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兄貴補正!?

「この土壇場で、進化した!?」


 漫画なら主人公補正しか感じない展開に、俺はもとより、会場の誰もが驚愕していた。


 ハイゴーレムは、ゴーレムの上位種だ。

 一部の上級ゴーレム使いにしか作れないし、ゴーレム生成スキルを持っていても、ハイゴーレムの生成に至れる人は少ない。


 ハイゴーレム使いともなれば、身分に関係なくどの業界でも一目置かれるし、ゴーレム使いから最大の敬意を払われる。


 軍に入れば、幹部軍人からキャリアがスタートする。

 ハイゴーレム使いの人数は、軍事力に大きな影響を与えるとも言われている。


 父さんたちはみんなハイゴーレムを使っているけれど、それはうちがゴーレム使いの名門であるシュタイン家だからだ。


 世間では、一生かかっても到達できない人も珍しくない。


 そして父さんでさえ、ハイゴーレムに進化させられたのは二十歳を過ぎた頃だと聞いている。


 それを、十七歳の若さで到達した。

 これは歴史的快挙と言っても差し支えないだろう。

 だけど、兄さんの顔には油断も隙も無かった。


「これで条件は五分と五分……なんて思わないぞ」

闘志をより鋭く、より熱く、兄さんは雄弁に声音で告げた。


「ハイゴーレムになったのはお前が先だ。ハイゴーレムの使い方はお前のほうが熟知しているだろう。父さんや叔父さん、そしてお爺様を相手にする時と同じだ。私は、お前を格上のゴーレム使いとして認め全力で、緩みなく、甘えなく、全力で倒す! グリージョ!」


「■■■■!」


 全てのダメージを完治させたグリージョが、左右の腰から新たな剣を引き抜き、同時に振るった。


 刹那、左右の刃から白銀の斬撃が放たれた。


 ――斬撃を飛ばす能力。これがグリージョの追加機能か!?


 イチゴーたちは左右に転がり避けて、サンゴーだけは俺を一瞥してからバリアを張った。


 自分が避ければ、背後の俺に当たってしまうと判断したらしい。

バリアは三日月形の斬撃を受けてヒビが入り、一秒後に砕けた。


「サンゴー、俺のことはいい! 攻めることだけを考えるんだ!」


 ――一撃でサンゴーのバリアを破壊した。コマンダーメイルの四連突き並みの貫通力がある攻撃を遠距離から放てるなんてヤバいだろ!?


「まだだ、行けぇグリージョ!」


 グリージョは左右の剣をさらに連続して振るった。

 その度、白銀の三日月が放たれ、壇上を八つ裂きにしていった。


 ――しかも連射できるのか!?


 斬撃が真横をかすめると、衝撃で前髪が暴れ、風圧に思わず目をつぶった。

 俺は飛来する斬撃をなんとか避けるも、近距離なら絶対に喰らっていただろう。


 グリージョの斬撃は速さもあった。


「逃げるばかりでは勝てないぞ?」


 グリージョは斬撃を飛ばしながら密かに距離を詰めていた。

 イチゴーをかばうように、サンゴーが前に出た。


 自分の腹にだけ一枚のバリアを張るも剛剣はバリア越しでも容赦なくサンゴーを叩き飛ばした。


 壇上の端まで吹き飛んだサンゴーのボディには、鋭利な横一文字が刻まれていた。

 バリアを挟んでもあの威力。

 グリージョのスペックは、さっきまでの比ではなかった。


 それでもやることは変わらない。


 イチゴーたちは二人が足元をかきまわし、もう二人が二本の剣の相手をして、最後の一人が隙を見て攻撃するという方法を繰り返した。


 それでも、格段にスピードアップしたグリージョには通じなかった。


 足元の二人は蹴り飛ばされ、他の二人も剣で叩き飛ばされて、背後から突撃したニゴーは脇から背後に突き出された剣尖の餌食となった。


「みんなっ!」


 イチゴーたちは壇上を転がりながら、すぐに跳ね起きてすぐに連携しながらグリージョに肉薄した。


 けれど、五人の攻撃も、機能も、グリージョには通じなかった。


「このまま畳みかけるぞグリージョ! 魔獣型ゴーレムを叩き潰し、ラビが救世主ではないことを民衆に教えてやれ!」


 兄さんはイチゴーたちの動きを警戒しながら、声高らかに演説を始めた。


「ラビ! スキルに目覚めてからのお前の活躍は素晴らしい! コマンダーメイルや二年生の強豪生徒ダストン、さらにはドレイザンコウを倒し、王都郊外の町を洪水被害から復興させ、あまつさえ学園を革命軍のテロ行為から救った。魔獣型ゴーレム使いの範疇を逸脱した快挙だ!」


 急に俺を賞賛し始めた兄さんは、だが、と続けた。


「人には犯してはいけない領分というものがある。お前の過ぎた活躍は民衆の目を曇らせる。魔王と同じ魔獣型ゴーレム使いのお前が救世主、女神の後継者という噂がそのいい例だ。私はゴーレム使いとして、貴族として、貴様を救世主だと勘違いする民衆の目を覚まさせる責務がある! 何よりも、お前の兄としてな!」


 兄さんの指が、鋭く俺を指し示した。


「お前は救世主なんかじゃない! ただの一ゴーレム使い! 私の弟ラビだ!」


 俺を否定するようなその言葉に、他の貴族たちもそのとおりだと追従した。

 だけど何故か、俺は兄さんが負けを認めた時とは違い、嬉しさがこみあげていた。


 ――今でも、弟って言ってくれるんだな……。

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