表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

184/185

イースターとヴァンレタインの正体

 ラビたちが一階で和やかな時間を過ごしている間、イースターとヴァレンタインは、こっそりと席を外していた。

 二階のバルコニーに佇み、互いにやや剣呑な雰囲気で視線を交える。


「こんなところに呼び出して何の用だい? ボクは早くバニーとベッドで仲良くしたいんだけど?」


 フードから溢れた長い赤毛の先をいじりながら、ヴァレは気だるげに言った。


「そう時間はかかりませんよ。貴女の正体さえ教えてくれればね」

「……へぇ、なら、そっちの正体も教えてほしいなぁ」


 ヴァレは犯人を追い詰める探偵のように鋭い眼差しで、イースターに一歩、歩み寄った。


「イースター・D・エイプリル。いや、イースター・ダンジョン・エイプリル。二〇〇〇年前、女神と一緒に世界を救い、ダンジョンを作った少女であり、人として結婚して子供を作り、人として老いて死んだ転生者、宮造穂香みやづくり・ほのかの子孫さん」


 ヴァレの言葉に、イースターはほくそ笑んだ。


「聖典にも載っていない昔話をよくご存じですね。人間の書物には一切残っていないはず。知っているとすれば、当時を見て知っている人、ぐらいでしょうか? 貴女は二〇〇〇歳のお婆ちゃんにしては若すぎますねぇ」


「見たのはボクじゃなくてボクのグランマだよ。ハイエルフを超えたエルダーエルフで、学園長のグレートグランマ、ひいお祖母(おば)ちゃんでもあるね」


「おや、では貴女は学園長の遠い従姉妹叔母さんでしたか。あまり似ていませんね」

「向こうは何度も人間の血が入っているからね。確かクォーターエルフの半分で、八分の一がエルフだったかな」

「女神の盟友、伝説のエルダーエルフ、ヴァレンティーヌさんはご健在ですか?」


「グランマなら元気だよ、心はだいぶ衰弱しているけどね。でもボクをエルフの里から出してから一〇〇年、ようやくグランマが喜びそうな報告ができそうだよ」


「イチゴーちゃん、いや、イチゴーさんですね」

「ご名答」

「どうやら、互いに名乗るまでもないようですね。お互いに二〇〇〇年待った者同士、隠し事はなしにしましょう。我々は神話の子孫同士なのですから」

「いいよ」


 さらりと言って、ヴァレはフードを脱いだ。

 彼女の首から上が外気にさらされた。

ルビー色に赫く赤毛が流れ出し、そこから長くとがった耳が伸びていた。

人ならざる、エルフの証に、イースターは眼鏡の奥で目を細めた。


「先祖代々、異世界転生者を助けるよう言われてきましたが、そちらもですか?」

「うちはちょっと違うかな。助けるのはもちろんだけど、監視の意味合いもあるんだ。二〇〇〇年前の悲劇は冗談じゃ済まないからね」


 まるで他人事のように、ヴァレは軽く言い流すと、バルコニーの手すりに座った。

 足をぶらぶらとさせる姿には、まるで緊張感がない。


「キミだって知っているだろう? 二〇〇〇年前の転生者大戦をさ」

「そうですね」


 らしくもなく、イースターはやや悲嘆の声音を返した。


「とは言っても、まるでお伽話ですよ。ワタシの祖先と一緒に日本から訪れた少女、九重巴ここのえ・ともえ七海渚ななみ・なぎさ、二人のゴーレムは人類を全ての労働から解放し、人類は一生遊んで暮らすだけの存在になった。けれど人の欲望は限界を知らずより良い暮らしを求め、腐敗し、そんな人類に魔獣型ゴーレム使いの渚が鉄槌を下した。それを止めようと人型ゴーレム使いの巴が戦い共倒れ。人類はゴーレムを失い、原始の生活を余儀なくされた。どんなにゴーレムが優れていようと、全人類を労働から解放するなんてできるものでしょうか?」


「それほどに圧倒的だったんだよ。九重巴と七海渚のゴーレムは。何せエルダーゴーレムを無制限に大量生産できたんだからね。エルフの里にいくつか現存しているけど、あんなものが何万何億とあれば、そりゃ人類に労働なんていらないさ」


 ヴァレは体をうしろにかたむけ、青い空を仰ぎ見た。


★本話収録の最終3巻発売中です!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ