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クラスメイト驚愕

 真カースメイルとクラウスが十メートル以上離れたところで、俺とすれ違った。


 ――よし、射程に入った!


 直後、俺はストレージスキルと同時に、再構築スキルを発動させた。


 作るのはどこまでも単純な壁、土石の塊。


 縦横七メートル、厚み四メートルの壁を、真カースメイルに倒れ込む角度で生成した。


 巨大な青いポリゴンから、巨大な壁、むしろサイコロが、真カースメイル目掛けて倒れ込む。


 歪んだ膝、足にまとわりつくイチゴーたち。その場からの素早い離脱など望むべくもない新カースメイルが取れる行動は一つだけ。


「■■■■■■■■■■」


 壁に対する斬撃の応酬。

 だけど無駄だ。

 斬れ味は関係ない。

 壁の厚みは四メートル。

 剣身全てを使っても切れ込みを入れるだけだ。


「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッッッッ!!!!」


 大岩が金属をひしゃげ潰すような、不気味な音を響かせながら、壁はその身を横たえた。


 ドーン、という重低音の衝撃がボス部屋を駆け抜け、心臓の奥に鈍く伝わるのを感じた。


「ッッ、みんな!」


 両手で耳を塞ぎながら、目をしぼったハロウィーが悲鳴を上げた。

 一方で、俺は歯を見せて笑った。


「大丈夫だよ。みんなは俺のゴーレムだ」


 心配するハロウィーの目の前で、床にストレージの赤いポリゴンを展開させた。

 中からイチゴー、ニゴー、サンゴー、ヨンゴー、ゴゴーがコロコロと転がり出てきた。


『ただいまー』

『きかん』

『かえったのだー』

『あやうくつぶされるところだったっす』

『ドキドキしたのです』

「みんなぁっ!」


 ハロウィーは目を潤ませ、イチゴーたちに抱き着いた。


「うぅ、よかったぁー」

「まさか、あんな方法でカースメイルを打ち破るなんてね。恐れ入ったよ」


 剣を腰の鞘に収めながら、クラウスはやや興奮気味に感心した。


「賭けだったけどな。あいつが斬撃を飛ばせるタイプだったら詰みだったよ。それより剣を収めていいのか?」

「大丈夫だよラビ。あいつはもう」


 クラウスが視線を向けると、イチゴーたちが勝利のダンスを踊り始めた。

直後、俺の前にリザルト画面が現れた。


「あ、わたしレベル上がったみたい」

「僕も、これで十六レベルだ」


 俺も、十三レベルに上がっていた。

 けど、今すぐゴーレムを増やす気は無い。

 これ以上ゴーレムを増やしても、把握が難しいし、俺の魔力量の問題もある。

 それに今は、ひたすらに安堵の気持ちで頭がいっぱいだった。


「終わったぁ」


 気が抜けて、情けない言葉が漏れた。

 ハロウィーを守れた安心、命拾いした喜び、圧倒的格上に勝てた達成感。

 色々な感情が一斉に湧き上がって、腰砕けになってしまった。


「ありがとう。ラビのおかげで助かったよ」


 俺が床に腰を下ろすと、ハロウィーが労ってくれる。


「悔しいけど本当だよ。平民科首席、なんて言われているけど、僕一人の力じゃカースメイルには勝てなかった。むしろ、あんな方法があるなら、ラビ一人でも勝てたんじゃないかい?」


「おだてるなよ。ハロウィーとクラウスの掩護が無いと無理だって。それに、こんな危ない橋を渡るのはもうごめんだ」


 異世界転生して初めて体験した生死の境。


 正直、冒険者ではなく商人として金儲けをしながら貴族復帰を目指したくなってくる。


 だけど同時に、強敵相手に勝利した高揚感は、悪くなかった。


「じゃあ帰ろうかラビ。これだけの戦果を挙げたんだ。みんなだって、君らのことを見直すだろうさ」

「もしかしてお前、それが狙いで俺を誘ったのか?」

「そこまで善人じゃないよ。僕は僕の都合と利益で動いただけさ」


 そう言ってクラウスが俺に手を差し出すと、慌ててハロウィーも俺に手を差し出した。


 床に座り込んだ俺は二人の厚意に甘えて、両手を伸ばした。


 二人に手を引かれて立ち上がった時の気分は、前世でも感じたことがないほどに心地よかった。


   ◆


『地下五階層の隠しボスを倒したぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?』


 上に戻った俺らを待っていたのは、生徒たちと先生たちの絶叫だった。


「うん。これがその証明。ラビ」


 クラウスに促されるまま、俺はストレージに入れた真カースメイルの素材を見せた。


 ひしゃげてはいるが、鎧の造形は明らかに普通のカースメイルとは違う。

 先生の一人が眼鏡の位置を直しながら、声をうわずらせた。


「これはコマンダーメイル……確かに地下五階層の隠しボスで、地下二〇階層の奥に生息する魔獣です。一年生の勝てる相手ではないですよ……」


 コマンダーメイル、それが正式名称らしい。


「さ、さすがはクラウス君だよねぇー」

「そうそう。やっぱクラウスはちがうよなぁ」


 生徒たちの見え透いたおだてに、クラウスは手を横に振った。


「違うよ。確かに僕も一緒に戦ったけど、コマンダーメイルを仕留めたのは」


 クラウスの腕が、俺の腕を取り引いた。


「ラビの力だよ。だから素材も彼のものだ」


 みんなが顔をこわばらせてから一秒後。


『はぁああああああああああああああああああああああっ!?』


 本日二度目の絶叫がこだました。

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