねぇか!」


 周囲の生徒たちも、そうだそうだとはやし立てる。

 何もできないことが悔しくて俺が奥歯を噛みしめると、ノエルはサーベルを杖に立ち上がった。


「そうか、ならば続けよう」


 厳かに告げて、ノエルは額当てを外した。

 溢れる血が眉間を通り過ぎて目がしらの横を通り、唇を赤く濡らした。


 額当てが地面に落ちると、続けてノエルは胸当て、腕を守る籠手を、脛を守るレガートを、何の未練もなく外し、地面に投げ捨てた。


 一切の鎧をまとわぬ制服姿に、生徒たちはどよめいた。


「うむ、身軽になった。これで、さっきの倍は速く動けそうだ」

「ならやってみろよ。いやぁ、むしろ遅くなるんじゃねぇの? 胸当てが無かったらその爆乳が揺れてまともに動けないだろうからなぁ!」


 ダストンに合わせて舎弟の男子たちも有頂天になって、卑猥な言葉を投げかけてくる。


 ダストンたちは、女子へのダーティープレイを理解していた。

 セクハラ発言でノエルの心を乱すのが目的だろう。


 品性下劣だけど、これは効く。

 だけど、覚悟を決めたノエルに、今更そんな手段は通じない。


「フゥぅ……」


 息を吐き肺を空っぽにしてから、ノエルは大きく息を吸い込んだ。

 呼吸、視線、構えには、一点の揺らぎも無い。


 まるで、世界が見えていないように。


 自分とダストンを除き、何も無い虚空に閉じ込められているかのように、ノエルは周囲の雑音に無反応だった。


「破ッ!」


 ノエルの足元が爆ぜた。


 速い。


 ノエルは電光石火を超え、一筋の光のように、()光石化の早業でダストンに迫った。


 超高速の突きは、まっすぐダストンの腹部を狙っていた。

 今からではダストンの剣は間に合わない。


 勝つ。


 ノエルの勝ちだ。

 俺はそう確信するも、ダストンの表情は崩れなかった。

 鋭い破裂音と同時に、烈風が吹き抜けた。


「うぁぁっ!」


 ノエルが悲鳴を上げて、吹き飛んだ。

 俺とハロウィーは彼女の名前を呼び叫んだ。

 彼女の細い体は俺らの足元まで転がり、自らの血で地面を赤く染めた。


「そんな、ノエル様!」

「あの野郎!」


 ノエルの全身に刻まれた切り傷。破裂音。吹き荒れた烈風。

 それに確かに感じた、魔力の波長。

 それが意味するものは、誰の目から見ても明らかだった。


「ダストン、お前、風魔法を使っただろ!?」


 怒りに任せて怒鳴るも、ダストンはどこ吹く風だ。


「使ったぜぇ。オレ様のスキルは風魔法だからな。真空の刃を全身にまとい、好きに飛ばせる。オレ様自慢の風刃結界よ!」


 自慢げに笑うダストンを、舎弟の五人も賞賛した。

 こめかみがカッと熱くなり、俺は握り拳を震わせた。


「いい加減にしろ! 騎士らしく剣で決着をつけるってお前が言ったんだぞ!」

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― 新着の感想 ―
騎士らしくったって相手は騎士じゃないんだから最初から『騎士殺し』の策略だよ こっちがサポートしても文句無いって事さ(ノエルが受けるかどうかは兎も角)
[一言] 強いて言うなら、そんな姑息な手を使わないと勝てないって言ってるようなもんだよな? これが二年生ねぇ…幼稚園児からやり直したらいいんじゃねーかな? ましてや、自分が言った事も守れないような…
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