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セクシャルハラスメント

 それを好機と見たのか、ダストンは下卑た動きで挑発してきた。


「スイカでも入ってんのか? んなデカイもん揺らして剣が振れるのかよ騎士様?」


 ダストンの尻馬に乗って、背後の男子たちも腹を抱えて笑った。

 男子たちの嘲笑に、ノエルは手をわなわなと震わせ、言葉を失った。


「なぁっ、なぁっ……ッッ~~~~」


 いつの間にか、周囲には人が集まり俺らは注目の的だった。

 周囲の突き刺すような男子たちの視線から逃れるように、ノエルは一歩退いてしまう。


 完全に、ダストンのペースだった。


「ノエルもういい。ありがとう」


 俺がノエルの肩を抱いて引き下がろうとすると、ノエルは少しの抵抗で、俺についてきてくれる。


「ノエル様」


 ハロウィーも気を使って、ノエルの手を引いた。本当に優しい子だ。

 なのに、それを見逃すまいと、ダストンは声を張り上げた。


「おいおい貴族のご令嬢が平民の男に抱かれて逃げていくぜぇ!」


 その一言で、ノエルの脚が止まった。


「ノエル、あんな馬鹿にかまうな。行こう」

「…………ッ」


 けれど、彼女の脚は動かなかった。


「悔しかったら決闘でもするか? 騎士らしく剣で決着をつけようじゃねぇか。まさか貴族様が平民相手に逃げるなんてみっともないマネしないよなぁ? それとも平民に負けたら恥ずかしいから逃げたほうがましか!? だよなぁ!? 騎士だの貴族だの言っても所詮は女だもんなぁ! 結婚したら剣置いて旦那に股開いてガキ産むだけのなんちゃって騎士様だもんなぁ! 男の貴族が領地の繁栄のためにダンジョン攻略したり魔獣と戦っている間、お前は子供に絵本を読み聞かせるのがお似合いだよなぁ! なぁなぁなぁ!?」


 畳みかけるようなダストンの挑発に、ノエルは再び背筋を伸ばし、顔を上げた。


「すまないラビ、ハロウィー、貴君たちの気遣いには感謝するが」


 俺の手を離れ、ノエルは声を尖らせた。


「騎士と貴族の誇りに賭けて、あの下郎だけは断じて許せん!」


 腰から愛用のサーベルを抜き放ったノエルの瞳は灼熱の戦意に燃え上がり、声には一切の揺るぎが無かった。

 その姿は救国の乙女のように麗しく頼もしいも、相手は二年生。

 それも、かなり腕が立つのがわかる。


「気持ちは嬉しいけど、あいつは口先だけじゃないぞ」

「貴君こそ、私の実力を忘れたのか?」


 ノエルは雄々しい、戦色の笑みを浮かべた。


「私はイチゴーたちとの戦いで、実力の半分も出してはいない」


 彼女の全身から立ち昇る熱気と怒りに、俺は息を呑み固まった。


   ◆


 正式な決闘ということで、時間は三〇分後。


 互いに完全武装してということになった。


 ノエルは制服の上から、ダンジョンに潜る時の軽装鎧を身にまとい、右手には愛用のサーベルを握り、訓練場に戻った。


 対するダストン側も、ガタイに似合わず軽装鎧に普通のロングソードで戻ってきた。


 訓練場には平民を中心に、一〇〇人以上の生徒が集まり、二人を取り囲むように大きな輪を作っている。


 まるで見世物だ。


「逃げずによく来たな貴族様。ご褒美に顔は攻撃しないでやるぜ。決闘後の楽しみが無くなっちまうからなぁ」

「安い挑発だな。貴君こそ、負けた時の言い訳をするなよ。ハンデをつけてやったからだと」


 語気は冷たく、だけど語調は熱い。

 ノエルの挑発に、だけどダストンも冷静さを失わなかった。


「つい先月まで中等部だったガキが生意気言うんじゃねぇよ。開始の合図はいらねぇ。テメェがそこから動いた時がテメェの最後だ」


 どこまでも人を馬鹿にした態度。

 ダストンの嗜虐性はとどまる所を知らなかった。

 けれど、ノエルの闘争心もまた、無限だった。


「初手は譲る、というわけか。覚えておくがいい。貴君の敗因は、その愚かしさだ」


 電光石火の踏み込みでノエルが加速した。

ニゴーの時の倍は速い。

まさに、瞬く間に、という速度だった。


 ノエルが放った高速の斬撃。


 それを、ダストンはバックステップで相対速度を落としながらロングソードでガードした。


「オッ?」


 ダストンはガードに成功したはずだった。

 だけど、ノエルが通り過ぎた時、鎧が無いダストンの二の腕に血が滲んだ。


「単純なレベルなら、二年生の貴君に分があるだろう。だが、レベル差だけで埋められるほど、私の鍛え方は甘くはないぞ」

観客の平民科生徒たちがざわついた。


「ちっ、なんだよ結局貴族が勝つのかよ」

「しっかりやれよ!」


 平民科の生徒たちは、貴族科の生徒であるノエルの敗北を望んでいるらしい。

 一方で、ノエルを見直す声もある。


「おい、ダストンが押されているぞ?」

「あの一年生、凄いんじゃないか?」

「いくら貴族でも、あのダストンに勝てる奴なんてそうはいないぞ」


 レベルが上がれば、身体能力や魔力が上がる。


 だけど、人はレベルを上げなくても肉体鍛錬で身体能力を上げられるし、貴族の子供は幼い頃から剣術を叩き込まれている。


 そのため、基本的に平民科生徒よりも貴族科生徒のほうが強い傾向がある。


 特に、ノエルは厳しい剣術修業に明け暮れていた。


 同じ柔道家でも、肉体の充実した若い選手が、老練な達人に勝てないのと理屈は同じだ。


「やった、ノエル様勝てるよね、ラビ?」

「ああ、そうだな」


 はしゃぐハロウィーとは違い、俺はどうにも引っかかる。


 ――みんなの反応を見る限り、あのダストンて、二年生の中でも相当強いはずだよな?


 そんな奴が、このまま負けるのかと、俺は警戒してしまう。

 特に、舎弟の男子五人がほくそ笑んでいるのが不気味だ。


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