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ボス狩りしようぜ

 俺が自省すると、第二階層のボス部屋に辿り着いた。


 昨日、イチゴーたちが倒したワーラット・メイジがいる部屋だ。


 ワーラット・メイジは弱かった。

 メイジ、魔法使いらしく火炎魔術を使ってきたけれど、クラウスの冷気魔法で相殺。


 それからイチゴーたちで袋叩きにして、トドメにハロウィーの矢で喉を貫けば簡単に倒せた。


 ワーラット・メイジの素材には目もくれず、クラウスは三階へ下りる階段の前で立ち止まった。


「だけど、みんなその言葉遊びに支配されている。誰かが作った、ありもしない制約にみんな縛られている」


 肩越しに語るクラウスの口調は、とても冷淡だった。


 それはまるで、さっきまでの感情的な自分を恥じるようにも見えて、彼の自制心の高さが伝わってくる。


「だから僕は身分について研究しているんだ。身分はいつどこで誰が何のために作ったのか。どういう仕組みで人の身分は変わるのか。何故、人は身分を信じ逆らえないのか。そこに、全ての人が幸せになれるヒントが隠されていると思うんだ」


 彼の言葉で、クラウスが転生者ではないことがよくわかる。


 ――クラウスは、織田信長や坂本龍馬だ。


 ほとんどの人は、時代の価値観に異を唱えない。


 だけど、誰もが思考を停止させて、そういうものだと疑問を持たずに過ごす事柄に、彼は論理的思考で真っ向から否定できる。


 もしかすると、クラウスは歴史に名を残すかもしれない。


「だから知りたいんだ。ただの好奇心じゃない。伯爵貴族家に生まれた君がどうして家を追い出されたのか。君みたいな誠実な人が、まさか家庭内トラブルや放蕩三昧で家を追い出されたわけじゃないんだろ? 噂は聞いているけど、本当のことを知りたいんだ」


 クラウスの真摯な問いかけに、俺は素直に答えた。


「噂通りだよ。聖典に出てくる魔王と同じ、授かったスキルが魔獣型ゴーレム使いだったから。それだけだよ」

「でも、君のゴーレムはこんなに強いじゃないか」


 ハロウィーと同じ反応。

 やっぱり、良識的に考えればそうなるだろう。


「強さは関係ないよ。ゴーレムに必要なのは、どれだけ人間に近いかだからな。魔王と同じ魔獣型ゴーレムは邪道、女神と同じ人型ゴーレムは崇高。それが貴族社会の共通認識だ。実際、動物型のゴーレムを使う人への差別意識は根強いしな」


 もっとも、俺は二足歩行するイチゴーたちを魔獣型だとは思っていない。

 けれど、貴族にとっては違うらしい。

 ハロウィーにも説明したことを、俺は繰り返した。


「馬鹿げているだろ? だけど貴族社会の思い込みは筋金入りだ。貴族は体面を重んじる。敬虔な信徒ぞろいの貴族社会で、神への反逆者たる魔王と同じスキル持ちは一族の恥なんだよ」

「酷い話だね……」


 クラウスは深く共感しながら、地下三階層への階段を下りていった。


「でもそうか、やっぱり一族のメンツとスキルは身分を変え得るんだね。歴史上、勇者スキルを授かった人が王族になった例もある。でも、逆は悲しいな」


 地下三階に下りたクラウスは、通路の奥から走ってきた赤毛の犬、ヴァーミリオンドッグの口に剣を突き刺し、喉から後頭部にかけて串刺しにする。


 死んだ証拠に、串刺し死体は俺のストレージに入った。


「信賞必罰。功績を上げた人が昇進して、罪を犯した人が降格される。僕もそこには一定の理解はある。でも君は何も悪いことをしていない。これもまた自分では決められない、スキルという神からの授かりもので降格されてしまっている。まるで、存在そのものが罪だと言わんばかりじゃないか」


 悲壮感漂う表情で、ぎゅっと剣を握りしめながら、クラウスは言った。


「僕はそういうのが嫌いなんだ。君みたいな人の為にも、やっぱり、身分の謎を解き明かす必要がある」


「……ありがとうな」


 クラウスの共感と同情が嬉しい半面、彼に危うさを感じた。

 彼のような理想主義者は、成功すれば歴史に名を残す偉人になれる半面、脆く壊れやすくもある。


 今は主席のスター生徒だけど、この先の人生で何か大きな壁に阻まれたら。

 理想を失ったら、クラウスはどうなってしまうのだろう。


 ハロウィー同様、彼のような人には幸せになってもらいたい。

 幸い、クラウスは誰もが憧れる魔法剣士スキルを持っている。

 そう簡単に挫折するとは思えない。


 だけど、人生はわからない。


 彼が勇者スキルを持った人と対立したら、強さに関係なく、貴族の権力で大切なものを奪われたら。


 そんな最悪の未来を想像してしまう。


 俺が不安を抱えながら到達した三階層のフロアボスは、オオヒクイドリだった。


 身長三メートルの巨大ヒクイドリで、素早い身のこなしで壁を走る、なかなかやっかいな敵だった。


 とはいえ、レベルはせいぜい十三。


 魔法剣士であるクラウスが凍てつく斬撃を当て、凍り付き壁から落ちてきたオオヒクイドリをイチゴーたちがフルボッコにすれば倒せた。


 続く地下四階層のフロアボスはリザードマン。


 金属製の鎧で全身をがっちりと武装し、重厚な盾と湾刀が印象的だった。


 けれどこれも、まずはクラウスが雷撃をまとった剣の一撃で鎧越しに感電させ、さらにハロウィーの矢で喉を貫いた。


 それでも死なない生命力は爬虫類特有のものだろう。それでも、大きく消耗した体ではイチゴーたちには勝てなかった。


 そしてダンジョンに潜ってから一時間とかからず、俺らは地下五階層のボス部屋に辿り着いた。


「すごぉい、わたしたち、こんなところまで来ちゃった……」


 ほえー、と驚くハロウィーと一緒に、イチゴーたちもボス部屋の扉を茫然と見上げていた。

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