表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

172/185

ノエルやハロウィーじゃだめだったのか?

 放課後。

 ラビに貴族に戻るよう命令した生徒、ウェルクス・レッドバーンは学園長室を訪れていた。


「学園長、本日はどのようのご用向きでしょうか?」

「うむ、実は貴君に頼みたいことがあってな。単純な話だ。民衆の前でラビを倒せ。それも、圧倒的な力でだ」

「ほう」


 ウェルクスは興味ありげに、気持ちを前のめりにした。


「ラビを貴族に復帰させるという貴君のアイディアは素晴らしい。これで平民が勢いづくこともないだろう」


 学園長は機嫌よく、浪々とウェルクスを褒め称えた。


「お褒めに預かり光栄です」

「まったく、よくやってくれたよ。だがな、仮にラビが貴族であったとしても、やはり魔獣型ゴーレム使いが伝説の救世主では風聞が悪い。そこで、ここは一つラビがたんなる一介のゴーレム使いに過ぎないことを民衆に知らしめたい。できれば同学年で人型ゴーレム使いのエリザベスが勝ってくれれば一番良かったのだが、いや、これは失言だったな。許せ」


「いえ、我が愚妹が魔獣型ゴーレム使い如きに後れを取ったのは事実。あいつには私手ずからキツイ罰を与えておきます」


「それは助かる」


「しかし、自分で言うのもおこがましいですが、私は仮にも学年、いえ、学園主席。私ではラビが負けても仕方ないと思われるのでは?」


「いや、この際、建前はどうでもいい。とにかく、何かしらの形でラビが完全敗北する様を民衆の前に見せたい。貴君のイフリートならば、それが可能だ」

学園長は、少し悪い顔で口元を歪めた。


「それから貴君の手ごたえを参考に、ラビには貴君よりも劣る生徒と決闘を繰り返させる。最初は主席だから仕方ないと思っていた民衆も、学園の強豪生徒たちに何度も負け続ける姿を見れば、救世主などではなく、ちょっと優秀なゴーレム使い程度だったと評価をあらためるだろう。貴君の決闘はその足掛かりだ。民衆の目を覚まさせる大役、引き受けてくれるか?」


 学園長の提案に、ウェルクスも不敵に笑った。


「いいでしょう。このウェルクスにお任せください」

「貴君は頼りになるな。では決闘は明日。それから、フェルゼン退学の記事は差し止めておいてくれ。どうせ、まだ退学届けは受理していない。二日後の新聞に、ラビに負けたフェルゼンは退学、だがそのラビはウェルクス公爵子息がきっちり倒した、としたほうがいいだろう」


「おっしゃる通りですね。流石は学園長。では、そのように手配しておきましょう」


 ウェルクスは厳格な表情を僅かに緩めて、上機嫌に退室した。

 それから、学園長は足元、執務机の陰に隠れていたゴーレムに告げた。


「ラビ、計画通りに進んだぞ」


 ゴーレムのロクゴーはOKと言わんばかりに、もちもちぴょこぴょこと体を弾ませた。

 そして、学園長はその丸い体をこっそりと抱きしめた。


   ◆


 校舎裏の森の奥。その切り立った崖に見下ろされた、とある岩場。

ロクゴーからの通信を聞いて、俺は小さくガッツポーズを取った。


「よし、ウェルクス先輩との決闘を取り付けたぞ」

「やりましたね」


 イースターも、眼鏡の位置を直しながらニヤリと悪い顔をした。


「じゃあ、いい加減に聞かせてもらおうか。ウェルクス先輩を倒す秘策ってやつをさ」


「少し待ってください。特訓に付き合ってもらう人材がもうすぐ到着するはずなんですが……」


 イースターが上空をきょろきょろと見上げると、校舎の方角から赤い影が飛来してきた。


 影はまたたくまに迫り、それが深紅のロングヘアーをなびかせた人だとわかった。

 何かを小脇に抱えたその人はフードを被ってから急下降。


 小動物のように可愛い悲鳴と共に落下してきた。


 頭から落ちてきた彼女は途中で180度転身。かかとを地面に突き出した。

 烈風が吹き荒れ、俺とイースターの制服の裾が背後にはためいた。

減速した彼女は地面にやわらかく着地した。


「来たよ」


 眉一つ動かさない無関心顔で、ヴァレは俺らに視線を投げた。

 その小脇では、ブランが哀れな愛玩動物のように「きゅ~」と鳴きながら目を回していた。


「どうもヴァレさん。これで役者はそろいましたね」

「協力者って、ヴァレとブランか?」

「ええ。仮想イフリートには、ヴァレさんぐらいの火力が必要ですから」


 言われて、俺は無残に焼き抉られ、黒い焦土と化したコロシアムの地面を思い出した。


 ――確かに、あれならイフリートにも匹敵するだろうな。でも。


「ノエルやハロウィーじゃだめだったのか?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ