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イースターの正体って?

 その言葉を合図に、疾風が吹き荒れ、濃霧はかき消された。

 それから、彼女は手を離し、事務的に淡々と告げた。


「爆音は最初だけ。残響じゃ、耳を澄ませば足音でバレるよ」


 冷淡に踵を返し、ヴァレは元の位置に戻ると地面に突き刺した長柄剣を引き抜いた。


「かといって音を出し続けたら、それこそ居所がまるわかりだ」

「そっか……」


 頭を悩ませた俺は、AIチャットでイチゴーに聞いてみようとする。

 けれど、その前にブランが手を叩いた。


「じゃあ何かバラまいたら?」

「ダメだよバニー。それじゃラビが躓いて転ぶかもしれない」

「ぁう、ごめん……」

「それより近づかずに飛び道具で仕留めるのは?」

「いえいえ、濃霧の中で狙撃ができるような腕はラビさんにないでしょう」

「そうなんだ?」


 俺に代わり、ブラン、ヴァレ、イースターの三人は自分事のようにわいわいと議論を始めた。

 その光景に、俺はなんだか新鮮な気持ちになる。


「そういえばラビさん、壇上でエリザベスさんの声を再生していましたが、この子たちって録音機能がついているんですよね?」


「ん、ああそうだな」

「じゃあイチゴーちゃんたちにラビさんの足音を録音してそれを流しながら走ってもらえばどうですか?」


「あっ、それはいい案だね」

「うん、悪くないんじゃないかな?」

「どう思いますラビさん、て、どうしたんですか?」


 イースターがきょとんとすると、俺は我に返った。


「い、いや、何でもないよ」


 誰かが自分の為に一生懸命になってくれるのっていいな、と思っていたなんて恥ずかしいので誤魔化した。


 ――ノエルやハロウィー以外にもいるもんだな。こんないい奴。


 正直、スキルに目覚めた後の俺は人に恵まれすぎている気がした。


「三人とも俺の為にありがとうな。やっぱなんかお礼するよ」

「では私を愛人に!」

「家のお礼だから」

「ボクはバニーに頼まれただけだから」


 ――返して、俺の感動。


 心の中でちょっと泣いた。


「だいたいこれ、キミのためじゃなくてキミのお兄さんのためなんだろ? お礼ならラビじゃなくてそっちからもらうのが筋だろ?」


 やや呆れ口調のヴァレに、俺は苦笑いを浮かべた。


「兄さんから頼まれたわけじゃないからな。俺が勝手にやっているだけだ」

「え……」


 ヴァレの視線がより冷えた。

 彼女は何か考えるようなそぶりを見せて、たたずまいを崩した。


「キミ、お兄さんからあんなことされて、自分から助けようっていうのかい?」

「そうなるな」

「そんなに仲がいいのかい? 救世祭での様子を見るに、そうは思えないけど?」


 訝し気な表情に、俺は即答した。


「仲がいいとは言えないな。でも、関係ないんだ。家族だからな」

「家族、か……わからないな。相手の人間性を無視して無条件で愛が生まれるのかい? ボクは冷たい家族よりも、ボクを想ってくれるバニーが大好きだ。人間は見た目が九割なんて意見もあるけど、人間性よりも肩書を重視するのがキミの、あるいは人間の特性なのかな?」


「正論だな」


 人間性を無視して生まれる愛。

 なるほど、それは確かに外見目当てや金目当て、体目当てに似るかもしれない。

 だけど、違う。


「でもなヴァレ、外見や金、地位や権力目当てと違って、家族だからな、無償の愛ってやつなんだ。尽くしても見返りは無いし、むしろ損をするとわかっていても助けたいと思ってしまう。それが家族なんだ」


 他人なら喧嘩別れをすればそれっきりかもしれない。

 だけど家族は、喧嘩をしても、時間とともに相手のことが気になるしほうっておけなくなる。


 自分でも最近まで気づかなかったけれど、イースターが教えてくれた。

 だから、今なら胸を張って言える。


「見返りがなくても、愛されていなくても、俺は弟として、兄さんを救いたいんだ。だから、俺のわがままに付き合ってくれてありがとうな」


 俺が笑みを向けると、ヴァレの無関心な表情がわずかに寂しそうに曇った。


「キミがうらやましいよ……」


 その姿は、まるで仲の良い親子を目撃してしまった捨て子のように儚げで、一瞬、胸が辛くなった。


 俺がフォローの言葉を探していると、ヴァレはブランを抱き寄せてその額にキスをした。


 恥ずかしがるブランを守るように前に出ると、ヴァレは少し表情を明るくした。


「さて、じゃあ特訓の続きと行こうか。ラビ、また離れてくれるかい?」

「お、おう」


 ヴァレのやる気に応えるように、俺は背中を向けた。


「じゃあみんな、俺の足音を録音して……」


 ――ん?


 自分で言って、俺は違和感に気づいた。


 ――そういえばイースターの奴、【再生】に【録音】って。


 この世界の人間が、自然とその単語を使っていることに違和感を覚え、俺は一瞥した。

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