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兄弟っていいよな

 だけど何故か、俺は兄さんが負けを認めた時とは違い、嬉しさがこみあげていた。


 ――今でも、弟って言ってくれるんだな……。


 劣等生の俺は、昔から兄さんとは折り合いが良くなかった。

 優秀な兄さんからすれば、俺は昔から手のかかる出来の悪い弟でしかない。


 そして俺が自立型ゴーレム生成スキルに目覚めて父さんから家を追放されても一切かばってはくれなかった。


 それで、俺のことが本当に嫌いなんだと、厄介払いができたと思っているんだろうと感じていた。


 なのに、それでも、兄弟の縁は切ろうとしない。


「兄さん、ありがとう」

「何?」


 ハイゴーレムに目覚めてから、初めて兄さんの顔に動揺が走った。


「そういえば、昔から本気の兄弟喧嘩なんてしたことなかったよな。だからこれは喧嘩だ。馬鹿な弟をしつけようとする兄貴と、分からず屋の兄貴に反抗する弟だ」


 クラウスは言った。

 いま変えなければ平民はこの先千年貴族に支配されてしまう。

と。


 兄さんには兄さんの価値観が、理念がある。


 だけど、俺はそれを受け入れられない。

 特定のグループの人が活躍しちゃいけないなんて、そんなの間違っている。

 そんな暴論がまかり通れば、貴族と平民の溝は埋まらない。

 貴族でいても、平民でいても、俺に平穏は訪れない。


 だから、クラウスじゃないけど、これは俺なりの革命だ。

 この勝利で、俺は俺のイノベーションを起こす。


「全員! リミッターを解放しろぉ!」


 イチゴーたち五人の内臓魔石が魔力を解放した。

 五人の体から感じる魔力の波動が数倍に跳ね上がり、五人の目が魔力の輝きを放った。


『みんな、いくよー!』


 五人の頭上にそれぞれストレージの赤ポリゴンが召喚。

 その中から、俺が作った魔法剣が落ちてくる。


 イチゴーたち五人はそれぞれの手に別々の種類の魔法剣を装備して、一気に駆け出した。


「お前のゴーレムも剣術が使えるのか?」

「いや、残念だけどイチゴーたちに戦闘技能はない。ただ振り回すだけだよ。でも、それでもいいんだ!」


 俺の意志を指針に、イチゴーたちは自ら考え、思考を同期させながら連携していく。


『やー!』


 イチゴーとニゴーが振るった剣から火炎と烈風が巻き起こり、それらは混ざり合い巨大な爆炎となりグリージョに襲い掛かった。


 グリージョは斬撃を飛ばすも、豪火は白銀の三日月ごと灰色の騎士を飲み込んだ。

 魔法剣は、魔力を流すと魔法石が魔法に変換してくれる。

 だから、剣術は必要ない。


 ――それにしても、凄い威力だな。


 今日の魔法剣は、いつにも増して威力があるような気がするけど、考察している余裕はなかった。


 ニゴーとサンゴーが振るった剣から烈風と水流が迸り、大渦がグリージョを巻き込み上空へ投げ上げ、続くサンゴーとヨンゴーの合体技である、雷を含んだ水柱がグリージョを感電地獄へといざなう。


 それでも、グリージョは地面に叩きつけられると同時に飛び上がり、臨戦態勢を整えた。


 互いにハイゴーレムで、斬撃を飛ばせる。


 だけど、こちらはあらゆる属性の魔法を放ち、臨機応変に対応できる。

 しかも、それはイチゴーたちのAI判断で常に最適解を瞬時に実行できる。

 これで、グリージョの強みは打ち消した。


「くっ……ッ」


 兄さんの顔に焦りが滲み出た。

 そして、グリージョは猛った。


「私は負けない! 諦めない! お前のほうが強いのは知っている! だから私はどのような犠牲を払ってでも、必ずやこの場でお前を乗り越えるんだ! グリージョ! 私の魔力を持っていけ!」


 兄さんから漲る魔力がさらにその勢いを増すと、グリージョが被る兜のスリットが鋭く光った。


 そして、虚空に無限の剣撃を放ち続けた。


 まるで達人による演武を思わせる流麗な、それでいて力強い剣撃の嵐、その一つ一つから三日月の斬撃を放った。


 まるで斬撃の弾幕だ。


 イチゴーたちが避けられないよう、全方位に向けて乱射される斬撃は夜空を切り裂き、会場の端に立つ旗を切り落とした。


 そして、その一部が客席に向かった。

 俺はストレージから鉄板を出して斬撃の軌道修正に成功。

 他の斬撃だが、一つはノエルが弾いた。


 さらに一つはブランが防ごうとしてヴァレが拳でかき消した。

 最後の一つは、ハロウィーが矢で撃ち落とした。

 威力から考えると魔力圧縮。


 時間から推定にするに、グリージョが斬撃能力を獲得した段階でもしもの時に備えて準備していたのだろう。


「みんなありがとう!」


 俺がハロウィーたちに感謝する一方で、兄さんは少し狼狽していた。

 流石に、危険な状況だと理解しているらしい。


「俺に勝つためならどんな犠牲もか。だからって、周囲へ配慮しない攻撃はどうなんだ?」


 意地悪だとわかっていても、俺は言わずにはいられなかった。

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