作戦発動
――この距離なら、俺の腕でも当たるだろう。
魔力を検知されないよう、俺はストレージからボウガンを取り出すと、目の前の霧目掛けて引き金を引いた。
――当たれ!
刹那、矢を弾く金属音が俺の胸に刺さった。
――外した!? いや、弾かれた?
「侮っていたよ。まさか、本気でこの私を倒しに来るとはね。そして確信したよラビ。君にはどうやら真の恐怖を植え付けなければいけないらしいねぇ!」
烈風が吹き荒れ、一瞬で霧が上空へ巻き上げられた。
そして俺は、眼前の光景に目を疑った。
先輩の目の前には炎の精霊イフリートが佇んでいた。
加えて、背後には白い衣をまとい、長い髪をたゆたわせる美女が、俺との間には青い髪の女騎士と、岩の腕を持つ少年の姿があった。
「まさか、そいつらは……」
「この私に本気で勝とうとは不敬の極み。だが、同時に褒めてやろう。家族以外でこいつらを使うのは貴様が初めてだ」
先輩の首が、ゆっくりと俺へ向けて回った。
「いつまで、私がイフリートまでしか召喚できない無能だと思っていた? 確かに、二年前にスキルを授かり私はイフリートを召喚できるようになった。だが、今では風のシルフ、水のウンディーネ、土のノームも召喚できるようになっているのだよ。さぁラビ、懲罰の時間だ。私が真の最強というものを教えてあげようじゃないか!」
水の女騎士、ウンディーネが神速の踏み込みで俺との距離を踏み潰し、ロングソードで切りかかってきた。
『あぶないのだー』
サンゴーのバリア。
それを、ウンディーネの剣は一瞬で切り裂いた。
「こいつの剣、グリージョよりも強いぞ!」
『マスターにふれるな!』
ニゴーがバーニア機能で超加速した。
先輩に飛び掛かるも、土の少年ノームが岩の手の平で張り手を放つ、ニゴーは簡単に弾き飛ばされた。
「ニゴー!」
『かげぶんしんのじゅつっす!』
幻影機能でヨンゴーが十人に分身してから、先輩へ四方八方から襲い掛かる。
すると、風の乙女シルフが竜巻を起こした。
幻影は風の影響を受けないが、本物のヨンゴーは上空へ巻き上げられ、無力化させられた。
さらに、沈黙を守っていたイフリートが口を大きく開けると、喉の奥から嵐のような業火を吐き出してきた。
怒涛の勢いで押し寄せる灼熱の光景に、俺とイチゴーは同時にストレージを展開した。
洪水被害から町を復興させる時に回収した泥水の滝で、熱を遮断した。
厚さ十メートルに及ぶ泥の滝は、壁というよりももはや道だ。
それでもなお、周囲の空気越しに熱波が俺の肌を炙り、額から汗が流れ落ちてきた。
イフリートの炎が止まると、フィールドには乾いた土砂の残骸が広がっていた。
「素晴らしいな。この四人を出させるだけに飽き足らず、まさか全員の力を行使してもなお生きているとは」
先輩は俺に賛辞を送っているつもりらしいがとんだ嫌味だ。
サンゴーのバリアは通常攻撃すら防げない。
ニゴーのバーニアアタックでも傷つけられない。
ヨンゴーの幻影は意味を成さない。
完全に手詰まりだった。
客席では、ノエルたちが心配そうな表情で俺を見守ってくれているも、打開策は思い浮かばなかった。
そんな俺の心を見透かすように、先輩は嗜虐的な笑みを浮かべた。
「なかなか楽しめたよ。魔獣型ゴーレム使いながら見どころがある。そんな貴様に最大限の敬意として、最近到達した私の新境地を体感させてやろう!」
先輩の頭上に、ドレイザンコウもくぐれそうな程に巨大な召喚陣が展開された。
その内側からは、こちらの心臓が縮まりそうな程に強烈な魔力の波動が溢れ、俺は息が止まりそうだった。
「いでよ! 四大精霊を司りし大精霊! パラケール!」
「パラケールって、まさか!?」
果たして、そこに現れたのは灰色のローブをまとった、中世的な美人だった。
手には節くれだった魔法の杖を握り、冷たい視線で俺を射抜くように空中から見下ろしてくる。
「嘘だろ……」