幼女×5
後日談。
翌日には兄さんの貴族除籍と先輩が俺を打ち負かす記事が出る予定だった。
だけど、レッドバーン家の命令で兄さんの貴族除籍は撤回。
さらに、全力で新聞社に圧力をかけて今日の試合は記事にしないことになった。
何せ、学園首席でありレッドバーン公爵家嫡男が俺に負けてしまったのだ。
のちに人型になったとはいえ、イチゴーたちは試合中、まぎれもなく魔獣型だった。
魔獣型ゴーレム如きに負けたからといって、兄さんが貴族を辞めたら、先輩やエリザベスも貴族を辞めなければ示しがつかない。
兄さんはなおも貴族を辞めようとしたが、公爵家からの正式な命令でそれは受理されなかった。
そして、俺はと言うと……。
「では、これで今日の授業は終わりです」
ダンジョン実習が終わると、俺たちのクラスはエントランスで解散となる。
生徒たちが三々五々散る中、イチゴーたちが俺に飛びついてくる。
「わーい、授業終わったー♪ マスター遊んでぇ♪」
イチゴーは俺の胸板をよじのぼると、頬ずりをしてくる。
「おいおい、離れろって」
俺がイチゴーを抱きかかえて床に下ろすと、イチゴーは頬をふくらませて抗議してきた。
「ぶーぶー、頑張ったんだからいつもみたいにご褒美ぃ!」
「マスターと一緒にお昼寝したいのだー」
イチゴーとサンゴーの言葉に、周囲の生徒たちが足を止めた。
「マスター、体が汚れたのでお風呂で体を洗ってほしいっす。ストレージ洗浄は味気ないっす」
ヨンゴーの言葉に、周囲の生徒たちの視線が集まった。
「待て、そうマスターを困らせるものではない。エルダーに進化したのだ。品格を身につけよ」
ニゴーがみんなをたしなめた。
幅広の剣は柄が伸びるらしく、今は長い槍を立てて背筋を伸ばしている。
「そういうニゴーだっていつもマスターに体を洗ってもらって嬉しそうだったっす!」
「むっ、確かにマスターに体をすみずみまで手洗いしてもらうのは好ましいが」
周囲の生徒たちがざわついた。
――待て、なんだかものすごくよくない誤解が生まれていないか?
嫌な予感がびしばしする中、イチゴーはまた俺の胸板をよじ登り始めた。
「マスター、いいこいいこしてぇ♪」
周囲の視線を敏感に感じた俺は、すぐさまイチゴーを床に下ろした。
「駄目だ。がまんしなさい」
と、俺が断ると、イチゴーは急に両手を顔に当てて泣き始めた。
「うわーん、マスターがつめたいよー。うぅ、きっとぼくのこと嫌いになっちゃったんだー!」
痛い。
周囲からの視線が凄く痛い。
イチゴーはゴーレムなのに、端から見れば、俺はいたいけな幼女をいじめるクズ男でしかない。
「そ、そんなわけないだろ」
俺に続いて、ハロウィーもフォローに入ってくれる。
「そうだよイチゴーちゃん。ラビはイチゴーちゃんのこと大好きだよ」
「うそだー。だっていつもなら頭をなでたり頬ずりしたりチューしたりお腹やお尻をなでてくれるもーん!」
周囲からの視線がより鋭角になった。
「やめろぉ! 誤解を招くだろぉ!」
クラスメイトたちはまるで唾棄すべき変態でも見るような、絶対零度の視線を俺に向けながら、ひそひそと隣近所で噂を始めた。
このままでは国家権力のお世話になってしまいそうだ。
俺は両腕でイチゴーとニゴーを抱えると、ちゃっかり背中を登って肩車状態になっているゴゴーと一緒にその場を離れた。
「ハロウィー、サンゴーとヨンゴーを頼む」
「え、う、うん! いこ、サンゴーちゃん、ヨンゴーちゃん」
「おうちに帰るのだー」
「我、帰還するっす!」
ウェルクス先輩との決闘後、イチゴーたちが人間の姿になったおかげで、周囲には随分と騒がれたけれど、羨望よりも冷たい視線のほうが多い気がする。
それと、イチゴーたちの育児?の手間が倍化して、新人パパさんの気分だ。
●この続きが収録の第三巻本日発売です。