ヴァレって何者?
――確かに、あれならイフリートにも匹敵するだろうな。でも。
「ノエルやハロウィーじゃだめだったのか?」
「ハロウィーさんの魔力圧縮は時間がかかりますし、ノエルさんのカリバーは一日一回しか使えないじゃないですか」
「それもそうか」
納得してから、俺はヴァレに軽く手を挙げた。
「特訓に突き合わせて悪いなヴァレ。このお礼は今度するよ」
「別にいいよ。キミためじゃなくてバニーのためだし」
言って、ヴァレは小脇のブランを地面に下ろした。
まだ足元がふらつくブランはヴァレの肩を借りるのだが、そのことに彼女はご機嫌だった。
「うぅ、まだ足に力が入らないよ……」
「大丈夫だよバニー、ボクが支えてあげるから、ずっと」
最後の一言を強調するヴァレ。
――ブラン、もうお前絶対に逃げられないぞ。だけど頑張れ。
俺は心の中でささやかなエールを送った。
「では、ここで作戦を説明しましょう。まず、ウェルクスは学戦最強の生徒で、その最大の強みは何と言っても、やはり精霊使いスキルでしょう」
イースターは両手を左右に広げて、芝居がかった口調で俺ら三人に説明を始めた。
「力の一部を借りるだけでも大変な四大精霊の一角、炎のイフリート本人を呼び出し自由に戦わせることができるのは驚異的です。Aランク冒険者でも、彼に勝つのは容易ではありません!」
「ああ。エリザベス以上の、学園最強の火炎使いなんだろ?」
「はい! しかし勝機はあります。一芸特化型には弱点がつきものです。炎の精霊だけにイフリートの弱点は明白。氷と水です。イチゴーちゃんたちがグリージョを氷漬けにしたあの技があれば、イフリートには効果覿面でしょう」
「でも、弱点属性だから勝てるっていうなら、氷や水使いの生徒たちがとっくに勝ってるんじゃないのか?」
聞いた話では、エキシビジョンマッチで水使いを瞬殺したらしい。
「ちっちっちっ、別にイフリートを倒す必要はありませんよ」
「?」
俺が首をかしげると、イースターは嬉しそうにハシャいだ。
「もう♪ 鈍いですねぇ。ラビ自身がフェルゼンにやったことじゃないですかぁ」
「それってもしかして……」
「はいです!」
イースターはびしっと、人差し指を天に突き上げた。
「ずばり! ウェルクス本人をブチのめそうぜ大作戦です!」
「な、なんて頭の悪い作戦名だ!」
「将を射たいなら馬ではなく将を射ればいいじゃない大作戦!」
「言い直してもダセェよ!」
「ようするに、敵の急所を突こうってことだろ?」
ヴァレがブランの耳に息を吹きかけると、ブランはピチュンと赤くなって固まった。
その様子に、ヴァレはご満悦だった。
「おいおい、まじめにやってくれよ」
「話を戻すと、別にイフリートを倒さなくていいんですよ」
ハイテンションぶりをやや抑えて、イースターは先生口調でテキバキ説明し始めた。
「ラビが氷河をぶつければ、イフリートの熱で水蒸気爆発が起こり、周囲は濃い霧と爆音に包まれます。そうして敵の視覚と聴覚を奪ったらウェルクスさんを直接攻撃しましょう」
「なるほどな」
俺が納得すると、ブランがまばたきをした。
「あれ? でも目と耳が利かないのはラビも同じじゃない?」
「いや、それはゴゴーの探知機能でなんとかなる」
俺はストレージからイチゴーたちを全員出すと、ゴゴーを見下ろした。
「頼めるか、ゴゴー?」
『ゴゴーに任せるのです、むふん』
自信たっぷりにお腹を突き出した。かわいい。
「じゃあ早速やってみるか。ヴァレ、俺に攻撃してくれ」
「OK」
俺はストレージから水の魔法剣と氷の魔法剣を取り出すと、50歩離れた。
「えーっと、イフリートの炎だから、2000度もあればいいかなぁ」
気だるげに言って、ヴァレは中空に手を突っ込むと、何もない場所から剣の柄を引きずり出した。
――アイテムボックス系スキルか?
兄さんを含め、何かを生成するスキルは材料を保存するサブスキルとしてアイテムボックス系のスキルを持つことが多い。
彼女もその類だろうか。
考察する間に、彼女は珍しい武器を両手で構えた。