表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

178/185

最強の精霊

「パラケールって、まさか!?」


 果たして、そこに現れたのは灰色のローブをまとった、中世的な美人だった。

 手には節くれだった魔法の杖を握り、冷たい視線で俺を射抜くように空中から見下ろしてくる。


「嘘だろ……」


 四大精霊を司る大精霊パラケール。

 その存在は、魔法を扱う者なら全ての人が知っている常識であり、畏怖の対象だ。

 あらゆる神話や伝承にその名を残し、精霊よりも神に近いその力で人類は幾度も危機に陥り、また、危機を救われてもいる。


「こいつは精霊としての格が高すぎてな、私でも短時間しか操れないのだが、貴様をしつけるには十分だ。命までは取らないが、半身程度は覚悟するがいい! いけぇパラケール!」

「……」


 パラケールは動かなかった。

 ウェルクス先輩の頭上に佇んだまま、つまらないものを見下ろすように周囲を睥睨している。

 主の命令に耳を貸さない使い魔に、ウェルクス先輩は苛立った。


「何をしているパラケール。早くあの不届き者に鉄槌を下してやれ!」

「……」


 宝石のような瞳でウェルクスを一瞥すると、パラケールは気だるそうに息を吐き出した。


 どうやら、召喚できるだけで指揮下にあるわけではないらしい。

 やや安堵した直後、パラケールの頭上に、巨大な光の玉が生まれ、膨張と収縮を繰り返した。


 そして、光が吼えた。

 光玉から走った極太の光線が大地を横薙ぎに払い、地面を真一文字に消し去った。


 光線はまるで明後日の方角に放たれたにも拘わらず、その衝撃波で俺の制服は背後に暴れ、思わず両腕で顔をかばってしまう。


 炎でも雷でもない、破壊の力そのものと言っていい魔法の爪痕に、俺は愕然とした。


「ふふふ、いいぞパラケール。それでこそ私の使い魔だ。さぁ、余興はここまでだ。行けぇパラケール。今度こそあの愚か者にこの世の理を教えてやれ!」

「……」


 パラケールの頭上で、またも光の玉が膨張と収縮を繰り返した。


 ――マズイ!


 あれは、サンゴーのバリアでも、ニゴーのバーニアでも、ストレージの中のものでも防げない。


 防ぐ。

 避ける。

 どちらも不可能だ。


 俺は必死に打開する手立てはないかと周囲を確認しつつ、AIチャットスキルもフル稼働させた。


 ――そうだ。ドレイザンコウの時みたいに地面をストレージに入れて竪穴に逃げれば!


 ――ここのじめんはコロシアムオーナーのしょゆうぶつだからストレージにいれられなーい。


 ――くそっ、いや、待てよ!


 そして、俺はあることを思い出した。


「逃げるぞ!」


 イチゴーたちと一緒に俺はある場所目掛けて走り出した。


「無駄な足掻きを!」


 先輩は俺のいる方角に向かって歩みを進めながら、発射の合図とばかりに右手を上げた。

 間に合わないと悟った俺は、やぶれかぶれでその場所に飛び込んだ。


「間に合え!」

「くたばれ!」


 パラケールが生み出した光の玉から、特大の破壊光線が放たれ、俺の背後を金色に染めた。

 そして、俺は奈落の底へと落ちて行った。



「おやおや残念だ。半身を吹き飛ばす程度に収めようと思ったが、まるごと消し飛ばしてしまったかな? ……なんだ? これは?」

「三日前の救世祭で、俺が直した地割れですよ」


 俺は地割れの底から飛び上がると、先輩の前に着地した。


「貴様、生きていたのか!?」

「おかげさまで」


 イチゴーの言う通り、この地面は他人の所有物なのでストレージには入れられない。


 だが、この地割れは三日前に俺が俺の土で埋め立てた場所だ。

 俺は、自分で埋めた土を回収するだけでいい。

 そして地割れは、パラケールの眼下にまで続いていた。


『だっしゅつー!』


 地割れから砲弾のように飛び出したイチゴーは、杖を握るパラケールの親指を穿った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ