迷探偵イースターちゃん爆誕!
「でもエリザベスって学生寮放火犯ですよね?」
ちょうどざわめきの隙間を縫うようなタイミングで、俺は冷静に、だけど声を大にして疑問を投げかけた。
エリザベスの表情がわずかに硬直した。
他の貴族老人たちは怒りをあらわにして怒鳴った。
「貴様言葉が過ぎるぞ!」
「卑しい身分の分際でエリザベス君を犯罪者呼ばわりか!?」
「衛兵! 今すぐこの下民を不敬罪で打ち首にしろ!」
怒り心頭に発する老人貴族たちをよそに、俺は淡々と答えた。
「でも本人がそう言っていましたよ? ほら」
俺の合図で、イチゴーからエリザベスの声が大音量で流れた。
それは試合中にエリザベスが口にした俺への挑発。
意気揚々と、寮を燃やしてやった、追い出してやったと嘯く声音だった。
会場がさらにどよめき、そこからエリザベスへの非難の声も上がった。
旗色が悪いと悟ったのか、老人貴族たちはたじろぎ、レッドバーン卿は娘を睨み下ろした。
「エリザベスよ、確かにこの声は貴様のようだが?」
厳格そうな父親の眼光に、エリザベスは狼狽を露わにして絶句した。
そして、声を絞り出すように叫んだ。
「あ、あれはただの挑発ですわ! 調子に乗っている平民を煽っただけのこと! 確かに貴族としての品性を欠いていたかもしれません! ですが、そう口にしたからといって、放火をした証拠にはなりませんわ!」
貴族たちはそうだそうだとエリザベスの肩を持った。
「エリザベス君の言う通りだ!」
「貴様は自白と挑発の区別もつかないのか!?」
「学のない者は意訳ができなくて困る」
周囲の様子から、エリザベスは勝利を確信した笑みを作った。
以前、俺とハロウィーが不良たちに襲われた時も同じような展開だった。
けれど、それは貴族相手でも同じらしい。
宰相も、少し考えるそぶりを見せるも、困っている様子だった。
――くそ、また駄目なのか……。
さすがに死刑にはならないだろうが、不敬罪で学園を退学ぐらいは覚悟すると、空気を欠片も読まない声が割り込んできた。
「狼藉はそこまでですよお貴族の方々!」
老人貴族たちとは反対側の階段から現れたのは、亜麻色の髪と眼鏡が印象的な残念美少女、イースターだった。
彼女は謎のポーズをキメながら、大音声を張り上げた。
「ぅわが名はイースター・D・エイプリル! 今世紀最高の大名探偵にして救世主の導き手! この難事件を見事解決へ導き、そしてラビの無実を証明してみせましょう!」
その場の空気が固まった。
貴族老人も、宰相も、レッドバーン卿でさえ、誰かに説明を求めるように視線を逸らした。
そんな大スベリを超えた超スベリが極まった中、ただ一人、絶対王者の余裕スマイルを浮かべる豪の者がいた。つまりイースターだ。
よく見れば、その足元ではヨンゴーが『わたしはじょしゅのワトソンです』とウィンドウを出している。幻影機能で、体にベストとネクタイまで映している。
――お前、完全にそっち側なのな。
俺の心配をよそに、イースターは胸元に手を突っ込むと、七つ道具を取り出すようなオーバーアクションで一本の釘を掲げた。
「王都の皆様! これをご覧下さい!」
エリザベスが眉間にしわを寄せた。
「それがなんですの?」
「ふっふっふ、これは燃えたラビの部屋の釘です。見てください、熱で熔けているでしょう?」
「火事現場に落ちていたのですから、当然ではなくて?」
「チッチッチッ、それが違うのですよ!」
弁護の余地がない奇人性を欲しいがままにして、王都中の好奇の視線を着こなしながらイースターは明朗快活に叫んだ。
「ここで商人にして大魔法使いのワタクシからサイエンスのお時間! いいですか? 鉄が溶けるのは1400度。しかし紙や木を燃やしても炎の温度はせいぜい800度。鍛冶師よろしくよっぽど空気を送り込まない限り木造建築物が燃えて鉄が熔けるわけがないんですよ! まぁ、長時間熱し続ければ別かもしれませんが、今回はボヤ程度! しかもすぐ消し止められています!」
会場の空気が徐々に変わる中、イースターは表情をゲスく歪めていく。
「あれあれぇ? おかしいですねぇ。じゃあなんででしょう? なんで釘は熔けているのでしょうねぇ? しかもぉ、火事の時、窓って熱膨張で外に向かって壊れるんですけど、ラビの部屋の窓の破片は部屋の中に落ちていました。つ~ま~り~、あの火事は鉄を熔かすほどの火力を扱える貴族科の生徒による放火だったのですよ!」
「はぁっ!? 話が飛躍していますわ!」
あくまで反論するエリザベスに、イースターは声のトーンを落として淡々と解説した。