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よし、射程に入った!

 ハロウィーだけでも逃がさないと。

 そう思って首を回すと、彼女は俺を見ていなかった。

 彼女の視線の先にあるもの、それは。


「シッ」


 空手の息吹のように短く息を吐いたハロウィーの手から、弾丸のようにして矢が放たれた。


 圧縮された魔力を帯びた、閃くような刹那の射撃を、だが真カースメイルは己の射程圏に入ると同時に斬り払った。


「正面からじゃダメみたい。どうするラビ? なんとかあいつの隙を作らないと」


 闘志に燃えた瞳で俺を見上げながら意見を仰いでくるハロウィー。

 彼女からは、少しの絶望も感じなかった。

 そして彼女は小声で何かを呟いていた。


「思い出してわたし。家畜を狙ったレッドハウンドが家に来た日のことを! 畑の作物を狙ったオオキバジカが来た日のことを!」


 ――頼りになるな。


 俺はどこかで、ハロウィーのことをヒロイン扱いしていたんだと思う。


 クラスメイトにいじめられて一人ぼっちの彼女を俺が助けるんだと、ヒーロー気取りですらあった。


 だけど違った。

 ハロウィーは守られるヒロインでもお姫様でもない。

 この子は超一流の女主人公だった。


「ありがとうなハロウィー。お前のおかげで元気が出たよ」

「? よくわからないけどどういたしまして。それでどうする?」

「そうだな……イチゴー、ニゴー、サンゴー、ヨンゴー、ゴゴー、お前らはクラウスと一緒に足止めに専念してくれ!」

『わかったー』


 俺の指示でイチゴーたち五人は防衛に徹しながら、真カースメイルをかき回した。


 真カースメイルの周りをちょこまかと動き、斬撃を避け続けながらも自分たちを無視できないよう、攻めるフリをし続ける。


 クラウスも、真カースメイルの真正面に立って剣を振るった。

 四本の腕から放たれる激烈な打ち込みの嵐に、クラウスは防戦一方。

 それでも立ち続けられるのは、手数の多くがイチゴーたちに回っているからだ。


 ――六人がかりで拮抗するのが精一杯。巧くて速い攻撃が毎瞬四回。チートかよ。


 自分のスキルを棚上げにして、つい悪態をついてしまう。


「シッ」


 ハロウィーの射撃が炸裂。

 イチゴーたち五人とクラウスの剣撃に紛れた七つ目の攻撃。

 真カースメイルの剣は全て振り切っている。当たる。

 そう確信した直後。


「■■」


 真カースメイルは、まさかのヘッドバッドで射撃を弾いた。


「嘘!? なんで効かないの!?」

額への直撃。


 人間なら致命傷なのだが、そこで俺はハッとした。


「そっか、あいつ鎧なんだ」

「どういうこと?」


 必殺必中の一撃を弾かれたハロウィーが、緊迫した声で俺を見上げてきた。


「どれだけ屈強でもあいつが人型魔獣なら頭は急所だ。けど、あいつは鎧。むしろ生物の急所を守るための物。つまり頭を守る兜は急所どころか一番頑丈な部分だ!」

「そんな……ッ」


 ハロウィーが悔しそうに歯を食い縛った。

 俺も、自分の無力が恨めしかった。


 だけど、俺の剣術は貴族の教養で身に付けたお坊ちゃま剣術。

 到底敵うものではない。

あの場に飛び込めば、むしろクラウスの足を引っ張るだけだ。


「■■■■■■■■■■」

「ッッッ、負ける、ものか……」


 イチゴーたちと協力しながら必死に食い下がるクラウスも、いつまで持つかわからない。


 ――どうすればいいんだ。


 俺が頭を抱えると、ハロウィーも苦い声を漏らした。


「剣さえなければ……でもさすがに指に当てて剣を落とすのは無理だよね……」


 あんな超高速で動き回る四つの手を捉えるなんて、いくらハロウィーでも無理だろう。


 だけどハロウィーの言う通りだ。

 真カースメイルは斬撃攻撃しかしてこない。

 剣さえなければ…………?

 そこでふと、俺は天啓を得た。


「そうか……あいつ斬撃しかできないんだ……」

「どうかしたのラビ?」

「ハロウィー!」


 彼女の肩をわしづかみ、強く頼んだ。


「あいつの膝に魔力圧縮の矢を射続けてくれ!」

「膝? 関節を狙うっていうこと?」

「そうだ。イチゴーやクラウスたちのおかげで、あいつはあの場からあまり動かない。膝なら狙えるだろ?」

「いいけど、膝が動かなくなっても鎧にダメージは無いんじゃないかな?」


 首をかしげながらも、ハロウィーは時間をかけて魔力を圧縮。

矢の狙いをわずかに下げて、そして放った。


 イチゴーを斬り上げ、真カースメイルの腕が上がった隙を突き、矢は膝を直撃した。


 膝パーツは矢を弾くも、超高熱で僅かに歪んだ気がする。


 続けて、一分ごとに二撃目、三撃目とハロウィーの矢じりが真カースメイルの右膝を打ち続けた。


 それでも、多少膝の動きが悪くなったところで真カースメイルの剣撃に影響は無かった。


 元よりその場から動かず、不動でクラウスたちの相手をしているし、筋肉や骨関節の無い鎧人形だ。


 大きく曲げたり伸ばしたりしなければ、問題は無いのだろう。


 ――そろそろいいか。


 俺は真カースメイルに向かって疾走しながら声を張り上げた。


「みんな、足にまとわりつくんだ! クラウスは退け!」

「わかった!」


 真カースメイルとクラウスが十メートル以上離れたところで、俺とすれ違った。


 ――よし、射程に入った!


 直後、俺はストレージスキルと同時に、再構築スキルを発動させた。

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