この美幼女は?
『えい』
巨大ロボの拳が、ウンディーネの剣身と激突、。刃を砕き、ウンディーネの顔面を打ち抜いた。
メッセージウィンドウが更新される。
――ウンディーネの剣を手に入れた。
「なぁっ!?」
液体となり消えた使い魔に、先輩の表情が固まった。
それでも、イチゴーは止まることなく、地面を揺らすような勢いで突進をしかけた。
主を守ろうと土の少年ノームが岩の拳を突き出すも、イチゴーのショルダータックルで少年の体は粉々になる。
そしてイチゴーが伸ばした手が風の乙女シルフの上半身をわしづかみ、握りつぶした。
――ノームの拳を手に入れた。
――シルフの衣を手に入れた。
「焼き払え、イフリート!」
炎の精霊が口を開くと、途端にイチゴーは加速。
回転を加えながら旋回し、一瞬で先輩の背後に回り込んだ。
同時に、前腕から二本の大剣がスライド。前に突き出した。
腕ごと振るうと、剛剣は大気を抉るような圧力でイフリートの首を容赦なく刎ね飛ばした。
――イフリートの髪を手に入れた。
「ばか……な……」
先輩は完全に絶句し、そして瞼を震わせていた。
形勢逆転した俺は、スキル画面を操作しながら静かに、そして平和的に交渉した。
「先輩、まだやりますか?」
周囲からは、同じくエルダーゴーレムに進化したニゴー、サンゴー、ヨンゴー、ゴゴーが巨体を揺らし、包囲の輪を縮めるように迫ってくる。
さしもの先輩も、歯を食いしばりながら、視線を伏せた。
「私の負けだ……」
試合終了の鐘が鳴り、俺は万雷の拍手に包まれながら、関係者席へと視線を向けた。
そこには、瞠目したまま俺を見つめる兄さんの姿があった。
俺は兄さんに向けて手を振った。
すると、突然イチゴーが声を上げた。
『わーいかったかったぁ♪ マスターほめてぇ♪ いいこいいこしてぇ♪』
「おう、いいぞ」
勝利の立役者であるイチゴーたちをねぎらってあげたくて、俺は笑顔で頷いた。
『じゃ、いまいくね』
ガラスドームの中で短い手足をもちもち動かして喜ぶイチゴー。
その可愛さに目を奪われていると、イチゴーの体がストンと落ちた。
「え?」
続けて、ニゴーたちも、落とし穴に落ちるようにして姿を消した。
それから、巨大ロボの胴体部分にスリットが開いてボディ装甲がパージ。
コックピットの座席から立ち上がるようにして、中から小さな幼女が姿を見せた。
イチゴーからは、大きなリュックを背負ったワンピース姿の幼女が。
ニゴーからは、幅広の剣を背負い、青を基調とした騎士家子女のような姿の幼女が。
サンゴーからは、緑色の厚手のコートを着た、眠そうな顔の幼女が。
ヨンゴーからは、大きな液タブを抱えた黒のゴスロリ幼女が。
ゴゴーからは頭に大きな帽子をかぶったピンク色の甘ロリ幼女が。
それぞれ姿を現した。
幼女。
幼女だ。
その異様に、俺も、そして会場の誰もが息を呑み、辺りは虫の足音が聞こえてきそうなほどの静寂に包まれた。
何が異様かって、五人はマネキンや銅像ではなかった。
球体関節も、腹話術人形のような顎関節も無い。
本当の本当に、正真正銘、人間の幼女そのものだったのだ。
こんなゴーレムは、話にだって聞いたことがない。
あるとすれば、神話の女神が愛玩していたという、伝説のゴーレムだろうか。
「「「「「マスター♪」」」」」
五人の幼女が笑顔をはじけさせながら、一斉に駆け出してきた。
「え、え? ちょっ、おわっ!?」
五人に飛びかかられて、俺はその場に腰を落としてしまった。
「えへへぇ、ますたー、ぼくがんばったのー♪」
「待て、皆の者、マスターを困らせるでない」
「そう言うならニゴーは離れるっす」
「説得力がないのだー」
「マスター、ゴゴーを愛でるのです。むふん」
五人は思い思いの言葉を口にしながら、俺の腕に、お腹に、胸板に、首に甘えて、みんなで俺を取り合ってきた。
――えっと、これ、エルダーゴーレムに進化して人型になったってことだよな?
さんざん魔獣型ゴーレムだからと批判されて、この決闘もそれが原因だ。
なのにイチゴーたちが人型になったら。
――この決闘、どうなるんだ?
俺はわけがわからないまま、イチゴーたちに全身をもてあそばれた。