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幼馴染の女騎士

 ラビたちが地下五階層を攻略した翌日。

 ノエルは学園の屋外広場で、学園新聞を目に愕然としていた。


「平民科一年生、クラウス、ハロウィー、ラビの三人が地下五階層で隠しボス、コマンダーメイル、レベル二〇を討伐……」


 それは平民科の新聞部が配布したもので、クラウスの活躍が大きく取り上げられている。


 何も知らない人が読めば、クラウスが中心になってコマンダーメイルを討伐したと思うだろう。


 けれど、ラビが討伐に貢献したこともしっかりと書かれている。


「ッ」


 それに、広場の掲示板へ振り返れば、多くの生徒が群がりお祭り騒ぎだった。


「すげぇなマジかよクラウスの奴!」

「コマンダーメイルとか三年生でも勝てる人そういないよ!」

「やっぱりオレたちとはモノが違うよなぁ!」

「最強の一年生トリオだな」

「この三人てもうチーム組んでいるのか?」

「そうなんじゃねぇの? 普通に考えて」

「卒業した後もこの三人で冒険者になるのか? オレ、チームに入れないかな?」

「お前じゃ釣り合わねぇよ」

「こういう人が将来、Sランク冒険者になるんだろうなぁ」

「そりゃSランク冒険者とか勇者英雄って呼ばれる人は学生時代から逸話があるしね」

「どうしよう。三人がSランク冒険者になったら、アタシたちその同級生ってことだよね?」

「貴族科にこんな生徒いねぇよな。なんかざまぁって感じ」


 学園に関係なく、平民科生徒の誰も彼もがラビたちを讃え、賞賛し、最強の三人組として祭り上げていた。


 それは彼らの勝手な評価だが、いずれ現実のものとなるだろう。


「~~~~…………」


 学園新聞を握りしめながら、ノエルは自身の思い上がりを恥じた。


 ラビが実家を追放され、平民科に落とされたと聞いた時、ノエルは自分がラビを助けなければと考えた。


 貴族籍を剥奪されて落ち込んでいるに違いない。


 知り合いのいない平民科で寂しい想いをしているに違いない。


 平民科の生徒からいじめられて辛いに違いない。


 自分勝手にラビのことを憐れみ、自分が救うのだと意気込み、暇さえあれば計画を練った。


 だが、ラビは平民科で男友達のクラウスと女友達――恋仲だとは思いたくない――ハロウィーと一緒に楽しく平民科になじんでいる。


 ラビは、自分なんかの助けなんていらなかった。

 全ては自分の妄想。

 だけど自身の胸に去来したのは、安心ではなく落胆だった。


「私は……ラビの不幸を願っていたのか……」


 最初に抱いた感情に、自身の本心に気づいてしまった。

 ラビが不幸なら、そこにつけ込める。


 自分が助けてあげれば、きっとラビは感謝して自分の側にいてくれる。

 そんな汚らわしい下心があったのではないか。


 愛する人の心を手に入れるために、不幸を願う。

 騎士道はおろか、人の道からも外れた外道に、ノエルは歯噛みした。


「私はなんとあさましいのだ……」


 そんな自分が嫌で、ノエルは泣きたいのを我慢しながらその場を去った。


   ◆


「昨日の戦利品で、ニゴーからゴゴーまで全員に魔石を装備させたぞ」


 放課後の学内カフェで、俺は意気揚々とハロウィーに報告した。


 床では、イチゴーたちが、むふんと誇らしげに胸、のつもりでお腹を突き出している。かわいい。


「わー、おめでとう」


 笑顔で手を合わせて、ハロウィーはちっちゃく拍手をしてくれた。

 主力の五人プラス二人が全員魔石装備。

 これで、この五人は一時的に性能を強化できる。


「それから、各フロアのボス魔獣の素材から、スペックに個性をつけてみた」

「個性?」


 イチゴーたちから視線を上げたハロウィーに、俺はちょっと得意げに説明した。


「ああ。イチゴーにはコマンダーメイルの素材を配合して魔法耐性を大幅に強化」

『まほうなんてきかないのー』


「ニゴーにはオオヒクイドリの素材を配合してスピードを大幅に強化」

『われにおいつくてきはなし』

「サンゴーにはリザードマンの素材を配合して防御力を大幅に強化」

『みんなをまもるのだー』


「ヨンゴーにはトレントの素材を配合してパワーを大幅に強化」

『じゅうまんばりきっす。うそっす』


「ゴゴーにはワーラットメイジの素材で探知能力に特化させてみた」

「へぇ、みんなすごいねー」


 ハロウィーが五人の頭をそれぞれなでると、みんなぴょこぴょこ跳ね始めた。ハロウィーにだいぶなついていると見える。良いことだ。


「でもゴゴーちゃんがいないよ?」

「あー、ゴゴーは森に行ってるんだよ」

おかげで、今日も今日とてリザルト画面が止まらない。

「みんな働き者だね」

「おかげで楽をしています」


 黙っているだけで経験値と素材が溜まる。

 まさに放置ゲーである。


「ん? あれってノエル様じゃない?」

「え?」


 ハロウィーの視線を追うと、観葉植物の陰から長い金髪を垂らしてこちらを見つめる美人が目に入った。


 俺を見るなり、ノエルは肩を跳ね上げ踵を返した。

 周囲の男子たちの視線が少し落ちて左右に揺れた。


「ノエル様ー」


 ハロウィーの呼びかけを無視して、ノエルはその場を立ち去ろうとする。

 が、スピードアップしたニゴーがすでに回り込んでいた。


「ふわっ!?」

『ますたーにごようか?』

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