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再びの

 ――これがリアルレスバか。


 と俺が呆れると、新しい人物が壇上に姿を現した。


「ならば私が相手になろう」


 声の主は、兄さんだった。


 至極真面目な顔で俺を見据え、力強い足取りで俺に歩み寄ってから民衆へ声を上げる。


「私はシュタイン伯爵家次期当主! フェルゼン・シュタイン! ラビと同じ王立学園の生徒であり冒険者ランクはDランク! 此度はコロシアムの警備を担当するため救世杯には不参加だった。しかし、私が勝てばラビは王者不在の優勝者。聖主者にはふさわしくないと言える。違うか?」


 会場の人たちが戸惑うと、兄さんは貴族老人たちにも言った。


「貴方がたが問題視しているのは人型ゴーレムが魔獣型ゴーレムに負けたということ。なら、同じDリーグで貴族で人型ゴーレム使いの私が勝てば問題ないでしょう。何卒、この決闘を承認していただきたい」


 兄さんの言葉に、貴族老人たちは気を良くして勝手に決闘を承認した。


 ――もしかして、わざと負けてくれるのか?


 という淡い期待は、兄さんの眼差しですぐに砕かれた。

 兄さんは俺に向き直ると、冷たい闘志滾る双眸で俺を睨んできた。


「ラビ。お前との決闘は中途半端に終わっていたな。今度こそ決着をつけてやる。そしてお前に思い知らせてやろう。兄より優れた弟などいない。そして、魔獣型ゴーレムは人型ゴーレムに勝てないということをな!」

「兄さん……」


 演技じゃない。

 兄さんは本気だ。

 本気で、俺を倒そうとしている。

 どうして?


 昼間、俺がエルフ型ゴーレムとの通信したことを知り、兄さんのプライドは傷つけられた。


 だけど、それはもう解決したはずだ。

 俺のコロシアム内での営業も手伝ってくれた。


 なのにどうして、こんなにも強い敵意を向けてくるんだ?


 兄さんは、俺を認めてくれたんじゃないのか?

 俺の疑問が尽きないまま、兄さんはグリージョを召喚した。

 灰色の騎士が左右の腰から剣を抜いて、俺にその切っ先を突き付けてきた。


「さぁラビ! 決闘開始の合図はいらない。早くかかってこい!」


 兄さんが勝手に決闘を始めると、貴族老人やレッドバーン卿、そしてエリザベスや宰相、イースターは壇上から逃げて行った。


 だけど、逆に軽い着地音が背後に立った。


「フェアじゃないね」


 振り返った先に佇んでいたのは、ヴァレだった。

 目深に被ったフードからうかがえる絶世の美貌は無関心で無愛想そのものだ。

 エメラルド色の視線が、イチゴーたちを見下ろした。


「貴様は確か……」

「Aリーグ優勝、ヴァレンタインだ。ラビのゴーレムは試合で消耗している。せめて魔力を補充しないと」


 そう言って、ヴァレはしなやかな足取りでイチゴーたちに歩み寄ると、全身に淡い光を帯びた。


 その光がイチゴーたちに降り注いでいく。


 ――まさか。


 スキルウィンドウでイチゴーたちの画面を開いた。

 五人の魔石の魔力残量がみるみる溜まっていく。

 わずか数秒で、全員満タンになった。


「はい、終了っと」


 ――見ただけでイチゴーたちの魔力が消耗していることを見抜いて、マスターの俺じゃないのに勝手に魔力を供給した? ヴァレって何者だ?


「じゃ、あとはキミ次第だよ。ボクはバニーのところに戻るからね」


 それだけ言うと、ヴァレは俺にお礼を言う時間もくれずに壇上から飛び降りてしまった。


 彼女の尋常ならざる雰囲気に、会場の人は道を開けた。

 その背中を見送る俺に、兄さんの声がかかった。


「どうしたラビ? 早くかかってこい、でなければこちらから行くぞ」

「待ってくれ、兄さん」

「行けぇグリージョ! 愚かな魔獣型ゴーレム使いに女神の鉄槌を下してやれ!」

「■■!」


 グリージョが金属音を鳴らしながら容赦なく突進してきた。

 ヴァレの正体は気にかかるも、今はそんなことを気にしている場合じゃない。

 兄さんの真意もわからない。

 わからないことだらけだけど、これだけは確かだ。


 ここまで明確に上級貴族から目を付けられた以上、兄さんに勝たないと、俺は終わりだ。


「全員出撃だ!」


 俺が言葉ではなく、脳内通信で直接イチゴーたちに指示を出すと、みんなは一斉にグリージョへ駆けて行った。


 グリージョが両手の剣を同時に振り下ろすも、イチゴーたちは床を転がり散会。華麗に避けた。


 そして五人のうち二人が二本の剣を、二人が足元をかき回し、最後の一人が背後から攻撃する。


 これを基本としながら、グリージョにダメージを蓄積させていった。


「■■■■」


 グリージョは強い。


 ディーヴァの手足がそうであるように、二本の腕を縦横無尽に操り、イチゴーたちの攻撃を受け流し、弾き、防ぎながら攻撃に転じる。


 その動きは剣の達人を思わせた。

 十七歳。Dランク冒険者のゴーレム使いでこの実力。

 やっぱり兄さんは天才だ。


 シュタイン家期待の星で、次期当主として周囲からの信頼が厚いのは伊達じゃない。


 だけど。

 イチゴーがグリージョの頭上にストレージの赤ポリゴンを展開。

 その中から落ちてきた物を、グリージョが叩っ切る。


 が、それが悪手だった。

 イチゴーが取り出したのは、とりもちのように粘着性の高い粘土の固まり。

 グリージョの剣にはべっとりと粘土の塊が付着し、刃は完全に死んだ。

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