推理ショー!
「はぁっ!? 話が飛躍していますわ!」
あくまで反論するエリザベスに、イースターは声のトーンを落として淡々と解説した。
「理由は簡単。まず、釘が熔けていることから火事の炎は一四〇〇度以上であることがわかります。そんなものは自然に発生しません。つまり人為的な炎です」
「ですから、マジックアイテムやゴーレム生成の機材が暴発したのではなくて?」
「いいえ。火元のは床の中央。ですが機材は机の上にありました」
「ッッ」
エリザベスは言葉に詰まった。
そしてイースターは畳みかけた。
「さらに、窓が部屋の中に向かって壊れているということは誰かが外から人為的な火種を投げ込んだということ。しかし、平民科の生徒なら寮の中、廊下側の窓から犯行を行えます。何故犯人はわざわざ目撃されるリスクの多い外から寮に向かって犯行を行ったのか。それは犯人が平民科男子寮に侵入すると目立つ人物。つまり、貴族科の女子生徒ということなんですよぉ」
イースターの顔が、意地悪く笑った。
「だとしても、何故ワタクシが犯人になりますの!?」
「あなた、第一発見者ですよね? 消火を依頼したのはあなたとか」
「そうですわ。ワタクシは放火犯どころか寮の全焼を未然に防ぎましたわ」
エリザベスは得意げに胸を張った。
「言っておきますが、も、し、も、ワタクシが犯人なら火炎呪文を撃ち込んでその場から離れますわよ?」
「それができないんですよ」
イースターはくるくると指を回しながら、饒舌に語った。
「だって発見が遅れて寮を全焼させるわけにはいきませんからね。かといって床や壁を焦がした程度で消火されたらラビを退寮に追い込めない。それなりの被害を確実に出しながら他の部屋に被害を出さないようにするには、広域火炎呪文を撃ち込み部屋全体を焼いた直後にすぐ消火。それが一番です」
エリザベスは、やや言葉に詰まった。
「な、なら、平民科の生徒を使って消火するよう命令致しますわ」
「それはつまり、自分が放火したという秘密を平民に握られるということですよね? そもそもそれができるなら放火も平民科の生徒にやらせるはず。自身が実行犯になっている時点で、人を使うことができないという証なんですよ」
「ッ、さっきからなんなんですの!? 釘だの窓が内側に壊れているだの、なんでそんな都合よくワタクシを犯人扱いするような証拠ばかり出てきますの!? 貴女のでっちあげではなくて?」
指をさされたイースターは、茶目っ気たっぷりに笑って自分のおでこを叩いた。
「いやぁ、すいません。これ、ワタシのスキルなんですよ」
「スキル?」
「えぇ、観察スキル。それがワタクシが女神様より賜った力です」
エリザベスは怪訝そうな顔をした。
「なんですのそれは? 聞いたことがありませんわ、鑑定スキルとは違いますの?」
――まぁ、そういう感想になるよな。
「似て非なるスキルですね。鑑定スキルは対象の情報を得るものですが、観察スキルは対象の存在そのものに気づくスキルです。どれだけ優秀な鑑定スキルを持っていようと、鑑定すべき対象に気づかなかったら意味がないでしょう。しかし観察スキルは、視界に入る全ての存在や違和感を漏らさず認識できるんです」
「つまり他の人から見れば『焦げた火事場』でひとくくりでも、イースターにはあらゆる情報の集合体として認識できるってことらしいぞ?」
「おっしゃる通りです」
俺の補足に、イースターは大きく頷いた。
「どんな小さな証拠も、差異も見逃さない。だからそこから生じる違和感から分析できる。それが、大名探偵イースターちゃんの強みです!」
イースターは見えないイマジナリースポットライトでも浴びるように両手を広げて胸を張った。
その大胆不敵すぎる威風堂々たる姿に、エリザベスもやや怖気た様子だった。
「ッッ、で、ですが全て貴女の想像ですわ! 決定的な証拠が無いではありませんの! それに今は本来、ラビが聖主者に相応しくないという話のはずです! 百歩譲って、仮にワタクシが放火犯だったとしても、ラビが聖主者に選ばれるわけではありませんわ!」
エリザベスが全力で論点をズラそうとすると、他の貴族老人たちも尻馬に乗っかった。
「その通りだ! 自身が聖主者になりたいがあまり、エリザベス君を貶めようとはなんと卑劣な!」
「これだから卑しい身分の下民は嫌いなんだ!」
「ラビ、貴殿も元貴族なら貴族らしく決闘で勝ち取って見せよ! Bリーグ優勝者の王室騎士と決闘するのだ!」
――俺を平民扱いしたり貴族扱いしたり忙しい連中だな。
という指摘を俺がする必要もなく、観客が味方してくれた。
「Bリーグ相手に勝てるわけねぇだろ!」
「貴族はどこまで卑怯で汚いんだ!」
「王室騎士ってテメェの身内だろ!?」
「黙れ下民共! 全員縛り首にされたいか!」
貴族老人の中で、とりわけ強気な老人が怒鳴り散らした。
――これがリアルレスバか。
と俺が呆れると、新しい人物が壇上に姿を現した。
「ならば私が相手になろう」