最強の精霊
「パラケールって、まさか!?」
果たして、そこに現れたのは灰色のローブをまとった、中世的な美人だった。
手には節くれだった魔法の杖を握り、冷たい視線で俺を射抜くように空中から見下ろしてくる。
「嘘だろ……」
四大精霊を司る大精霊パラケール。
その存在は、魔法を扱う者なら全ての人が知っている常識であり、畏怖の対象だ。
あらゆる神話や伝承にその名を残し、精霊よりも神に近いその力で人類は幾度も危機に陥り、また、危機を救われてもいる。
「こいつは精霊としての格が高すぎてな、私でも短時間しか操れないのだが、貴様をしつけるには十分だ。命までは取らないが、半身程度は覚悟するがいい! いけぇパラケール!」
「……」
パラケールは動かなかった。
ウェルクス先輩の頭上に佇んだまま、つまらないものを見下ろすように周囲を睥睨している。
主の命令に耳を貸さない使い魔に、ウェルクス先輩は苛立った。
「何をしているパラケール。早くあの不届き者に鉄槌を下してやれ!」
「……」
宝石のような瞳でウェルクスを一瞥すると、パラケールは気だるそうに息を吐き出した。
どうやら、召喚できるだけで指揮下にあるわけではないらしい。
やや安堵した直後、パラケールの頭上に、巨大な光の玉が生まれ、膨張と収縮を繰り返した。
そして、光が吼えた。
光玉から走った極太の光線が大地を横薙ぎに払い、地面を真一文字に消し去った。
光線はまるで明後日の方角に放たれたにも拘わらず、その衝撃波で俺の制服は背後に暴れ、思わず両腕で顔をかばってしまう。
炎でも雷でもない、破壊の力そのものと言っていい魔法の爪痕に、俺は愕然とした。
「ふふふ、いいぞパラケール。それでこそ私の使い魔だ。さぁ、余興はここまでだ。行けぇパラケール。今度こそあの愚か者にこの世の理を教えてやれ!」
「……」
パラケールの頭上で、またも光の玉が膨張と収縮を繰り返した。
――マズイ!
あれは、サンゴーのバリアでも、ニゴーのバーニアでも、ストレージの中のものでも防げない。
防ぐ。
避ける。
どちらも不可能だ。
俺は必死に打開する手立てはないかと周囲を確認しつつ、AIチャットスキルもフル稼働させた。
――そうだ。ドレイザンコウの時みたいに地面をストレージに入れて竪穴に逃げれば!
――ここのじめんはコロシアムオーナーのしょゆうぶつだからストレージにいれられなーい。
――くそっ、いや、待てよ!
そして、俺はあることを思い出した。
「逃げるぞ!」
イチゴーたちと一緒に俺はある場所目掛けて走り出した。
「無駄な足掻きを!」
先輩は俺のいる方角に向かって歩みを進めながら、発射の合図とばかりに右手を上げた。
間に合わないと悟った俺は、やぶれかぶれでその場所に飛び込んだ。
「間に合え!」
「くたばれ!」
パラケールが生み出した光の玉から、特大の破壊光線が放たれ、俺の背後を金色に染めた。
そして、俺は奈落の底へと落ちて行った。
「おやおや残念だ。半身を吹き飛ばす程度に収めようと思ったが、まるごと消し飛ばしてしまったかな? ……なんだ? これは?」
「三日前の救世祭で、俺が直した地割れですよ」
俺は地割れの底から飛び上がると、先輩の前に着地した。
「貴様、生きていたのか!?」
「おかげさまで」
イチゴーの言う通り、この地面は他人の所有物なのでストレージには入れられない。
だが、この地割れは三日前に俺が俺の土で埋め立てた場所だ。
俺は、自分で埋めた土を回収するだけでいい。
そして地割れは、パラケールの眼下にまで続いていた。
『だっしゅつー!』
地割れから砲弾のように飛び出したイチゴーは、杖を握るパラケールの親指を穿った。




