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不細工男子と美少女どちらを信じる?

 しばらくして、俺とハロウィー、そして五人の足をつかんで引きずるイチゴーたちは学園に帰還した。


 集合場所に集まった生徒たちは、俺らを見るなりぎょっとして青ざめ、ざわついた。


「すいませんケガ人です。誰か回復魔術を使ってください」


 俺の呼びかけに、数人の生徒が、そして先生たちが慌てて駆けつけてきた。

 あとは任せたと俺とハロウィーがそそくさとその場を離れようとすると、汚い怒声が響いた。


「までぇえええええええ!」


 心の中で舌打ちをしながら、俺は振り返る。

 最初に意識を取り戻したのは、どうやらリーダー格の男子らしかった。

 一番酷くやられたのに、なかなかのタフネスだ。


 隣のクラスの先生がほっとする。


「良かった。目が覚めたんですね。森の浅い場所には雑魚魔獣しかいないはずなのですが、どうしてこんな傷を?」

「こいつらぁ! こいつにやられらんらぁ!」


 俺を指さし、歯のグラつく口から血を飛ばしながら、リーダーは叫んだ。


「何を言っているんですか? ラビ君は君たちをここまで運んでくれたんですよ?」

「らからこいつがオレらを襲ったんらぁ!」

「そうだぁ!」


 他の男子たちも起き上がり、次々に口を開き、俺を糾弾してきた。


「オレらが魔獣狩りをしていたらこいつが急に襲ってきたんだ!」

「そうだ! 元貴族だからって威張り散らして、平民の分際でって!」

「オレらが倒した魔獣の素材をよこせって!」

「このゴーレムたちをけしかけてきたんだ!」

よくもまぁそんな嘘八百を並べられるなと思いながら辟易とする。

けれど、何の根拠も無い訴えを、平民科の生徒たちは鵜呑みにしていた。


「マジかよ」

「最低だな」

「これだから貴族は嫌なんだ」

「平民の稼ぎは貴族様のものってか? ざけんなよ」

「あたしらはあんたの家畜じゃないのよ!」

「先生、こいつ退学にしてください!」

「謝罪しろ! ここにいる平民全員になぁ! おい!」


 俺の言葉を一言も聞かず、みんな俺を取り囲むようにして距離を詰め、睨みつけてきた。


 五人は顔がはれ上がり過ぎて表情がわかりにくいものの、下卑た笑みで勝利を確信しているのは伝わってきた。


「ミスター・ラビ、これはどういうことですか? どうやら君には、相応の罰が必要なようですね」


 ――まずいな。


 神託スキルを発動させ、ウィンドウでイチゴーに尋ねる。


 ――イチゴー、俺の潔白を証明するにはどうすればいい?

『やまびこスキルをさいせいするー』


 ――やまびこスキル? あの録音機能のことか。じゃあ頼む。

『わかったー』


 次の瞬間、イチゴーの中から男子たちの声が大音量で聞こえてきた。

『おい!』


 自分の声に、リーダー格の男子がびくりと肩を跳ね上げた。

 生徒たちの視線も、否応なくイチゴーに集まる。


「テメェさっきはずいぶんチョーシこいてくれたな」

「貴族だからってオレらのことナメてんじゃねぇぞ」

「言っておくけどな、テメェは家を追い出された平民落ちの元貴族なんだよ」

「今はオレらと同じ平民だってこと忘れんなよ」

「いつまでも貴族気分でやっていけると思うなよオラ」


 みんなの表情が困惑に固まる。

 勝者の笑みを浮かべていた男子たちの表情が、引き攣っていく。


 そのまま、録音された男子たちの言葉は続いた。

 俺の和平交渉を拒絶し、嘲笑し、脅す。


 どちらが正しいかは明らかだった。

 みんなが囁き合う。


「なぁ、これ悪いのあいつらじゃない?」

「話が違うじゃないか」


 傾く形勢に、五人の男子たちは慌て始めるがイチゴーは止まらない。

 ハロウィーへのセクハラに、女子たちが一斉に引いた。

 その視線は汚いものを見るような、侮蔑の色に満ちていた。


「嘘だ! これは捏造だ!」

「そうだ! ラビの音魔術でオレらの声を作っているんだ」

「それかそのゴーレムの機能なんだ!」


 五人の男子は色々わめきながら立ち上がろうとして転倒。

 股間を押さえながら地面を這おうとするも、身動きが取れない様子だ。

 股間に薬草を塗らなかったのが、こんなところで役立った。


 再生が終わった頃には形勢逆転。

 流石にこの状況で男子たちの肩を持つような奴はいなかった。


「おい、これどういうことだよ?」

「どう聞いてもお前らが加害者じゃねぇかよ」

「どうやら、君たちには生徒指導室でじっくりと話を聞く必要がありそうですね」


 クラスメイトたちから詰め寄られる男子たちは、だけどまだ諦めていなかった。


「ッ、おいおいこんなことで騙されるなんてらしくないぜ!」

「そうだ。さっきから言っているだろ! これがあいつのゴーレムの能力なんだ!」

「あいつのゴーレムはオウムみたいに声真似ができるんだよ!」

「同じ平民のオレらと、クソ貴族のあいつ、どっちを信じるんだ!?」

「だいたい襲われたならなんであいつら無傷なんだよ!?」


 見苦しい言い訳。

 だけどそう聞こえていたのは俺だけらしい。

 驚きを通り越して呆れたことに、みんなの心は揺らいでいた。

 みんな、


「言われてみれば」

 とか、

「確かに」

 と納得しかけている。


 既に俺を悪者扱いして詰め寄った手前、という居心地の悪さもあるのだろう。


 振り上げた拳のやり場を見失ったところに、やっぱり俺が悪かったと思える材料が現れて、飛びつきたい気持ちでいっぱいに違いない。


 ――まずい。このままじゃ学園を退学になりかねない。


 だけどそこに、ハロウィーが助け舟を出してくれた。


「ラビは被害者だよ!」


 張り上げられた声に、みんなが注目する。

 ハロウィーはきゅっと眉を引き締め、毅然と胸を張った。


「わたし、授業の初めにこの人たちから言い寄られていたの! すごく強引に迫ってきて怖かったんだけど、それをラビが助けてくれたの!」


 詰まることなく、滔々と、堂々と喋る彼女の言葉に言わされている印象はまるでなく、誰が聞いても彼女自身の言葉だとわかる説得力があった。


「それでラビと一緒に森で魔獣狩りをしていたら、この人たちがゴーレムちゃんたちが言った通りのことを言ってきたんだよ! 先生、この人たちを衛兵に突き出してください!」


 同じ平民の不細工な男子たちと美少女の訴え。

 人がどちらに傾くかは明らかだろう。

 けれど誰かが言った。

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